第2話
彼女の名前は、
だから、すでにこの状況についても少し詳しかった。
「じゃ、じゃあ、やっぱりここって今、出口がなくなっちゃってるっていう……?」
「うーん。そーゆーことっぽいねー」
すでに何度も確かめていて、それについては疑う余地なんかないって感じの表情でうなづくミクさん。絶望っていうよりは、諦めからくる達観って感じの、乾いた笑いとため息もつく。
「つか……出口がないだけじゃなく、もはやどうやっても出られんくなっちゃってるー、って言ったほーが正確かも」
「そ、そんな……」
一応、私の方でもそれを確認してみた。つまり、ドアがなくなっちゃった壁に体当たりしてみたり、工具コーナーからもってきた木槌でぶん殴ってみたり、そのへんの物を手当たりしだいにぶん投げてみたりしたんだけど……全部、効果はなし。その壁は分厚いコンクリートみたいにビクともしなくて、投げた物もそのままはね返ってくるだけだった。
ちなみに、事務所とかに通じてるはずのバックヤードへの扉も、出入り口とおんなじようになくなっちゃっていた。
しかも、さらに不思議なことには……。
「ここってさー、私が知ってるどのダイソーとも、びみょーに違うんだよねー。えりかちゃんも、そんな感じ?」
「え……」
最初、ここは私がいつも来ているダイソーで、そこから何故か出口がなくなって閉じ込められちゃった……っていうことなのかと思っていたんだけど。どうやらそうではないらしい。
よくよく見てみたら……私が知ってるいつものダイソーとは、トイレ用品とお風呂用品の通路の位置が逆だったり。入口すぐ右手にあるはずの観葉植物と野菜の種コーナーが、奥まったガーデニングコーナーの隣に来ていたり、見慣れない棚とかが増えてたりしている。
だから、実はいつものダイソーから出口がなくなっちゃったわけではなく、私はいつの間にか、もともと出口がない「不思議ダイソー」に迷い込んじゃった、っていう状況らしいのだ。
まあ……どっちにしてもここから出ることが出来ないっていう点では変わらないから、それが分かったところでどうしようもないんだけど。
「正直意味わかんなすぎてマジ最悪って感じだけど……でも、アレだよねー? ここがセリアやキャンドゥじゃなくってダイソーだったのは、不幸中の幸いって感じかもねー?」
「……え?」
突然、そんなことを言って笑うミクさん。
「ほら、だってさー。セリアやキャンドゥより、ダイソーのほうが食べ物たくさんある印象ない? いつまでここにいなきゃいけないのか分からんけど、しばらくは餓死の心配はなさそうでしょー?」
それから彼女は、おもむろにバレンタインコーナーのところにあった板チョコを手に取る。そして、健康的に生え揃った前歯でそれに噛み付いて、バリバリと食べ始めた。
未だに自分の置かれている状況が完全には理解できてない私だったけど……、
「は、ははは……」
そんな彼女を見ていると不安や苛立ちみたいなネガティブな感情はどこかへ行ってしまって、無意識のうちに脱力した笑いをこぼしてしまうのだった。
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