外れスキルと復讐少女

スカイレイク

第1話「スキル授与式」

「マイナー・ストーンズよ……そなたの固有スキルは『採掘』じゃ」


 は? その時俺の頭の中はさぞや混乱していたことだろう。家系は全て剣士でつながっている、兄のアルフォンスも『ソードマイスター』という結構な名前のスキルをもらっていた。俺だって剣聖のスキルでももらえるかと日夜訓練にいそしんでいた。だから……だからこそそのわけの分からないスキルは受け入れがたいものだった。


「司祭様、『採掘』とはどのようなスキルなのでしょうか?」


 俺は目の前に偉そうに立っている司祭に質問を投げた。しかしその答えはひどくいい加減なものだった。


「知らん、ワシもこんなスキルは初めてじゃ。鉱山奴隷なら役に立つかもしれぬが……お主の家系でどれほど役に立つかは……」


 そんな……そんなことがあってたまるか! 俺の鍛錬の日々を全否定されたようでイライラする。そうだ、使用してみればいい、案外有用なスキルなのかもしれない。


『採掘を使用します』


 そう頭の中に響いて『採掘』のスキルは発動した。そして出てきたものは……


 ドサドサドサアアアアアアアアア!


 大量の石塊いしくれが俺の前に降ってきた。石がどこから来たのかは分からないが、虹色の綺麗な石だった。これがせめて高級品ならあるいは……


「これは……少々お待ちを、この意志について調査いたします。ストーンズ卿への返事は……」


「これの鑑定後にしてください」


「かしこまりました」


 司祭がノロノロと下がっていった。俺は自分の人生の一大事なのだからもう少し急げよと急かしたくなる。しかし彼らは彼らの仕事をこなしただけだ、それを責めるのはお門違いというものだろう。


 しかし、それにしたって十五歳で手に入るスキルが『採掘者』というのはあんまりじゃないだろうか? もう少しマシなスキルはいくらだってあるはずだ。あのアルフォンスのソードマイスター程ではないにせよ『剣士』くらいのスキルを授かる権利はあるはずだ。不公平じゃないか、兄が剣に愛され、俺は石に愛される、そんなことがあっていいはずもない。


 だから、だからこそあの石が特別なものでなくてはならない。きっとオリハルコンのような伝説上の物質であり、貴重なスキルとなる事を期待している。きっと貴重な剣の素材であって他に替えがきかないもの……のはず。


 その時間へ永遠にも思えた。医師の鑑定結果を聞くだけだというのにピリピリとした緊張感を覚える。何かしれないがとんでもない貴重品であることを期待しているだけに公爵家の一員として貴重な戦力になれることを期待していた。そう、俺は公爵家の一員なのだ、まさかゴミスキルを授かるはずもないだろう。そんなことがあってはならないはずだ、絶対に……


 そうしてしばしの緊張した時間を過ごした後で司祭が艦艇を追えたのだろう、やってきた。


「ストーンズ様、鑑定の結果ですが……その……」


 言いにくそうに司祭は口ごもる。なんでもいいハッキリと言え。


「構いませんよ、ハッキリ言ってください」


「はぁ……悪魔でも我々の鑑定結果なのですが……その……ごく普通の石と差異はないかと……つまりは……その……あなたのスキルは石を作り出すものだと……」


「クッソガアアアアアアアあああああああああ!!」


 思わず怒鳴ってしまった、何だよ石を作るスキルって! 石なんてその辺に転がっているだろうが! わざわざ清々する馬鹿が何処に居るんだよ! 思わせぶりに虹色の石を出しやがって! がっかりだよ! こんなスキルを与える上には失望したよ!


「まあまあ、ストーンズ卿は寛大で有名な方です、きっとスキルで差別したりなど……」


「お前の目は節穴かああああああああああああ!」


 思わず絶叫してしまった。あいつらがクソスキルを授かった相手に寛大だと? せいぜいが領民相手にいい顔をすることしかしない連中だぞ? この司祭はその事を知っているのか? そして正気の沙汰でそんなことを言っているのか? どう考えても冷遇されるに決まっているだろうが!


