【追放された宿屋のオッサンは、今日も無自覚に無双する】スローライフを送りたいのに、なぜか国で要職に就く最強美女の元弟子たちが俺を慕って雇ってくれと集まるんだが~ちょろっと教えただけなのに~
第55話 ゲナス王子視点 ゲナス、大魔導士の勧誘に失敗する
第55話 ゲナス王子視点 ゲナス、大魔導士の勧誘に失敗する
~キャルがバルドに再会する数日前~
「くそぉ~~~」
俺様はたった1人で海岸線を歩いていた。あてもなく。
衣服もボロボロ、金もない。
『ハハハ~~見るも無残なありさまじゃわい』
悪態をついているのは「鏡」だ。
ボンクラ親父を廃人にして、俺様が王代理になるための入れ知恵を寄こしたやつ。
「ちっ……ボロボロの破片のクセに、グダグダ言うんじゃねぇ」
俺様は
天才的な頭脳で戦況を分析し、戦術的退却を迅速に行ったにも関わらず、空から魔物が降ってきてボロボロになった。
なんだこれは?
しかも下民どもは、どっかから現れた【結界】によって無傷だ。
なんなんだ、これは?
なぜこの俺様が、1人徒歩でこんなクソ海岸を歩かなきゃならねぇ。
周辺の村では俺様を探してやがる。
クワや縄を持ってな……
俺様を捕まえる気だ。下民どもが調子に乗りやがって!
もう何日もまともな食事にありつけてねぇ。
なんで俺様がこんな目にあうんだ?
イライラしつつも視線を海岸線に向けると、一隻の船が見える。
「ああ? 港か……」
『ハハハ~船で他国にでも逃げるのか~~』
「ああ? 俺様は逃げねぇ、返り咲くんだよ。本来の玉座になぁ」
『たった1人でかのう~~』
「黙れ……ん? たしかあの船は……国外派遣の船舶……」
他国に長期派遣していた魔法師団の視察団どもだ……たしかその中には……
―――大魔導士のやつもいたはず!
「ククっ……やつを俺様側に取り込めば……まだチャンスはあるぞ」
『ハハハ~~もはや死にかけのクセに、また悪だくみか~いいぞぉ~~』
◇◇◇
「よくぞ戻って来た! 我が精鋭の魔法師団よ!」
俺様は下船したばかりの視察団に、声をかけてやる。
この俺様が直々に声をかけてやってるんだ。ありがたい事この上ないだろう。
……反応薄いな、こいつら。
王代理だぞ。速攻で平伏しろよ。
「おい! 大魔導士はどこにいる? なんだ……え~キャルなんとかって奴だ!」
「キャルット・マージさまなら目の前にいらっしゃいますよ」
使節団の1人が俺様の目の前を指さした。
ザコが、俺様に指さしてんじゃねぇ……っと。目の前ってどこだよ? ああ?
―――おいおい。
「ちっちぇなあ! まさか―――おまえか?」
なんだこいつは、まるで子供じゃねぇか。大魔導士ってこんな奴だっけか?
「なに? あんたなんなの? キャルに用なの?」
「ぐ……貴様、俺様に向かって口の利き方を~~」
「オレサマって名前なの? 変なの」
「くそっ、減らず口を叩くな! ―――俺様はゲナス王子だ!」
「ん? ゲス?」
「違う! ゲ・ナ・ス、だ!」
「ちょっ、近いの。クサイから寄らないでなの」
はぁあああ、この俺様がクサイだとぉお!
「ふざけるな! 王子の俺様がクサイわけがなかろうがぁ! これだから下民あがりは品がないぜぇ」
「なんでボロボロの服装なの? あやしいの」
なんでもクソもあるかぁ! 空から魔物が降って来たからだよぉおお!
ムカつくこと思い出させんじゃねぇえ!
