4. 配信①
翌日。準備を整えた佐助は、ダンジョンのB2階に降り立った。B1階は居住区域として整備されているから、RTAの対象になっていない。そのため、B2階からRTAの対象になる。
佐助はダンジョン専用のスマホのメモアプリを開き、B2階の情報を確認する。フィールドは『洞窟』。岩肌がむき出しになっていて、道も整備されていないため、歩きにくい。出現するモンスターのレベル帯は1~5で、スライムやワームなどが多い。入口から出口までの直線距離は約3キロだが、曲線の道や分かれ道、モンスターなどの障害が多く、平均クリア時間は2時間ちょい。これまでの最速クリア時間は20分52秒だ。
(地図はちゃんと頭に入っているな)
ダンジョン探索のために、B2階は何度も通ったので、立体的な構造だけではなく、罠の種類とその場所まで把握している。罠は一度発動したら、一定時間後に復活するので、場所を覚えておくことは重要だ。
(あとは、RTAのルールも確認しておくか)
佐助はRTAに関するメモを確認する。基本的なルールは以下の通りだ。
・配信中は画面内にストップウォッチを表示する。
・上階への階段(入口)を降りてから下階への階段(出口)を踏むまでの時間を計測。
・計測は第三者視点で記録する。
・他の冒険者に配慮した形で計測を行う。
・モンスターの討伐やレベルなどは不問。
佐助はルールを確認し、他のメモも目を通す。
(他に確認することは……ないな)
佐助は『
佐助はカメラとスマホを接続し、姿を確認した。黒い忍び装束を着て、口当てをしている。さらにゴーグルまで装着しているから、身バレの心配は無いだろう。画面をチェックし、明るさなどが問題ないことを確認する。あとは配信を開始するだけになった。
佐助は自分のチャンネルを開き、配信画面まで進む。が、配信スタートのボタンが押せなかった。いざ始めようとすると、緊張してしまう。その場面に遭遇して初めて、心の凄さを実感した。
(心は最初からノリノリだったな)
カメラを向けられても、溌溂とした態度で臨んでいた。今この場所に彼女がいたら……と考えてしまう。
(って、それじゃあ、自立にはならんだろ!)
佐助は頭を振って、甘い考えを捨て去ると、覚悟を決めて配信スタートのボタンを押す。
配信が始まった。
「あー。えっと、こんにちは。RTA走者のサスケです。本日は、B2階のRTAに挑戦したいと思います」
佐助は照れながら話すも、視聴者数は0。心が折れそうになったが、配信終了ボタンは押さない。アーカイブが記録として残り、そのアーカイブを見て、今後、視聴者が増えるかもしれないからだ。
「それじゃあ、早速、挑戦しましょうかね」
そのとき、視聴者のカウンターが動き、1人増える。佐助は驚いて、スマホを落としそうになった。
「あ、ありがとうございます。今から、B2階のRTAを行うところでした」
無反応。無機質な1人という数字だけが表示されている。
(まぁ、だよな)
コメントがあった方がやりやすいのだが、末端の配信者にコメントするようなもの好きはそうそういないだろう。しかし、佐助の予想に反し、コメント欄が動いた。
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ココア:がんばれ
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心優しいコメントに、佐助の顔は明るくなる。
「ココアさん。ありがとうございます!」
やはり、温かい反応があると、やる気が出る。
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ココア:レベルは?
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「あ、はい」
スマホを操作し、レベルを表示する。ダンジョンには、『レベル』という個体の強さを表す指標があって、レベルの数値が大きいほど強い。カメラには、『ステータスチェッカー』というレベルとジョブを表示する機能も付いているため、簡単にレベルを測定することができ、画面の左下に『レベル:5 ジョブ:忍者』と表示される。
(あ、やべっ)
それは佐助の本当のレベルではない。佐助は『
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ココア:低レベルクリアも目指しているんだ
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ただのミスだったが、低レベルクリアも併せた方が、より興味を持ってもらえるかもしれない。だから、「ええ、まぁ」とお茶を濁すような返事をする。
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ココア:がんばれ
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「……ありがとうございます」
騙しているようで申し訳ないが、今回は話題作りのために利用させてもらう。
「えっと、それじゃあ、ストップウォッチは見えていますか?」
カメラの設定をいじり、画面の右下にストップウォッチを表示させる。
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ココア:はい
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「それじゃあ、早速、始めましょうかね」
佐助は上階からの階段を一段昇る。この階段を下りて、B2階に入った瞬間から測定が始まる。
数回深呼吸してから、佐助は覚悟を決めた顔で臨む。
「行きます!」
そして一歩を踏み出し、RTAが始まった。
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