第68話 オッサンと3人の弟子

「リエナ~」


 ゲナスの体中に飛び込んだ俺。

 黒い塊をかき分けて、俺の大事な従業員を探す。


 腐った肉のような臭いが鼻をつく。


 進むとすぐにリエナはいた。

 丁度ゲナス体内の中央だろうか、そこだけ少しばかりの空間ができている。


「ば、バルドさま……」


 俺に気づいたリエナは、力なく口を開いた。


「バルドさま、ごめんなさい……振りほどかれて……どこかにいってしまいました」


 申し訳なさそうな顔をして俯く美少女。金色の髪が乱れて、その顔を隠す。

 ゲナスの核のことを言っているのだろう。

 まったく……


 俺はその場であぐらをかいてリエナの手を取った。

 その小さな手は、擦り傷まみれでボロボロだ。


「良く頑張ったな、顔をあげてくれ」


「でも……」


「心配するな……もうじゅうぶんだ―――あとな」


 俺はリエナの瞳をじっと見つめる。


「帰ったら説教だ。簡単に死ぬとか言うんもんじゃない」


「……はい」


 リエナは俯きながらも小さく答えた。


 さて―――


「ギャハハハ~バカがぁあああ! なに勝手に取り込まれてんだよぉお! てめぇのしょぼい力~全部吸い取ってやるぜぇええ!」


 ゲナスの馬鹿笑いが体内に響く。

 ここから出ないとな。


 いくら力を得ようが、それは他人のもの。

 邪神から力を得て、リエナから力を得て。


 ―――いつまでそんなことをする気だ?


 そんなに欲しいなら―――



 オッサンの【闘気】をくれてやる!



 ――――――せいっ!



 俺が体内に【闘気】を巡らせると、ゲナスの体内が躍動する。と同時に俺の体から力が抜け出ていく感覚にみまわれる。


「ああ?」


 さあ、いくらでも食え!


 俺は【闘気】を力の限り循環させ続ける。


 ドクドクとゲナスの体内が脈打ち、俺の体から力が流れ出ていく。


「ぐっ……なんだ……こりゃ??」


 俺が【闘気】を巡らせてから、ゲナスの体内に明らかな変化が起きはじめた。

 表面の肉片が、膨らんでは崩れるを繰り返す。ドクッドクッと血管の音が異常な音量で鳴り響く。


「どうしたゲナス! オッサンごときの力だぞ!」


「ぎぃぬうう! 黙れぇ! てめぇごとき……ぎぃいい!」


 俺はどんなに力が流れ出ようが、【闘気】を練り続けた。ここが踏ん張りどころだ。


 ―――しばらくすると


 ゲナスの肉体がボロボロと崩れはじめる。


 おそらくゲナスの体はすでに吸収キャパを超えていたのだろう。

 たいした器がないのに、力だけ入れ続けるからだ。


「ぐぅきぃいいい! クソォオオオ! これ以上肉体を維持できねぇええ!」


 ゲナスはその黒い身体をブルブルと震わせながら、俺とリエナを吐き出した。


「キャッ!」

「おっと……大丈夫か? リエナ」


 コクリと頷くリエナ。

 とにかく無事で良かった。


 そのリエナをマリーシアさまに託すと、俺はゲナスと再び対峙する。


「クソクソォオオオ~~!」

「どうしたゲナス、もう終わりか?」


「ちぃいい舐めるなよバルドぉおお! 俺様には再生能力があるんだぁ!

 ―――だがおまえはどうだぁ! もう力は残っちゃいねぇだろうが!」


 ゲナスの言う通り、俺の体力は雀の涙ほども残っていない。


 対するゲナスは、崩れかけた体が徐々に修復されはじめていた。


「ギャハハハ~~やはり最後に勝つのは俺様だったようだなぁああ!」


「ゲナス、何を言ってるんだ?」



 確かに……俺一人なら、ゲナスには敵わなかっただろう。



「ギャハハハ~~ナトルの王女は半殺し状態~自慢の弟子どもは全員俺様の黒い霧で使い物にならねぇ。そして~てめぇはもはや立つのもやっとじゃねぇええか! 強がってんじゃねぇ! 終わりなんだよぉおお!」


 ―――使い物にならないだと?



 ゲナス―――それは違うな。



 俺の体を、純白の光が覆いはじめる。


「―――完全回復魔法パーフェクトヒール!」


 俺の傷は全て消え去り、体力も全回復している。いや、もう戦闘前より絶好調な感じだ。

 さすがミレーネだ。



「―――で、誰が使い物にならないんだ? ゲナス!」



「なぁああ! 聖女~~きさまなぜ動けるぅううう!」


「あなたのショボイ幻術ぐらいで、ワタクシをどうこうできるとでも思ったのですか?」



「そうだ! こんなまやかしにいつまでも後れを取るかっ!」


 別の声が戦場に響く。アレシアだ。


 彼女はすでに最大奥義の構えを取っている。

【闘気】を溜め続けた聖剣が眩い光を放つ。



「キャルもこんな下級魔法どうってことないの~~いい時間稼ぎだったの」


 空が真っ赤に染まり始めている。

【闘気】と魔力を練り続けていたのだろう。

 とてつもなくデカい岩石が上空に形成されていく。



「バカなぁあああ! あり得ねぇ! 俺様が最強なんだ! てめらなんか……黙って雑魚らしく俺様にひれ伏せばいいんだ!」


 ゲナスが、再生しつつある黒い巨体をグラグラと揺らす。


 俺は一歩、また一歩と歩を進めつつ。ゲナスに言葉を発する。


「ゲナス、おまえの置かれた環境はつらいものだったのかもしれない」



 だがな―――



「それは誰でも同じだ……なんの努力もしないやつが―――彼女たちを侮辱するなぁ!!」



 俺の愛弟子たちをなんだと思っている。

 彼女たちがどれほどの苦難を乗り越えてきたか、知っているのか?


 おまえにもはや同情の余地はないが……


 すぅううう、俺は深呼吸して、再びゲナスに剣を向けた。



「―――ゲナス、終幕だ。決着をつけるぞ!」







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