episode01 sideクロ
「にゃ、にゃ、にゃ~~!?!」
「はぁー気持ちいいねぇ、クロ」
出会った森の奥深く、君の家は周りを泉に囲まれた浮島にぽつんと建っていた。
三角屋根の可愛いお家。
僕は日当たりも良くて自然の音が心地いい君の家をすぐに気に入った。陽がよく差し込む窓際に僕専用のベッドを置いてもらって、今ではすっかり特等席さ。
君との暮らしには満足してるよ?
でも、箒で空を飛ぶのはなかなか慣れないなぁ!
「さ、クロ。そろそろ森を抜けるよ。スピードを上げるからしっかり掴まっていてね」
「んにゃ!?」
いやいや、ちょっと、スピード下げてくれない?
すでに落ちそうなんだけど……
ほら見て? 僕のキューティクル煌めく黒髪が強風に晒されてペタンと寝てしまってるだろう?
それなのに、これ以上スピードを上げるって? 聞き間違いかな? 聞き間違いだよね?
っていうかこの細い柄に掴まれってさ、猫がいくら器用でも、吹きっさらしの中それは酷なんじゃない!?
落ちたら死ぬよね?
それに風が強過ぎて目が乾くんだよ!
びゅううっ
「にゃ、にゃぁぁぁぁぁ!」
「わっ」
ほら言わんこっちゃない!
僕は呆気なく突風に攫われてしまった。
内臓がヒュッと無重力状態になったかのように、体内に宇宙が生まれる。地に足もつかず、何にも縋ることができないというのは、こうも恐怖を感じるものなんだね。
悪戯好きの秋風さんやい、いくら僕が愛らしいからって、攫うのは良くないなぁ。
ほんと、短い人生、いや猫生だったよ……
「クロっ!」
ふわっ
僕がこの世と別れを告げようとしていたら、身体が温かな光に包まれてふわりと浮いた。そしてそのままふよふよと君の元へと回収されていく。
そうか、君は魔女だもんね。魔法を使えるんだった。
「ごめんクロ、もっと気をつけるべきだった」
「んなー」
そうだよ、僕はいつもそう訴えていただろ?
ちょっぴり不服な声で答えたからか、君は少ししょんぼり肩を落としてしまった。
むむむ、そんなに落ち込まれると何だかいたたまれないなあ……別に君と空を飛ぶこと自体は嫌ではないんだよ。普通の猫には経験もできないことだしね。実はちょっぴり誇らしかったりする。安全面に配慮さえしてくれれば……って落ち込む君に追い討ちをかけるのはよくないね。
仕方がないので、僕を抱きしめる手にスリ、と顔を寄せた。チラリと上目遣いで君の表情を読もうと試みる。ううん、帽子を目深に被っていて分かりにくいなあ。
僕の行動に、君は少し驚いた後、嬉しそうに頬を染めてギュッと抱き締めてくれた。少しその手は震えていた。
帰ってから、君は箒に乗る時に羽織るローブをしつらえて、胸元には大きな内ポケットを作ってくれた。
そう、僕の身体がすっぽり収まるぐらいの大きさ。
僕はここに入ってローブの首元からひょっこり顔を出すって寸法らしい。
完成してから早速箒に乗って空を飛んだけど、ローブに包まれてるから振り落とされることもないし、君の体温を感じてぽかぽか温かい。なんだか安心して眠くなっちゃうな。
僕は空を散歩するときは、ポケットの中で丸まって寝ているか、首元から顔を出して景色を眺めるかのどちらかの過ごし方が定着した。
ちょっとずつ僕の特等席が増えていくのも悪い気はしないね。
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