「第三話」シエルの提案

 出された紅茶を嗜みながら、私たち三人は事の経緯を全て話した。シエルと友達になった事、パーティで魔法を使った事、その結果魔女だという事がバレたという事……シエルは私を助けるために、姉であるイザベラと王位を争う決意をしてくれたこと。


「……状況は、理解出来ました」

「ウィジャス殿、私たちはお願いをしに来ました。最強の『風の魔術師』という圧倒的な地位を持つ貴方に、私たちを支持してほしいのです。幼い私たちに教養を授けてくれたように、私たちを助けてはもらえませんでしょうか?」


 シエルは単刀直入に話を切り出した。私は知らなかったが、私の師匠であり義父であるウィジャスは、魔術師の中でも戦士の中でも、伝説的な知名度と発言権を持っている……らしい。とにかく、そんなウィジャスが私たちを支持してくれさえすれば、この最悪な状況を打破することができるきっかけになり得るのだ。


 だが。


「申し訳ありませんが、私はご協力できません」

「なっ……!?」


 ウィジャスは机の上の紅茶を一口啜り、溜息でもつくかのように香りを嗜んだ。その表情が繊細な怒りと、権力者としての矜持が含まれている事にようやく気付いた。


「余りにもデメリットが大きすぎます。友を救うために王位を巡って戦う……ええ、多くの人間の感動を誘う、魅力的な話でしょう。──その友が、禁じられた魔女でなければ」

「自分の娘への言葉とは思えませんね」

「魔術師とは非情なもの、それは既に滅んだはずの魔女でも同じです。他人を助けるためだけに魔法を使うなど言語道断。その果てに自分の身を危険にさらすなど、もっての他です」


 大方予想通りの返答だった。ウィジャスは私の義父でありたくさんの愛情を注いでくれはしたが、彼は義父である前に冷酷な魔術師だ。今まで私を育ててくれただけでも大きな迷惑が掛かっていたというのに、私はまた迷惑をかけようとしている。


「ロゼッタ、自分の選択は自分で責任を取りなさい。シエル王女様も、これ以上この子に関わらない方が良い」


 シエルの怒りは頂点に達していた。今にもウィジャスに殴り掛かりそうで、私は頭髪に既に手をかけていた……いざとなれば、彼女を魔法で守れるように。だが。


「──良いでしょう、では、メリットがあれば支持してくれるのですね?」

「し、シエル……?」


 シエルの目は、いつにも増して覚悟が決まっていた。最強の魔術師にも臆せず、交渉を続けようとする様には、やはり私は深い好感を抱いてしまう。


「私からは、貴方に提案をさせていただきます」

「……して、その提案とは?」

「貴方が指導者として優秀だという事を、証明して見せます」


 そう言ってシエルは椅子から立ち上がり、私に指をさしてきた。何事かと瞬きを繰り返す私の目を、シエルは真っ直ぐ見つめたまま、こう言った。


「ロゼッタ、私は貴方の魔法の腕前を信じます。第一王女イザベラに仕える魔術師、ハルファス・エーデルハイドと戦いなさい。勝って、貴女の魔法が優秀だという事を証明するのです!」



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