第17話「町の僅かな生き残り」
魔族が滅び去ったヘイブン町に俺たちは立っていた。瘴気はすっかり晴れて日の光も差し込んでくる。いつこの町がここまで心地よい光を浴びたのだろうかと不思議に思えるほどの惨状だった。
その辺に人の骨が転がり、魔族に食われたような人たちが多いことを示していた。
「マイナーさん? 何をやっているんですか? 次の魔王軍を滅ぼすために行きましょうよ」
「この町の慰霊をしているんだよ。お前ももう少し死者に敬意を払えよ」
「仕方ないですね……私はあまり興味が無いんですがね」
とは言いつつもマリアはきちんと両手を組んで死者たちに祈った。俺たちはしばし祈りを捧げ、次の町に行こうかと俺がそっと言った。そこで突然の声が響いた。
「父さん! 母さん! 太陽が見えるよ!」
「あら本当……何があったのかしら?」
「二人とも、魔族がいるかもしれないのに安易に出るな! 隠れておけと言っただろう!」
一つの家の中から三人の親子が出てきた。家と言ってもボロボロだったが隠れていたのだろうか?
「おにーさんとおねーさんがわるい魔族をやっつけてくれたの?」
少年が俺たちのところに来てそう問いかけた。俺が何か言う前にマリアが意味ありげに頷いて『はい、私たちが魔族を根絶やしにしました』といい顔をして答えた。根絶やしにするというのはなんだか子供に言うのに教育によくない気もするのだが、この廃墟で教育もクソも無いのでそこを訂正するのはやめておいた。そもそもマリアは村を救うためではなく、そこに集る魔族を殺しきるためにやってきたのだ、そんなやつに道徳を説けという方が無茶というものだろう。
「すごい! みんなー! こわいいまものたちがいなくなったよ!」
子供は廃墟に向けて呼びかける。よく見るとその廃墟には四角い切れ目が床に入っており、そこが開いて子供や大人が幾人か出てきた。避難に成功した生き残りなのだろう、誰かを助けられたことは素直に喜ばしいと思う。
救うための戦いではないにせよ、結果として救われたのならクジの当たりにさらにプレゼントがついてきたようなものだ。
一人の老婆が俺たちの元に近寄って話しかけてきた。
「おお……勇者様ですかのう、お二方はこの町の救世主ですな。まさかこの老いぼれが生きておる間にあの魔族がいなくなるとは思っておらんかったですじゃ。私たちは感謝してもしたりませんな」
その言葉にいい気になったマリアがニッコニコの笑顔で答える。
「はい! 感謝してくれていいんですよ? また魔族に支配されたらいつでも言ってくださいね、魔族とあらば根絶やしにしてあげますからね!」
物騒な発言をするマリアだが、助けられた人たちは喜々として『マリア様バンザイ』などと言っていた。本人たちが満足なら俺がとやかく言うことでも無いのかな?
それにしても一軒の家にあった隠し部屋によくそれだけ隠れられたなと思う。無論食料は有限なので、皆それなりに痩せこけている。
俺はアイテムガチャを回すために『採掘』を使用した。
『アイテムガチャを回します』
七色に光る石が大量に生成され、数十連でガチャを回した。大量の光が当たりに溢れ、様々なアイテムが出てきた。食料はほとんど出なかったものの、傷の手当てをするための薬草やポーション、需要の高そうな固形食料も大量に出てきた。
「すごい! たべものだ!」
子供たちは勇み足で今出てきたアイテムに飛びついた。美味しいものではないのかもしれないが、腹を満たすには十分だろう。子供たちが食べようとしたのを止めた大人も、無理矢理がっついて食べる子供達を見て、安全なものだと思ったのだろう、みんなで今回出た食料を食べて、傷を負っている人には薬草やポーションが与えられた。
「おぉ……本当にお二人は救世主様じゃ……」
老婆はそう言いながら固形食料を食べていた。満足していただけたようで何よりだ。
腹が減ると負の感情が増すというのは本当なのか、どこか殺伐としていた雰囲気だったのが、魔族が消え、大量の食料を食べたことで落ち着きを取り戻した。
「訊きましたかマイナーさん! 私たちは勇者になったも同然! 誇らしいですね!」
「自分でそんなことを言わなければ随分と説得力が違うだろうな……」
自分が力を持っていたとしてもソレを正義のために使うとは限らない。しかし今回はたまたま住人と利害が一致した。だから意味のある戦いだったとは言わないが、少なくと町の人たちがいくらか助かったことは事実だ。
「これは少額ですが我々を助けていただいたお礼ということで……」
差し出された袋を遠慮なくもらうマリア。俺もその中を見たが金貨が何枚か入っている、当面の生活費にはなりそうだな。
「ありがとうございます、しばしの生活費にさせてもらいます」
俺はそう言いお金を頂いた。マリアは当然の権利の如く金をもらっているのでとやかく言うことでもないな。
「お二方は魔王軍と戦い続けるつもりですかな?」
俺はその質問に首肯する。俺がいやだと言ってもマリアが絶対にそれを否定しないだろう。俺たちには戦うことしか残されていないのだ。
そんなことを話している間に俺たちの武器が光り始めた。どうやら町を救ったということで、要件を達成したようだ。なかなかの性能だったのでありがたく送り出すことにした。召喚した装備がどこに行き着くのかは分からないが、きっと元から活躍していた存在なのだろう。
「あれ? マイナーさん! 剣が消えちゃうんですけど!?」
「俺たちのやるべき事を一つこなしたってことだろう。いい事じゃないか」
俺の言葉に釈然とはしていないマリアだが、一応解決したということで、魔族たちがこの町で根絶やしにされたので満足してくれたようだ。極薄の剣を掲げて『お疲れさま』と言って俺たちの装備を見送った。
「お二人とも魔王軍と戦うのですな……応援しております」
「それはどうも」
「魔王軍鏖殺計画を考えているので是非とも応援してくださいね!」
笑顔で物騒なことを言うマリア。とはいえ本気なのだろうから問題も無いのだろう。俺たちは行くあてもないという点で共通している。結局のところ、自分の居場所は自分で確保しなければならない。
「ありがとうございますじゃ。ヘイブン町の住人を代表してお礼を申し上げますぞ」
「気にしないでください、たまたま魔王軍を倒すために来ただけですから」
その言葉に嘘は無いのだろう。ただ戦い続けるために、敵を倒すためだけに俺たちはやって来たのだ。
「お二人はこれからも戦うおつもりなのですな……微力ながら応援させていただきますぞ」
一応マリアも色々もらった人をぞんざいに出来ないようだ。そして俺たちは町を去ることにした。マリアも名誉などに興味はほぼ無く、ただただ魔族を殺すために心血を注いでいるので、その結果が評価されることに興味は無いのだろう。
「では私たちの活躍に期待してくださいね! 多分私たちに助けてもらったことを誇れる日が来ると思いますよ」
明るい笑顔でそう言うマリア。そして俺たちは町を去った。跡には平和になった町だけが残されていた。復興は大変だがそこは住人の人たちに頑張ってもらおう。
俺たちが町を出るにあたって、魔族から生き残った皆さんが快く見送ってくれた。おかげで気分よく旅立つことが出来た。
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