第15話「魔王軍将軍、カルマとの出会い」
一線を越えた俺たちは魔族との死闘を繰り広げていた。オークやコカトリスといった割と大きい魔物は片っ端からマリアが切り捨てている。それを抜けてきた雑魚たち――スライムやミニゴブリンなど――を俺がそこそこ切れ味の良い剣でザクザク切っていく、まあスライムを切ってもザクザクなんて感触はないが、とにかく切り裂いていった。
「ヒャハハハハハ!! 雑魚雑魚雑魚! 無能な魔族ごときが私に勝てるわけがないでしょうが! 死んじゃえ死んじゃえ!」
俺は自分のスキルに人の精神を侵す効果があるのではないかと不安になってくる。そのくらいマリアはバーサーカー状態だった。魔物の群れが前に見える『町だったであろう土地』から大量に湧いてくるのだが、どうやらそこから出てこなくなるまで好き放題やるらしい、恐ろしいことだ。
「マリア! 薬草はまだ要らないか?」
「必要無いですよ! 私を傷つけようなんて根性のあるやつが出てくるわけないじゃないですか」
当然のようにそう言う。戦いの果てに何が待っているのかは知らないが、少なくとも殺した魔族よりマリアの憎しみの方が大きいらしい。人は何かをそこまで憎めるのかと不思議な感情が湧いてきた。俺はマリアに救われ、マリアは俺を救った、その相互扶助の関係から抜け出すとは思えないが、俺は背筋が寒くなった。
「魔王軍ごときが調子に乗って! あなた方みたいな雑魚を殺すのは愉悦ですが退屈ですよ」
マリアは延々殺し続けてようやく気が収まったのか、俺に食事をくれと言った。俺は予備で持っていた携帯食料を一つ渡す。どうやらそれだけで満足したようで、殺しまくった魔族の死体を眺めていた。そこに感傷的な話はなく、何かをやり遂げたような顔をしていた。
「達成感があるか?」
「ええ、とっても」
「この世界からアレだけの魔族が消えたかと思うとせいせいしますね」
「そうか……この先は看板にあった『ヘイブン町』に突っ込むぞ、準備はいいな?」
「もちろんです! とはいえ、あの中に村があるんですかね?」
見えている先は暗雲と濃霧に覆われていて、真っ暗な中、不気味な雷がいくらか降ってきている。いかにも魔族領といった雰囲気だ。
「さて、景気づけに一発かましますかね」
言うが早いかマリアは剣を上段に構え、縦一線に切りつけた。スパッと暗雲が割れ、切は晴れて町の一部が視認出来た。そこには大量の死体が転がっているこの世の地獄みたいな光景が広がっていた。
「キッツいな……食事時に見るようなもんじゃないな……」
俺も携帯食料を食べていたのだがその手が思わず止まった。生存者がいれば御の字といった有様なので、救助ではなく殲滅戦になりそうだ。町一つを廃墟にするだけの魔族を相手にマリアは戦う気満々の様子である。
俺は携帯食料を無理矢理飲み込んで水筒から水を飲んだ、マリアの方は平気な顔で携帯食料路ポリポリかじりながら、その先の有様を見ていた。
「さて、突っ込みますか」
マリアの準備は出来ているようなので俺たちは二人でその町だったところに踏み込んだ。あっという間にわいて出てきた十数体のオーガに囲まれた。
「人間ごときがカルマ様と戦おうなど頭が高い! 貴様らなど我々で十分だ!」
筋肉質の鬼がずらっと並んでいる。剣がどこまで刺さるのかは不明だが、殲滅は辛そうだと思う。こんな事ならキャラが出るまでガチャを回すべきだったな……
そう後悔していると、マリアは剣を思いきり振ってオーガが一体斜めに切り裂かれ、上半身と下半身が分割された。
「全員だ! 我々全員であの女を殺せ!」
オーガさんもこちらの脅威に気付いたらしく、逃げることを知らない戦士であろうオーガたちはマリアにめがけて棍棒を振った。
