3. ダンジョン

 日本にはダンジョンが一つしかなく、その入口は世田谷区にあった。洞穴めいた入口は自衛隊が警備しているものの、冒険者免許を見せれば、中に入ることができる。冒険者免許はダンジョンの探索許可証のようなもので、筆記試験と体力測定に合格した18歳以上の者だけに発行される。


 中に入ると、地下へと続く階段が現れる。このダンジョンは地下へ潜っていくタイプのダンジョンだった。階層ごとにフィールドが異なっており、B1階は森となっていて、青空が広がっている。ダンジョン内の時間帯は階層ごとに異なるのだが、B1階に関しては、地上の時間に連動していた。


 階段を降りたところから石畳が伸びていて、その先に洋風の石造りの街並みが広がっていた。B1階はモンスターがほとんど存在しないため、冒険者向けの宿屋や道具屋などが存在する居住区として整備されている。許可さえあれば、住むことができるので、佐助もいずれは住みたいと思っている。


 石畳の上を歩きながら佐助は今後のことを考える。


 心と仲直りしたいが、その方法がやはり思いつかない。ダンジョンに入る前にメッセージを送ったが、やはり既読無視。こうなったら、直接会って、謝罪するしかないだろう。メッセージで事情を伝えることも考えたが、以前喧嘩した時、メッセージでいろいろ話そうとしたら、「人間味がない」とかクレーマーみたいなことを言われたので、会う以外の方法は悪化の原因になりかねない。でも、他に方法はないか――。


 そのとき、配信している冒険者を見つけた。


(配信ねぇ)


 心がいなくとも、ダンジョン探索自体は続けると思うが、配信をするかは悩ましいところだ。配信することで得られる発見もあることがわかったので、やりたい気持ちはあるが、1人でできる気がしない。


(いや、でも、そうか。これも自立するためだと考えれば)


 苦手なことや面倒なことは心に任せてきたが、これからはそういったことも自分でやっていく意識を持った方が良いのだろう。


(それじゃあ、仮にやるとして、どんなダンジョン配信にしようか)


 考えること数秒。すぐにアイデアが出る。ずっと前からやりたい企画があった。ダンジョン攻略RTAである。


RTAと言えば、ゲームの最速クリア時間を楽しむコンテンツとして有名だが、ダンジョンの場合、まだ最深部まで攻略されていないこともあり、各階のクリア時間を競うのが一般的だ。


 佐助がRTAをしたいと思った理由は2つ。①自分のジョブを活かしながら、②自分の探索成果を発表できるからだ。


B1階には、『ジョブの実』と呼ばれる桃のような果実がなる樹があって、この果実を食すことで『ジョブ』を得るができる。佐助が取得したジョブは『忍者』で、忍者になると、速度系の身体能力が強化され、状態異常に対する耐性を獲得し、ダンジョン内の罠を感知しやすくなる。また、忍者は『忍法』と呼ばれる特技が使えた。忍者好きの父親に『佐助』と名付けられた時点で、このジョブを選択するのは必然だったと佐助は思う。そして、忍者の素早い動きや豊富な忍法が、RTAに適していると考えた。


 成果に関しては、ダンジョンの様々な場所を探索した際に、まだ発表されていないルートや罠を見つけてきたので、それらをどこかで発表したいと思っていた。冒険者の活動を取りまとめている団体があるので、そこに報告するのが一般的なのだが、正直、その団体のことが好きではなかったので、別の方法で発表したかった。だから、RTAはその方法として面白いやり方だと思っていた。


(思い立ったが吉日。早速、準備しようか)


 今までだったら、心に言って、いろいろと準備してもらうところだが、今回は全部自分でやる必要がある。


(面倒くさいなぁ)


 と思いつつ、佐助は準備を始める。これも自立のためだ。


 そして早速、『サスケRTAチャンネル』を作った。


 ――ちなみにその日の夜、心へ謝罪に行ったが、追い返されてしまった。

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