短い百合

伊予葛

食物連鎖

ㅤ 花が、咲くらしい。

ㅤ幼い頃に聞いた、スイカの種を食べるとお腹からスイカが生えてくるよという脅し文句みたいに。この種を飲むと体が苗床になり、花に呑まれるらしい。そう言って、彼女は目の前で種を嚥下した。大輪の花になりたいのだと言った。それからしばらくは特に何も変わらなかった。彼女は普段通りに笑っていたし、種を飲んだことなど忘れてしまったかのようだった。だけど、私の頭の中にはあのときの光景が焼き付いて離れなかった。


ㅤまたしばらくすると、次第に、彼女は衰弱していった。種が芽を出したのだ。彼女が得た栄養の全てが養分として種に摂取される。外から見てもそれがありありとわかった。青い顔をした彼女は、見たことがないほど幸せそうだった。「もう少しで、私は花になれるの」と、いつも夢見心地で歌うように語っていた。彼女は花に成るのではなく花に食われているようにしか見えなかった。


ㅤ そして、あくる朝、私は彼女の体を裂いた。咲いた花は見当たらなかった。間に合ったのだ。肉を裂き、骨の周りに蔦が巻き付いて、小さな蕾が無数についていた。あと、2、3日もすれば沢山の花が咲いて、身体いっぱいに溢れたのだろう。彼女の体を養分にして成長しようとしている蔦を引きちぎる。拍子に肉までちぎれて血液が飛んだ。裂けた蔦から零れる液体は、ひどく甘い臭いがする。腹だけでなく体全体に広がる蔦は、彼女の喉を塞いでいた。やはり、苗床は花と共生できないのだ。体内を探っていると、指先に蔦とは違う固いものが触れた。そのまま引きずり出したそれは、種だ。彼女の養分を吸って、ここまで成長した植物の種だ。はらわたから引きずり出したそれを朝日に翳す。黒々としたそれは、綺麗でもないしまるで死んでいるようだ。

ㅤ私は、それを口に運び、そのまま嚥下した。

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