第0話 正の王

艶のある重厚な扉、兵士が押して開かれていく。

真っ赤なカーペット、辿って見えるのは王冠を被る国の長。

僕が玉座まで歩くとライト王は口を開いた。

「よくぞ来てくれた。勇敢なるもの――雄たる勇者よ!」

海波に揺られ平を越え、僕はようやくここ、プロトン大陸のライト都に辿り着いた。

この長旅の疲労を振り払うように王は僕を祝福した。

「話は聞きました。魔の王が現れたのですね?」

「いかにも。お主を呼んだのは他でもない、その悪しき王を倒してほしいのだ――――今から数年前、儂も疑ったが、魔物が現れたという伝言が届いた。魔物などいないと思っておっ たが、確かに儂もその姿を確認し、兵に処分させた――だがそれは始まりにすぎなかった、大陸の各地で魔物が発生し始めたのだ。

何度倒してもキリはなく、しかしそれでもその原因を調べさせていた、するとあることがわかったのだ。魔物は西の大山から下りてきていると、そしてそこ登った兵によれば城があったと――魔王が現れたのだ、その発見から数週間後に魔物の軍勢とともに、山から下りてきた魔王の姿があったのだ。――戦が始まった。魔物はそれほど強くないと思っていた、それまでに発見された魔物は貧弱であったからな。しかし軍勢は手強く、幾度もなく現れるしぶとさがある。なかなか苦戦を強いられておる――――それから今、魔の軍勢は抑え込めていはいるが、やはり難儀なもので、魔物は増えるばかりで終わりが見えない。

奴らは今、我々を苦しめている。魔の王は、伝承によると、光の力を持つ勇者にしか封印できないと言われている。」

王は僕の恰好を上から下まで隅々と見ている。

それが終わるとまた話し始めた。

「勇者よ――悪しき王は強く、古の勇者は三種の神器、聖剣、聖鏡、聖玉を用いて激しき戦いの末に封印したという。そしてそれらは今や行方が分からぬ。しかして奴を倒すためには神器は必要であるはずだ――勇者よ、三種の神器を見つけ出し、悪しき王を倒してくれぬか。この大陸に平和を取り戻してはくれぬか」

魔物が現れ、それを束ねる魔王も現れ、大陸は危機に瀕している。

それを黙って見ているわけにはいかない。

「もちろんです。僕は勇者、人々が魔物に苦しめられているのを放っておくわけにはいきません。必ずしも魔王を倒してきます」

「そうか。ではこれを渡そう」

王は兵を呼ぶと、飾りのついた小箱が運ばれてきた。

僕はそれを渡され、開けると、中には金色の水晶が煌めいていた。

「これはなんですか」

「実を言うと、それは三種の神器の一つ聖玉だ。聖玉は見つけておったのだ」

聖玉。魔王を封じたという聖なる玉。

僕は慎重に聖玉をしまった。

「悪なる王は大陸の西にある大山の頂上に陣取っている。残り二つの神器を見つけ出し、倒してまいれ」

「はい、必ず皆を救ってみせます」

そのために勇者になったんだ。

王座の間を後にし、僕は城の外へ出ていった。


――――城門をくぐると、大衆の声が聞こえてきた。


「あれは勇者様だったのかねぇ、まだ若いけど」

「伝承でも勇者は若き男だったじゃろ」

「これでようやく、ダレン村に戻れる。妹に会えるわ」

老父と老婆、若い女性、子供、誰もあまり元気がない。

これも魔物による不安から来ているのだろう。

「――勇者様だ!」

小さい男の子と女の子が走ってきた。

その目は輝かしい。

「悪い魔王なんて絶対倒してくれよな!」

「お願い、お父ちゃんにこれ渡して!」

僕は女の子から赤いバラを受け取ってしまった。

この子の父さんって誰だろう。

「――ちょっと、何してるの!」

「わ、逃げろ! ほら行くぞ!」

向こうから若い女性が走ってくる。恐らくこの子たちの母か姉だろう。

男の子はすぐに逃げていったが、女の子は何か躊躇している。

「あ、えっとお父さんの名前はイーサン、隊長! あっ――!」

女の子は急いで逃げていった。

走っている子供たちは陽気で、鬼ごっこみたいに楽しんでいる。

あれでは追いかける大人も大変だろう。

「でもそれでいいんだ」

これが在るべき形なんだ。平和なんだ。

子供たちが元気でいられる世界。

それを守るために僕は戦うんだ。

「よし、頑張ろう」

真っすぐな道を僕は歩いていく。

恐れるものはなにもない。

全ては平和のために、正義のために。

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