第59話 ゲナス王子視点 ゲナス、魔王を復活させる

 ◇フリダニア王女マリーシアが、バルドの宿を訪れる1週間前◇



「おい、鏡。ここはなんだ?」

『ハハハ~~魔王が封印されている祠じゃあ』


「魔王だと? てめぇ適当な事言ってんじゃねぇだろうな」

『嘘は言わぬ。その昔、勇者に敗れた魔王が眠る墓じゃぞ~~ハハハ~』


 俺様のポケットから鏡のやつがいつものイラつく笑いを漏らす。


 魔王って言われてもな。

 そんなもん数百年前の話だぞ、そもそも実在したのかよ? 


 古臭い祠の奥に進むと、開けた場所にでた。

 中央にポツンと埃をかぶった祭壇がある。


「チッ、陰気で汚ねぇところだな」


『ハハハ~その石碑に触れるのじゃ~~お主の邪気ならば魔王が起きるはずじゃからな』


 ああ? なんだよ邪気って?


「おい、魔王は生きてるのか?」

『おそらくのう』

「俺様の言うことを聞きやがるのか? 魔王は」

『それは契約次第じゃなぁ~~』


 んだよ、含みのある言い方しやがって。


『まあ、このまま臭い人生を歩みたいなら引き返してもよいぞぉ~ハハ~』


 チッ……このまま終われるかよ……


 俺様は手を伸ばして、石碑に触れる。


 石碑が徐々に歪み始めたかと思うと、人の形に変わりはじめた。


「おまえか? 我を起こせし者は?」


 人の形が俺様の方を向いた。


 ―――こいつが魔王か?


 なんだ、人間とさして変わらん見た目じゃねぇか。迫力にかけるぜぇ。


「そうだ! 俺様が起こしてやったんだ、感謝しやが……ぐぅううう」


 なんだぁああ! 体が重いぃいい。つ、つぶれる……


「魔王に向かって口の利き方を知らんようだな。我を見た目で判断するなよ小僧。実体を持たずとも貴様ごとき簡単に捻りつぶせるわ」


「グハっ!」


 体がひしゃげそうだ……なんだこの魔法は。


「ククク、どれ貴様の過去を見てやろう」


 奴は目をつぶりながら、俺を見て嘲笑する。


「クソ野郎が……ハァ、ハァ……」


「これはこれは、クソ野郎はおまえではないのか? よくこれだけアホな事ができるなぁ~ククク」


 俺様のことをけなすんじゃねぇ。

 クソっ―――視界がどんどん薄れていく。


「なんだ人間、もう死ぬのか。そりゃこれだけのことをすればなあ。ククク」


 はぁ? ふざけるなよ……


「俺様が正しいんだ……バカはやつらだ……クソがぁ! バルドの奴だけは許せねぇ」

「ほう……」


 魔王の野郎が、指を鳴らすと。俺様を襲っていた重みがピタリとやんだ。


「ククク、人を人とも思わんその思考。気に入ったぞ。何が望みだ?」


「チッ……俺様は国王に返り咲くんだ。バルドの野郎をぶっ殺して、そして俺様だけを称える国にするんだよおぉお。だから俺様に力をかしやがれ!」


「よかろう―――では我と契約だな。おまえの国を取り返して、そのバルドとやらを殺してやる。見返りとして貴様の魂をもらう」


「魂だとぉ? ふざけたこと言ってんじゃねぇ!」

「ふざけてなどおらん。見てのとおり、我は実体を持たぬ。あの忌々しい勇者どもに肉体を消滅させられたからだ。契約が成立すれば実体を一時的に再生することが出来る」


「俺様の魂……」


「そうだ……そして契約が達成されれば、おまえの魂を糧に我は完全復活することが出来る」

『一発逆転するにはそれしかないぞ~~ハハハ~~』


 鏡が焚きつけてきやがる。


 ふざけるなよ……魂取られるんじゃ返り咲いても意味ねぇだろが。


「だいたい魂ってなんなんだよ!」

「ククク……見せてやろう」


 そう言うと、魔王は俺様の胸に手をかざす。黒い塊が浮き上がってきた。


 ―――これが魂かよ!?


 随分と黒いんだな……


「……ぐあっ! くさいっ!」


 後ろに飛びのいて距離を取る魔王。なに鼻をつまんでやがる?


「ああ? なにやってんだよ」

「おまえ! なんだこの魂は! 臭すぎる! 魔族でもここまで黒い魂はないぞ!」

「ふざけんなよ! 魂が臭いってなんなんだよ!」

「臭いなんて生ぬるいわ! オェ~~、こんなもんいらん!」


 おいおい、俺様の純白魂のどこが臭いんだよ。久しぶりに起きてボケてんのか?


『まあまて魔王よ、ここにええ奴がおるぞ~』


 鏡が会話に割って入って来た。そして何かを投影させる……これは!?


 それは俺様の愛しいマリーシアだった。


「ほう……とびっきりの上物がおるではないか、ククク旨そうな魂だ」


 魔王が俺様のマリーシアをみて舌をベロりと出した。


「ふざけるなっ! マリーシアは俺様のものだ! だれがやるかよ!」


「ククク安心しろ、魂を奪えればそれでいい。からの器はおまえにくれてやる。おまえの自由にできるぞ~なんなら従順な魂を入れといてやろうか~~」


「マリーシアを自由にできるのか……」

「そうだ、肉体が傷つくわけではないからなぁ。そうでもせんとあの女は手に入らんぞ、おまえにとっては好都合だろう、ククク」


 マリーシアは何故かバルドの野郎を好いてやがるからな。

 ざけやがって、俺様のものなんだ。


「―――いいだろう。その話、乗ってやる」


「クククそうこなくてはな―――代理契約になるから本人の所持品が必要だ。10日以内に揃えてこい」

「ああ? なにがいるんだよ」


「あの女の髪の毛、まつ毛、爪、歯、耳垢だ。ハードルが高いが、なんとしても揃えてこい」


「チッ、これでいいんだな」


 指定された物を魔王の野郎に渡す。


 ああ? こいつ、なにキョトンとしてやがる。

 俺様はマリーシアが幼児の頃から、ありとあらゆるものをコレクションしているんだ。


 ―――このぐらい当たり前だろうが。


「………お、おう。あと最後に下着(使用済)だ……」


「チッ、小出しに言うんじゃねぇよ」


 俺様はとっておきのパンツ(使用済)を渋々差し出す。

 まあ、マリーシアが俺様の自由になりゃいくらでも手に入るからな。



「おまえ……どんだけ変態なんだ……魔王の我がドン引きだぞ……」



「おい、さっきからグダグダうるせぇぞ! 契約は成立なのかよ!」


「ククク~~ああ、これで契約成立だ」


 魔王の透けた肉体に、黒い光がともり始めた。

 骨格が出来上がり、その骨に幾重もの筋肉が覆い始める。


 ―――グハァアア


「久しぶりの実体はたまらん! 我がおまえの望みを叶えれば契約完了だからなぁ! さあ―――我が眷属どもよ、甦れぇええ!」


 魔王の言葉と共に、周りから魔族がウヨウヨと湧き始める。

 こりゃすげぇな……マジで国王に返り咲けるかもしれん。


「ところで……」


「なんだよ?」


「そのバルドとか言う奴は強いのか?」


「ああ? んなわけないだろ! 周りの取り巻きが強いんだ。

 あいつは――――――ただのオッサンだ!」


「ククク~~そうかそうか。さあ、行こうか。フリダニアの王都ヘなぁ」



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