「マイナーさん! しゃがんで!」
俺がその場で頭を防御してしゃがむと、俺の頭の少し上をマリアの回転切りで全周囲を切ってとばした。オーガたちは強いとは言え体を両断されて生きているほど強くはない。
そんなわけでスッパリとオーガ共には等しく『死』をマリアが与えた。
そこへゴブリンメイジのファイヤーボールが飛んできたが、俺たちに当たる前にマリアに切り裂かれて消えた。無論それを放ってきたゴブリンメイジも死……いや、消滅した。
「なあマリア、生き残りもいなさそうだし次の町へ行かないか?」
「嫌です! 魔王軍幹部をぶち殺さないと私の気が収まりません! この町の魔族を鏖殺するまで気が晴れないじゃないですか」
「そうか、言っておくが俺は足手まといみたいなものだからな、助けることは出来ないからお前は用心しろよ」
そう言ってもう一本のエリクサーをマリアに渡した。俺は大した戦力ではないので狙われることも少ないだろう。だから俺にはポーションや薬草で十分だ。前線で戦うマリアの方が必要としているのは明らかだ。
「どうも……ありがとうございます。これはもっと気合いを入れて魔族を消せという意味ですね?」
マリアが悟ったように言うので俺は補足をした。
「死ぬなよって意味だよ。俺は自分でどうにかできるが、自分のことしか守れないからな、お前に死なれたくはないんだ」
ここまで旅を共にしてきた仲間が死ぬのは悲しいことだ。だからどうか遠慮せずにエリクサーを使用して欲しい。多少重い瓶だがハイになって動きの軽やかなマリアなら余裕だろう。
「当たり前でしょう? 私は魔族をこの世から消し去るまで絶対に死ぬ気はないですよ。私の生涯の課題として、魔族の全滅がありますからね」
「そうか……ならいい」
俺はそれだけ言って、さらに町だった場所の中心に向かっていった。
途中でゴブリンやオークも出てきたが、俺の持っている剣でも倒せる程度の相手しか出てこなかった。どうやらここに入ってきたときに出会ったオーガたちは精鋭だったのだろう。前線に優秀なやつをおくというのはこちらがマリアを表に出しているのと同じようだ。
魔族がドンドンと死んでは瘴気になって消えていく。その死に方をしたのはいい方で、ほとんどはマリアが瘴気になって消える前に剣から出る光でそれを消し飛ばしていた。オーバーキルにも程があるが、俺以上に好戦的なマリアが手を抜くはずもなく、俺たちが目に入った瞬間に体や頭が両断される魔族もいた。
数え切れなほどの魔族を殺してから、ようやく上空を覆っていた暗雲が晴れて、町に光が降り注いだ。太陽の光で照らされたヘイブン町は廃墟そのものだった。
俺たちがぼんやりとそれを眺めていると、蛇が出てきた。蛇といってもその辺で出てくる野生動物ではない、胴が大人三人で手を繋いでギリギリ手がつながるであろうくらいの太さをしていた。
さらにその蛇は紫色の瞳で俺たちを見てきた。
「貴様らか……この町を救いに来たのは、今さら手遅れだとは思わないのか?」
「なーにを勘違いしているんですかねえ」
余裕綽々の様子でマリアはこの蛇を煽る。
「私の目的は魔族と戦うことです。他に何を求めるというんですか? 私に重要なのは殺すに値する魔族がいるかどうかであって、誰かを救いに来たわけではないんですよ」
蛇は舌をペロッと出して舌なめずりをして言う。
「まあよい、あの程度のものなどいくらでも生み出せる。それより我、カルマがお主のような強者を倒した手柄が手に入る」
「いい根性ですね! ぶち殺してやります!」
こうして俺とマリア対魔王軍のカルマの戦闘が始まった。
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