第14話 追い詰められた結果
じいちゃんは、僕の手を力強く握り返してきた。
「よし! あの木なら、大丈夫じゃな!」
じいちゃんの視線は、少し離れた場所にある大きな木を見据えている。
「ま、まさか……!」
嫌な予感しかしない……そんなことはしないよね。
「まっ、待って。じいちゃ――」
――言葉を発しようとした瞬間。
視界がぐるんと回り、お腹にも何とも言えない重いような、気持ち悪い感覚が走る。
空中を漂う体。
そこから見える景色はゆっくりと流れている。
うん、どうやら僕は投げられたようだ。
空を漂う雲は止まって見える。
下に視線を向けると、マンダ何とかは標的(僕)を見失ったことに腹を立てているのか、その場で地面を掘ったりしている。
残念、僕は君の上に居てるよ……これも怖いけど。
なんて考えていたら、今度は落ちていく感覚が襲う。
「あ――っ」
――声が漏れた瞬間。
一瞬にして目の前が暗くなり、周囲の音も聞こえなった。
「ま、まぶしっ」
ガサッガサッと葉の擦れる音、太陽の光を感じる。
「えーっと、僕は……じいちゃんに投げられて、そこから気を失って――どうなったんだっけ」
体を起こし周囲を確認する。
アイモーゼンの町を見渡せるほどの高さ。
風が吹き抜けることで、草原全体で草の波ができているのも見える。
僕はやっぱり木の上に居た。
気を失っていた影響なのか、まだ頭をぼーっとする。
なので、そのまま仰向けで寝転がり、空を見つめてみる。
「うん、雲、動いている……よね」
どうやら時間の流れも元に戻っているようだ。
それに、この大きな枝葉がクッションになってくれたおかげで大した怪我はないと思う。
手も足も、ちゃんと動くし鈍痛が走る箇所もない。
「た、助かったんだ……」
敢えて言うなら、顔や腕など肌が外に出ている箇所に擦り傷があるくらいだろう。
意識がはっきりしてきたせいか、風が吹くと傷ができたところが少しだけヒリヒリする。
「少し痛いけど……これくらいは、仕方ないよね」
すると、木の下から鼻息を荒くする魔物の鳴き声が聞こえた。
「フゴォ、フゴォ!」
間違いない、この特徴的な鳴き声。
あの大きな牙の生えたマンダ何とかだ。
まだ、諦めてなかったのか。
「しつこい」
もう姿は見えていないのに。
そんな魔物の状態が気になり、木の下へ目を向ける。
「あ、やっぱり!」
そこには、急に視界から消えた標的(僕)の匂いを見つける為だろうか? 地面に鼻を擦り付け嗅いでいるあのマンダ何とかがいた。
なんで僕なんだろう。
食べるのが目的なら、じいちゃんでもいいじゃないか。
なんだったら、じいちゃんの方が大きいし食べるところ多いはず。
「えーっと、そのじいちゃんはどこだろう」
周囲を見渡す。
「……いない」
でも、これじゃ下に降りることすらできない。
降りるにしても下で「フゴォ、フゴォ」言っているあいつの注意を逸らすとか、何かをしないとほぼ百パーセント襲われる。
だけど、近くには頼りのじいちゃんもいない。
「……どうしよう」
そう考えながら下を覗き込んでいると、バカでかい声が聞こえた。
「おーい、リズー! 大丈夫かー?」
この耳の奥にまで響くデカさに、僕の名前を呼び捨て。
声のする方を見なくてもわかる、じいちゃんだ。
「おーい! おーい! 聞こえておるかー?」
たぶん、僕が反応しないから心配しているんだろ。
う。
いや、投げたのじいちゃんなんだけどね。
「リズー! 怪我でもしたのかー? おーい、大丈夫かー?」
じいちゃん、ちゃんと聞こえているんだよ。
でも、今反応したら魔物が僕に気付くちゃうよ。
というか、怪我の心配をするなら何であの時投げたんだろう。
じいちゃんの大きな声で、マンダ何とかが興奮したりしないか、気になるので恐る恐る下へと目を向ける。
「だ、大丈夫かな……」
「フゴォ、フゴォフゴォ」
良かった。どうやら気付いてないようだ。
じいちゃんの方をチラチラと見てはいるけど、木の上に視線を向けることはない。
よし、しばらくはやり過ごせそう。
それよりも、未だに大きな声を出し続けてるじいちゃんが問題だ。
どうにかして、今の状況を伝えて黙ってもらわない
と――。
「よし……!」
じいちゃんを黙らせる為、木の上に立とうする。
「でも、立てるかな……」
それに気が付いたのか、じいちゃんは大きな身振り手振りでそれを制止してきた。
何でさっきは大声おっけーで、今は叫ばないのだろうか。もう意味がわからない。
「――あ、やっぱり立てないや」
走り過ぎて疲れたようだ。
立とうにも、膝ががくがくする。
結局、僕は不本意だけど、その身振り手振りに従うことした。
☆☆☆
――それからしばらくして。
大きな牙の生えたマンダ何とかっていう魔物は「ピュー」っと笛の鳴る方へ帰っていった。
どうやら、あのマンダ何とかは野生じゃなかったらしい。
たぶん、この町に訪れる時に目にした調教していた人たちの元へ帰っていったのだろう。
何にしても、こうならないようにちゃんと面倒を見てほしいものだ。
もし、冒険者が討伐したら、どうするつもりだったんだろう。絶対にどっちが悪いとか、争いになるのは見えているはずなのに。
そんなことを思い浮かべながら、木の上でぼーっとしていると、タイミングを見計らっていたように、じいちゃんが砂煙を上げながら走ってきた。
「おぉーーい! 無事かーー? もう降りてきて大丈夫じゃぞーー!!」
無事、無事だとは思う。
思うけど、魔物に追いかけられたことよりも、投げられたダメージの方が大きい。
気持ち的に。
あの並走した時、普通に手を差し伸べてくれれば、今、こんな状況にはなっていない気がする……というか、そうに違いない。
そんな事を思いながらも木の下に居るじいちゃんの元へ降りて行った。
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