「第十三話」本音
牢屋にぶち込まれるのは、これが三度目。何度も何度もこんな場所に連れてこられれば、さすがの私も気が滅入ってしまう。まぁ、これは私が受け入れた交換条件なのだから、文句は言えまい。
こんな間際になっても、考えるのはあの王女様のことである。私がいなくなったあともあんな感じで生きてほしいし、なんならちゃんとシャルル王と話し合ってほしい。謝ってもらうことは出来ないにしろ、「平民王女」なんていうクソふざけた汚名だけは受け入れがたい。彼女の素質は、イザベラ第一王女どころか、現国王のシャルルさえも上回るのだから。
まぁもっとも、私はその果てを見ることは出来ないのだが。
(処刑は今日の日没、それまで寝ててくれるといいな)
目覚めた瞬間に訃報を聞く彼女は、どんな顔をするだろう。私は聖人なんちゃらなんかじゃないから、少しは悲しんでほしい。三日ぐらい落ち込んで、ちょっと多めに泣いてほしい。──でも、それで彼女の人生が暗いものになってしまうのだけは御免被る。彼女はさっさと前を向いて、私のことなんか忘れてしまえばいいのだ。本来の私達は身分も違えば、背負っている背景も違うのだ。彼女の狂わせた人生は、私の命を以て元の場所に戻す。
それが責任ってやつだよ、と。私は自分自身に言い聞かせた。死ぬのが怖いのは当たり前、いつかそうなるはずだったものが、少し後回しになっただけでもいいじゃないか。
諦めの悪い私は、何度も何度も、自分自身にねだるかのように、彼女との短く色濃い日々を思い返していた。──牢屋の前に、誰かが立っていた。
「……やぁ、未来の大魔術師くん」
そこにいたのは、なんとも言えない表情のハルファスだった。私が死ぬ前に乱暴でもするのだろうか? そうだとしたらまぁ笑って皮肉ぐらい言ってやりたいが、感傷に浸っている今だけはまぁやめてほしかったなぁ。と、そんな予想は大きく裏切られた。
「私と、もう一度勝負しろ」
「はぁ? もう貴女の目的は達成したでしょうが、私が今どこにいるかわかる? 牢屋! ろーうーやー!」
ハルファスはそんな私の声に眉をひそめ、拳を握りしめた。いや、今更お前のプライドのために色々やってやる余裕はないんだっつの。傷も一つの成長だ、ありがたく受け取っとけよ。
「……魔女め」
小さく吐き捨てたハルファスは、そのまま私のいる牢屋から去っていった。
「……死ぬのは怖いなぁ」
言うつもりはなかったが、やはり、本心を隠しきれなかった。
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