私はA5ランク

@KiBno

第1話

あるところに、とてもやさしいおうじさまがいました。

びんぼうなびょうにんにはじぶんのざいさんをわけあたえ、

やどのないたびびとにはねどこをかしてあげました。

なのでこくみんやへいたいのひとたちはおうじさまのことをそんけいしていました。


あるとし、それはそれはさむいふゆがおうじさまのくににおとずれました。

うみはこおり、かわもこおり、はたけのやさいもこおりました。

こくみんたちがたいせつにそだててきたかちくたちもこおりました。


たべものがすくなくなってこまりはてたこくみんたちにむかっておうじさまはいいました。

「みんなでちからをあわせてはるをまとう。そうすればまたやさいもそだてられる。」

おうじさまのことばでみんなげんきがでました。おしろのたべものもわけあたえ、

へいたいもやまやもりにいってたべものをさがしにいきました。


しかしなかなかふゆはおわりません。だんだんおしろのしょくりょうもなくなって、

やまやもりからもたべものがみつからなくなりました。

いよいよたべるものがなくなったとき、おうじさまはおもいました。


「わたしがたべものになろう」


そうしておうじさまとへいたいのはんぶんははたべものとなり、

のこったへいたいがこくみんたちにおいしくわけあたえました。

こくみんたちはおうじさまにとてもかんしゃしました。


そうしてなんとか、はるをむかえました。

こおったうみやかわはとけ、はたけのたねは‘め’をだしました。

こおったかちくはもとにはもどりまえんでしたが、だいじょうぶ。

いまでもおしろのなかではへいたいさんがたべものになってくれているのですから。

めでたしめでたし。



…懐かしい、夢を見ていた気がする。めずらしい、いつもはちゃんと熟睡しているのに。


  773「ナナナナサン」の覚醒を確認しました。おはようございます。


枕元のタブレットの声に目を覚ました。この世界で私たちのことを識別番号で呼ぶのはこいつだけだ。みんなは語呂合わせで「ナナミ」と呼んでくれるし私も他の人を識別番号では呼ばずに696「ロクロー」とか024「オーニシ」とか呼んでいる。姓と名がバラバラなのはご愛嬌だ。一応男の人には男の名前を、女の人には女の名前をつけられている。


…朝ごはん食べよう。


 まだ起きたばかりの体を動かして給餌室へ向かう。向かう途中、ロビーでロクローに出会った。朝起きた時にはいなかったからもうとっくに食事を終えているのかと思ったら、起きた時間はそんなに変わらなかったみたいだ。

「おはよう」ロクローはいつも通りだ。「うん、おはよう」「なんか疲れてる?」「久しぶりに夢見たみたいで、、」「珍しいよね、20歳で夢見るなんて」「ね、」ロクローはそれ以上何も聞かなかった。


「次、ナナミさん、3番に入って。」


アナウンスで呼ばれたのでロクローの元を後にした。夢を見ていたからなのか、それとも単に健康的なだけか、とてもお腹が空いている。早くお腹を満たしたい。3番給餌室に入ると、いつもより多くの人がいた。今日は珍しいことが続く日だ。いつもなら待つことなく食事にありつけるのに、順番待ちの列が給餌室の外まではみ出してしまっている。

これではしばらく待ちそうだ、こんなに混んでいないならまだ呼ばなくてもよかったのではないか?と文句を垂れそうになったが、誰かに聞かれてもめんどくさいし、言ったところで何か変わるわけでもないので、黙って待つことにした。


待っている間少し給餌室の中を観察していると、どうしてこんなに混んでいるのかわかった。いつもより職員の数が少ない。風邪で欠員が出たのだろうか?


不意に、後ろから職員の人がぶつかった。

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