第35話 スタンピード(魔物大量発生)の予兆
―――ブルブルブル
俺のポケットに入っている通信石の着信揺れである。
『バルド様~~お元気ですか~あなたのマリーシアですわ~~』
フリダニア王国第一王女の声が通信石から聞こえてくる。
うお……めっちゃ機嫌が良いじゃないか。どうしたんだ?
『わたくし、王都で有名な占い師に~素敵な事を教えてもらいましたの~~』
「ええ……」
『あなたが添い遂げるべき人は隣国にいます。あなたを一途に待っています。って言われたの~~~♡』
「はあ……」
『どうですの! バルド様~~』
ええっ!
『さあ! どうですの!』
いや、どうって言われても。オッサンに与えられた情報が少なすぎるぞ。
『さあ! さあ!』
ヤバイ……なんか良く分からんけど、回答しないと収まってくれそうにない。
たぶん隣国の王族パーティとかで素敵な王子さまに出会うとか、そういうことだろう。よしこれでいくか!
「え~と、その人(隣国の王族的な人)もマリーシアさまのことを待ってると思いますよ」
『まあ! そうですの!! その方(隣国の宿屋のオッサン)はわたくしをお慕いしてくれているのですね! ね! ね!!』
「あ……はい。たぶんそうかと……」
声だけの通信なのに……圧が強すぎる。ご機嫌はマックスに上がっているようだけど。
それから暫くの間、マリーシアさまのご機嫌トークが続いた。
ひとしきり話し切ると満足したのか、「そうでした!」とポンと手を叩く音がする。
『バルド様にご報告がありますの! 聖女ミレーネが解雇されてしまいましたわ!』
「あ……」
『お兄様が新しい聖女とやらを連れて行って、無礼な振る舞いをした上に思い通りにならないので解雇したんですの! 今まで彼女が【結界】をはってくれたから、王都は安全な街として栄えましたのに! そんなこともわからないなんて~~なんてダメ王子なんでしょう』
「ああ……」
『わたくしがその場にいれば、なんとか止められたかも知れないのに……すでにミレーネは去ってしまったあとでしたわ……ううぅ。良き友人でもありましたし、バルド様の大切なお弟子さんでしたのに』
「ああ……っと」
『バルド様もさぞショックでしょう。さっきから「あ」しか言ってませんし。ああ、ミレーネはどこに行ってしまったのかしら』
いや、そうじゃなくて……
「マリーシアさま~お元気そうでなによりです」
『ええ!? その声はミレーネですの!』
「はい、マリーシアさま。ワタクシは大丈夫ですよ」
『ミレーネ、わたくしに気をつかって無理をしているのですね。バカな兄がご迷惑をお掛けして……もう合わせる顔もありませんわ……』
「フフ、全然無理などしてませんよ~だってバルド先生とまた一緒に暮らせるんですもの~うふ♡」
『―――!? 一緒に住むですって! バルド様っ!!』
はい、一気に機嫌悪くなりました……
『なんですの! わたくしがいない間に美女美少女を次々と……! ズルいですわ!』
えぇええ……ズルいって言われても。いや、オッサンなんか悪徳奴隷商人みたいな感じに思われてないか? 違うからね。俺は一切強制していないし。彼女たちが自分の意思で住みはじめたんだからね。
オッサンもう女子の気持ちがわからんわ。
それから何故かマリーシア様のお説教が始まり、オッサンは無意識に正座していた。
いや、俺なんか変なクセついてないか……
『そうでしたわ!』
突然のお説教タイム終了とともに、マリーシア様が再び話を切り替えた。
『情報部から聞いたのですが、大森林になにか異変が起こっているようですわ』
「横から失礼します。マリーシアさま、異変とは具体的になにが起こっているのでしょうか?」
リエナが会話に入ってきた。
『リエナ姫、それが詳細はわかりませんの。現地情報員は大森林付近で消息を絶ったとのことですわ』
「……マリーシアさま貴重な情報をありがとうございます。もしかしたら先程の魔物も……」
『魔物? 何かありましたの?』
俺たちはマリーシア様に事の顛末を伝えた。
どうやら先ほどの大量のハチも、何か関係してるのかもしれん。
『なるほどそれは少し異常ですわね……もしかしたら
「―――!?
リエナが珍しく声を荒げて通信石ににじり寄る。
『現地情報員は「魔物の動きが活発化している」という通信以降音信不通ですわ……そしてフォレストビーの大量発生を考えると、大森林で魔物が移動を開始した可能性はありますわね』
「バルドさま……」
リエナが不安をにじませて俺の手を握ってきた。ナトル王国は大森林に隣接した国だ。
もしも
ちなみに
規模が小さければ、現状ナトルの戦力でもなんとか対応可能だろう。
―――だが
それはあくまで規模が通常の場合である。
実際に起こらなければ規模の大小はわからない。
「大丈夫だリエナ。ちゃんと準備すれば対応可能だよ」
「そうですよ。ワタクシも出来る限りのお手伝いはさせてもらいます!」
「リエナ、あたしも必要であれば力を貸すぞ!」
ミレーネとアレシアの言葉が、リエナの曇りがちな表情を明るくする。
我が弟子ながら、本当に立派な大人になったな。自分に娘がいればこんな感じになるのだろうか。
『リエナ姫は良き友人に恵まれましたわね。わたくしは引き続き情報収集を進めますわ。
マリーシアさまはそう言って通信を切った。
まあ、オッサンは分相応のやれることをするまでだ。
彼女たちを気遣う事。そして、この宿屋をしっかりまわすことだな。
◇帝国視点◇
大陸最大の国家、トメキア帝国帝都のとある会議室にて
「ふむ、フリダニアはナトルの活躍によりノースマネアの大規模侵攻は阻止したか。だが、弱体化が進んでいるようだな」
「そのようだ。報告によると三神のうち数名が姿をくらましたらしい。一部の情報ではゲナス王子が解雇したとの噂もあるようだ。ナトルにて大型ゴーレムを撃破したのは、剣聖らしき人物との情報もきている」
「三神を解雇だと? 王代理のゲナス王子はアホなのか? いや何かを企んでいるのか?」
「何とも言えんな。ゲナスは王代理就任直後にノースマネアとの戦争で大敗している。いずれにせよフリダニアにおいて、三神は機能していない可能性が高い。機能していればあそこまでの大敗はしないはずだ」
「ふむ、引き続き情報収集が必要だな。さて次は……最重要案件についてだ」
「ああ、悪魔のオッサンについてだな。情報部によるといまだに人物を特定できていない」
「情報部はなにをやっている。もう【血の会戦】から5年だぞ……あの恐怖のオッサンを……」
「軍上層部からは、オッサンはもはや軍を引退したか、他国に行ったのでは? という声もあがっている。気の早い奴などフリダニア再侵攻計画を口にし始めている」
「愚かな。まだ時期尚早であろうが。5年前の【血の会戦】大惨事をもう忘れたというのか?」
「そうだ、我々は二度とあのオッサンに関わってはならん。慎重に事を進めなければ」
「そして、今回探りを入れるということか。例の計画だな?」
「フム種火を燃やしている最中だ。あと少しで
「よし、これでフリダニアが本当に弱体化したかわかるだろう。にしても計画発動から随分と時間がかかるものだな」
「うむ、今回発生させるのは、
「
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