黒猫のクロ〜優しい魔女に拾われた僕のちょっとした恩返し〜【改訂版】

水都ミナト@【解体嬢】書籍化進行中

Prologue sideクロ

 僕はなんの変哲もない可憐な黒猫さ。


 名前はまだない。

 だけど、恐らく、数秒後には名付けられるんだろうな。

 かっこいい名前を頼むよ。


「うん、お前の名前はクロ。黒猫のクロ、どう?」

「……にゃー」


 どうと言われましてもね。

 黒猫だからクロって、短絡的過ぎないかい? 黒から取るなら……うーん、ノワールとかどう? 我ながらなかなかイカしてると思うんだけど。


「クロ……うん、決まり! クロ、これからよろしくね!」

「……んにゃあ」


 ……どう足掻いても僕の名前はクロらしい。


「うふふ、魔女の相棒は黒猫って相場が決まっているでしょう? アナタと出会えたのもきっと運命ね」


 そうなの? 初耳なんだけど。 

 まあいいや、なんだか嬉しそうだし。僕も寝床と食事の心配がなくなる。まさか魔女に拾われるとは思いもよらなかったけど、何だか楽しそうだしついて行ってあげる。


「ああ、私の名前はノエル。これからよろしくね、クロ!」

「にゃ」


 握手を求めてか差し出された手に、よろしくの意味を込めて肉球をむにゅっと押し当てると、君は本当に嬉しそうに頰を桜色に染めた。


 ザァザァと森の木々が僕たちの出会いを祝福するように揺れている。


 え? よかったなって?

 まあね、一人でのんびり生きるのも、気楽だったけどね。そろそろ話し相手が欲しいと思っていたから、ちょうどよかったよ。うんうん。


 ふんっ、と鼻を鳴らすと、君は僅かに目を見開いて楽しそうに笑った。その笑顔にあたたかな木漏れ日が降り注いで、キラキラと輝いて見える。なんだか世界が色を濃くしたように錯覚しちゃうね。


「クロ、こっちだよ。お家に案内するね」

「うにゃー」


 楽しそうに少し跳ねるように歩く君を追って、しなやかで美しい手足を優雅に動かす僕。


 さてさて、魔女の住む家とはどんなものなのだろう。

 うん、ちょっぴり楽しみだ。


「にゃ、にゃ~~~~!?」

「しっかり掴まっててね」


 ――魔女の箒初体験はちょっぴりトラウマになったけど。

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