第20話 剣聖アレシア視点、元剣聖の力

「うぉおおおお!!」


 あたしは、ナトル軍本体の先鋒として聖剣を振るっていた。

 ノースマネア軍の本体1万に対して、ナトルは3千ほど。普通に考えれば戦力差は圧倒的で勝敗は見えている。


 が―――


「剣技! 速断剣!!」


 あたしは、俊足で敵の懐へ飛び込み聖剣を横なぎにふるった。

 虹色の斬撃が正面の敵を薙ぎ払う。

 あたしが前線で敵の陣形を崩すことができれば、後ろに控える隊に総突撃をかけることができる。そうなれば兵力差も覆すことができるはすだ。


「おお、さすが剣聖アレシア殿だ! 聞きしに勝る実力だぞ!」

「すごい! 敵がバッタバッタと倒れていくぞ。これならば!」


 ナトル兵たちから驚きと期待の声があがる。



 ―――ダメだ。



 あたしは聖剣を振るいながらも、少し焦っていた。いや、かなり焦っていた。


 これじゃダメ。突破力が圧倒的に足りない。


 さっきから、小技を前面の敵にだけぶつけている。多少は削れているが、決定打にはほど遠い。

 本来ならもっと大技の連発で初手において勝負を決めるのだが、ナトルの将兵たちがあたしの攻撃範囲に入ってきてしまう。


 いつもの部下たちなら絶妙の間合いで展開してくれる。だからあたしの大技連発で大きく敵の陣形を崩して、すぐさま総攻撃に移ることができる。


 だがここには、あたしを良く知る部下たちはいない。

 必然的に味方を巻き込まない出力を抑えた攻撃に限定される。


「報告! 第三小隊壊滅! 第7小隊左右に分断されました!」

「ぐっ! 押されるな! ナトル兵の底力をみせてやれ~~!」


 やはりというか、戦闘が長引くにつれてナトルは劣勢になっていく。


 クソっ! どうする。


 あたし1人なら無理やり敵兵の深部まで食い込めるかもしれない。

 しかしそれでは後続が続けない。


 いくらあたしでも、この兵力差では1人包囲されてしまう。


 どうする? 時間はあまりない。



 ―――頼っていいんだ。



 先生? 


 いや気のせいか……なんだかこんな時に昨夜の先生の言葉を思い出した。辛ければ周りに頼れと。


 そうか―――


「みんな聞け! 今から大技を繰り出す! あたしから距離をおけ!」


 こんな最前線の混戦中にあたしの声がどこまで聞こえたか、ましてやみな目前の敵と交戦中だ。こなんなことをしても、意味が無いかもしれない。

 だが、やるしかない!


 さらに何度も声を出す。

 戦場で、雄たけび以外にこんなに声を出したのは初めてだ。


 奇跡的にもあたしの意図は伝わったらしく、周辺の将兵がなんとか距離をとりはじめた。


 よし、これなら……


「剣技! 回転両断!!」


 聖剣を体ごと一回転させて、広範囲に虹の斬撃を敵に打ち込む。

 周辺の敵兵が一斉にバタバタと倒れた。味方は……損害はなさそうだ。


 しかし敵兵はあとからあとから新手が出てきて、前線を瞬く間に埋めてしまう。


 ダメだ。まだまだ出力が足りない。セーブしてしまっている。さすがに、あたしの思い描いた通りにはナトル兵も動けない。



 ―――もっと思いっきりやらないと。



 聖剣を握る手に嫌な汗がにじんでくる。と、その時―――

 背後に気配がする。ナトル兵の1人があたしの傍に寄ってきたのか。


「アレシア隊長! お待たせしました!」


 聞き慣れた声―――まさか!?


 振り向くと、かつての副官がそこに立っていた。


「え? 副官のマウルか? なぜここに?」

「ハハ、我々クビになりました! あのクソ王子に!」

「え? クビ……ならなぜここに?」

「やることもないので、かつての隊長殿にご助力しようかと。それにナトルが抜かれれば、我が故郷が蹂躙されてしまいますから!」


 来てくれたのか……あたしはもはや隊長でもなんでもないのに。故郷を守るとはいえ、何の見返りも期待できないのに。


「さあ、いつも通りサッサと片付けましょう! アレシア隊長!」


 あたしは胸に込み上げてくる何かを無理やりしまい込むと、元部下たちに大声を上げた。


「全員聞け! 再度大技を繰り出す! その後全員突撃だ!」


 すでに副官はそれを予測していたらしく、各元部下たちは要所に散らばりナトル兵と連携をはじめていた。


 これだ! 絶妙の陣形。


 ―――「ふぅううう……」


 あたしは深呼吸してお腹の底に力をいれる。

 先生から教わった【闘気】をこれでもかというほど練りこんでいく。


 あたしの「剣技」と先生の【闘気】すべてを使った最大奥義―――


 グッと地面を蹴り、猛スピードで敵の中央部に迫り、聖剣を振り下ろす。



 ――――――「一刀両断!!」



 虹色の極大斬撃が敵中央に炸裂した。

 斬撃の余波が、周辺全体に飛ぶ。敵の陣形が大きく崩れ、敵は何が起こったのかわからず混乱状態となる。


「よし! 全軍突撃! ナトルを侵略者から守れ!」



 それから数時間、大勢はほぼ決した。

 あたしの【一刀両断】により大きく崩されたノースマネアの陣形をナトル将兵が、必死の突撃で大打撃を与えた。


 ノースマネア軍本体は、残った兵力をまとめることも出来ずに各個撃破されている。


「ふぅ~~これでノースマネは撤退するだろう」

「さすがアレシア隊長です! 久しぶりにスカッとしました」

「ふふ、不謹慎な奴だ、まだ戦闘中だぞ……ん? なんだこの地鳴りは?」


 地面がグラグラと揺れている。

 徐々にその揺れは大きくなっていくようだ。


「前方になにか巨大なものが! こちらに接近してきます!」

「な……なんだあの大きさは!」


 ズンズンと地鳴りを立てて近づいてくる物体。


 それは、見たこともない巨大なゴーレムだった。

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