が、今それを口にするのはマズイ。うまく言いくるめて俺様の配下にしないとなぁ。
「見ろ! 王家の紋章入りの剣だ! これは王家の者しか持っていない!」
「ふ~~~ん、なの」
ふぅ……納得したか。
なんで俺様が王子の証明をしないきゃいけねぇんだ。普通、一発でわかるだろうが。
「で、(仮)王子がなんの用なの?」
「(仮)ってつけるんじゃねぇえええ! クソっ……貴様を臨時招集するんだよ。王都に向かうからお前もついて来い!」
「なんでキャルがゲスと行くの? 行きたきゃ、一人で行けばいいの」
「ムカァ~~~クソバルドの弟子がぁ~~全員イライラさせやがる!」
減らず口ばかり叩きやがって……
こんなチンチクリンの子供にバカにされてたまるかよ。
「ちょっと、いまバルのこと、口にしなかった?」
「ああ? バル? あのクソバルドのことか?」
「クソはいらないの、ゲス王子」
「ぐっ……あんな能無しのことはどうでもいい! 追放されて、どこぞで野垂れ死んでるだろうよ。そんなくだらないことより俺様についてこい! 王都を取り戻すんだよぉ!」
「追放ってどういうことなの? 意味がわからないの」
「ああ! 能無しで国税を横領しまくった罪で俺様が追放してやったんだよ! もういいだろ、そんなどうでもいいこと」
「それはウソなの。バルは横領なんてしないし、無能でもないの」
ぐぅううう、こいつもかよぉ。
聖女のやつもだが、こいつらのバルド崇拝には辟易するぜぇ。
あいつ、奴隷契約の禁術とか使ってやがるのか?
でなきゃ、無能バルドより有能な俺様につくに決まってるからなぁ。
こうなりゃ力ずくでも連れて行くか。道中で俺様の偉大さに気づくだろうよ。
グイっと生意気魔導士の掴もうと手を伸ばすと……
「ヒッ……ち、近寄るななの!! お、男……」
なんだ? なにをビクついていやがる。
それにすげぇ汗だぞ……そんなに暑かったか?
「おい、この俺様に手間かけさせるな! さっさと行くぞ!」
生意気魔導士にズンズンと近づくと……
んん? なんだ空が……!
赤い……!?
おいおいおいおい~~~
こいつまさか~~~
「それ以上キャルに近づいたら! 跡形もなく消し飛ばしてやるの!」
―――いかれてやがる……
「何を言ってやがる! これは王代理としての命令だ! 従いやがれぇ!」
「(仮)王子の言う事なんか聞かないの。ていうか、怪しいしクサイの」
空は赤いままだ、こいつ本気で魔法を発動する気か……
―――ダメだこいつは。
「この気ちがいチビ女がぁああ! 貴様なんぞはクビだぁあああ!」
「そう、じゃあキャルの好きにするの。もうこの国にいる意味ないの、バル探しにいこ~なの」
そう言うと、チビ女は去って行った。
◇◇◇
「なんだあいつは、あんなのが三神なのか」
俺様は、再び海岸線を当てもなく歩いていた。
空を見上げると、本来の青さを取り戻している。
正気かあいつ……頭のネジがぶっ飛んでやがる。
あんなもんぶち込まれたら、完全に消滅しちまうじゃねぇえか!
『アッハッハッハ~フラれてしもうたのぅ~』
ポケットに入っている鏡の切れ端が、イラつく声を出す。
ん? 腰が軽い……
歩みを止めて体を触る……
どうやら、王家の剣も落としてしまったようだ。
―――なんなんだこれは?
「鏡ぃいい、答えろ! なんだこれはぁああ!」
なぜ俺様がこんな目にあわなければならない!
俺が最も有能なんだ! 俺が王に相応しいんだぁ!
『ハハハ~そうじゃ~お主は正しいのだ~周りがアホなだけだぞ~~』
そうだ、優秀な俺様が滅びるはずがない!
そんなことはあってはならない!
『まったくお前の心は美味がすぎるわい~~ではご馳走になったお礼と言ってはなんじゃが。一発逆転劇というこうか~~』
「ああ! また適当な事言いやがって……粉々にするぞ、鏡」
『いやいや~わしはお主の事だけを考えておるぞ~』
「チッ、まあいい聞いていやる。なにがあるんだ?」
『今から行くんじゃよぉ~~魔王の祠にのう~~』
「ああ? なんだそりゃ? 魔王なんているわけねぇだろ」
『現世にはおらんのう、祠に封印されておるからのぅう~ハハハ~~封印を解いてやれば、喜んで力を貸すだろうなぁ~』
「なんだと……」
俺様の足は再び動き出す。
魔王の祠に向かって。
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