「落ち着いてくださいマイナー様。きっとお父上もあなたの努力を見ているはずですよ、決して排除するような方では……」


「だからお前は何を見てるんだあああああ!」


 俺の絶叫も構わず次の鑑定のために俺は神殿を追い出された、クソが! あの司祭は何も考えちゃあいないんだ。どうせボロクソな扱いで使用人同然の扱いが待っているに決まっている、連中はそう言う奴らだ。兄のアルフォンスがソードマイスターのスキルを授かったときなど俺が必死に鍛錬をしていたというのに、そんなものは全く無かったが如く兄を溺愛してきた。ただでさえそんな奴らなのに俺がクソスキルを授かったなんて言ってみろ! どんな扱いをされるかは火を見るよりも明らかだ。


 そうして俺は失意のままに実家の公爵邸に帰還した。その時、俺はまだ両親のことを信頼していたかもしれない、あるいは鍛錬の成果を認めてもらえるなどと夢物語を信じていた、その結果……


「お前、今すぐ公爵家から出て行け」


 思った以上のクソみたいな対応を父親にされ、母親は横でうんうんと頷いている。敵しかいねーじゃねえかよクソが!


「し……しかし父様、俺は日々鍛錬を……」


「その努力が何の役に立つ? 『ソードマイスター』を得たアルフォンスより強いとでも言うのか? 貴様は絶対にまともな相手にならんぞ。勝負してみたいとでも言う気か? 私は『事故』には目を瞑ることを言っておくぞ」


 クソ! 絶対に勝てないことを知っていて言ってやがる! どうする?


「マイナーは情けないなあ! まぁこの公爵家は俺が支えてやるから安心しろよ! 『ソードマイスター』の俺様がなあ!」


 くっ……ここで勝負をして無様を晒すか? それどころかこの父上は『事故』が起こっても見逃すことを宣言している。つまりは俺は不要な人間だということだ。腹が立って仕方がないがここで勝負をしてもいいことは一つも無い。戦えば絶対に勝てない、努力が才能に勝てないのはこの世界の常識だ。


「父上、私を追放するとおっしゃるのですか?」


 俺が辛苦の思いでそう訊ねるといともあっさりと頷いた。


「そうだ、貴様のような無能スキル持ちは公爵家にとっての恥だ。私の目の前に金輪際現れるな」


 クソ! 言いようが無い不満を募らせたところで勝ちようのない話だ。天から与えられたものにどう言いがかりを付けようとも上の采配で済まされてしまう。悔しいが俺に選択権は無い。


「分かりました、父上、母上、兄上もお達者で……」


「これが最後の挨拶だ、以後公爵家の名を出すことは許さん」


 俺は背を向けて出て行った。もはやこの家とは無関係な庶民でしかなくなった俺にここにいる理由は無い。仕方がないので俺は家族に背を向けて出て行くことにした。


 石を出すというくだらないスキルに誰一人見向きもせず使用人たちの見送りさえ無かった。スキルというのはそういうものだ、分かっているとは言え、今までかしずいてきた人たちに冷たい対応をされるのは悲しいな。


 俺はそうしてこの家を出た。二度と買えることのない家だ。このクソスキルでなんとか糊口をしのいでいかなければならない。それはとても難しいことかもしれないが、剣術の鍛錬はしてきた、それを生かしてなんとか生活は出来るだろう。意地でも生き残ってあのカス共に目にもの見せてやるぞ!


 そう決心をして僅かばかりの財布の中身を見る。これが公爵家から追放されるときに持っていた所持金であり実質的な手切れ金だ。とりあえず町を出ることにするか。この嫌な思い出のある町で過ごす気にはなれない。さっさと出て行ってどうとでも生活していこう。そう思って町の出口に向かった。

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