出口のない100円ショップで、キレイなおねーさんと出会う話
紙月三角
第1話
「本屋に行くとトイレに行きたくなる現象」に名前があるくらいなんだから、「ダイソーに買い物に来たのに、いざ店に着くと何を買いに来たのか思い出せない現象」にも名前ついてないの? もしないなら、考案者特権で私の名前――「安藤えりか現象」なんてつけちゃったりして……ああ、それって結局ただの老化か。
一応、まだギリで二十代だからこそ言えるそんな自虐ネタを頭の中で考えて、一人ほほ笑む私。いや……そもそも「本屋トイレ現象」の名前もイマイチ思い出せてない時点で、割と冗談になってないのだけど。
ド田舎と言い切るには、少し栄え過ぎているような。でも、間違っても都会とか市街地なんて言うことはできないくらいには、ちゃんと
いつもの仕事帰り、私はその施設内にあるダイソーにきていた。
ダイソーなんて安いだけで品質ショボくて、結局百円ドブに捨てるようなもの、なんて思ってる人いるかもしれないけど。意外と掘り出し物があったりするんだよ?
だから、何も用がなくてもついついやってきちゃうくらいには、割とダイソー愛用者な私のわけだけど……。でも今日は確かに、何かを買いにきたはずだったんだけどな。「安藤えりか現象」を絶賛発動中の私は、その「何か」を思い出す事を期待して、店内を巡回し始める。
入口すぐのところに作られた季節ものコーナー――もうすぐバレンタインだ――は……もちろん違う。そこをまっすぐ進むと、右手にガーデニングとかペットグッズ、左に文房具コーナー。うーん……これも違う。突き当りまで行って、店内を半時計回りに進む形で左に曲がる。右側の壁にはプラスチック製のゴミ箱とか収納ケース系が並んでいて、左はキッチン用品やトイレ用品、お風呂系商品がある通路が伸びている。
あ、排水溝用のネットが終わりそうだったような……いや、それはこの前来たとき買ったわ。
何を買いに来たのか思い出すこともなく、無意味な巡回……というか、もはや徘徊?をしつつ、左に曲がる。申し訳程度に、右手の壁にある冷蔵庫で冷えてた炭酸ジュースとその近くにあったマスカットのノンシュガーのど飴を手に取って、さらにもう一度左に曲がる。すると、ちょっと前に有人から置き換わったセルフレジがあって……あ、あれ?
え、えっとぉー……。
板チョコとかラッピンググッズが並ぶ、季節ものコーナー……ガーデニングとペットグッズ……文房具……で、プラケースにキッチン、さっき通ったのとは一つ手前のお風呂用品通路を通って、キャンプグッズが並ぶ道の先に……レジ……じゃ、ない⁉
つ、つーか!
いつもある場所にレジがないのは、いつの間にか模様替えしてたのかもしれないから、まだいいとして……ついさっき入ってきたばっかりの入口が、見当たんないんだけど⁉
さっきまで確かにガラスの自動ドアがあったはずの場所が、今は壁になってる。ドアが開いてないだけとかそういうレベルじゃなくて、完全に、ただの壁。食器とかグラスとかの棚が並んでて、「最初からこうでしたけど、なにか?」って感じに、疑いようがないくらいに完全に、出口がなくなっちゃってる。
店内には、きたときからずっと聞こえていた店内放送が流れている。時計を確認すると、まだ七時五十二分。この店は八時閉店だからあんまり余裕はないけど……でもまだ一応閉店時間前。だから、シャッターが閉められちゃったとかでもない。
さらには、いつの間にか周囲には自分以外の人間の姿が消えていることにも気づく。少しは居たはずのお客も、店員も、誰も居なくなってる。
「な、何……これ?」
無意識にそうつぶやいて、持っていたのど飴の袋を落としてしまいそうになってたとき、
「……ねー? これ、どうなっちゃってんだろーねー?」
後ろから、そんな声が聞こえてきた。
振り返ると、そこには。
ノースリーブにデニムのショートパンツ姿の、サラサラ茶髪ロングのおねーさんがいた。
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