第15話 オッサン、ヌケテル将軍自慢のミスリルシリーズを「せいっ!」してぶった斬る

「はっは~、吾輩の力を思い知らせてやるぞ~地味オッサン~~! 真剣勝負だぁ!」


 王城内の訓練場で、鼻息をフンフンさせていきり立つフリダニア王国のヌケテル将軍。


 なぜか、俺はヌケテル将軍とタイマン勝負することになった。


 王様に流石にマズいでしょ、ましてや真剣勝負とか絶対ダメでしょ。と助け船を求めたら、「うむ、バルドの力を諸将に知らしめる良い機会じゃな! 存分にやるがよい」

 とか言い出す始末だ。


「では、双方~参ったと言うか、気絶するまでじゃ。はじめっ!」


 王様が開始の合図を俺たちに送る。


 こりゃ、やるしかなさそうだ。おれは抜刀して正眼に構えた。

 するとヌケテル将軍も抜刀するが、なんか剣を高々と真上に上げている。

 んん? どういう構えだ?


「はっは~~。みろ~吾輩のミスリルソードを! この剣で切れないものはないのだぁ! 金貨5000枚の品だぞ!」


 つぎは背中から盾を出して、また高々と真上に上げる。


「はっは~~。みろ~吾輩のミスリルシールドを! この盾で防がないものはないのだぁ! こちらも金貨5000枚の逸品だ!」


 ふむ、どうやら装備自慢らしい。

 オッサンの剣は銀貨1枚の超安物だ。盾とか鎧にいたっては、そもそも無い。

 しかし、剣5千、盾5千に鎧1万だったか。


 ……てことは合計金貨2万枚!?


 え~と、金貨2万枚を銀貨に換算すると……え~~~。

 うん、やめよう。なんか悲しくなってきた。いずれにせよ途方もなく高価だってことだ。


「はっは~吾輩の総ミスリルは誰も砕くことはできんぞ~~勝負ありだなぁ! グフ~これで剣聖殿の体も吾輩のもの~グフフ」


 体? 


 こいつアレシアをなんだと思っている……

 冗談なのか知らんが、さすがに不快感が湧き上がってくる。


 ―――この男、言っていい事とダメな事の分別ができんのか。


 ヌケテルの言葉に俺の【闘気】が高まっていく。体中にどんどんパワーがめぐりはじめた。

 やがて、その【闘気】は握る剣にも伝導していく。


 スゥウウ―――俺は大きく息を吸い込んだ。


「さあ~そろそろこのミスリルソードの初陣といくかぁ!」


 将軍は俺めがけて一気に間合いを詰めてきた。

 上段からの打ち下ろしか……なんだか随分とゆっくりした動きだな。


 俺は相手に合わせるように銀貨1枚の安剣で迎撃する。


「せいっ!」


 ――――――スパンッ!


 何かが綺麗にキレる音が訓練場に響く。

 その後を追って、ザンっ地面に刺さる音がした。


「はっは~~。どうだ~そんななまくら剣~吾輩がスパッっと斬り落として……はれ?」


 俺は静かに息を吐いた。


「はあ~~~! ミスリルソードがぁあああ!」


 ヌケテル将軍のミスリルソードは途中から先が消えていた。

 俺が【一刀両断】で斬り落としたからだ。


 んん? これは……


「どうした? どうやら最強の剣じゃないようだな」

「いや、これは……ええ? どういう?」


 どうやら高価な剣を斬られて、将軍は動揺しまくっているらしい。確かに金貨5千枚がゴミクズと化したのだから焦るよな。そして、剣を交えて俺の中で1つの疑問がわいた。


 もうちょい試してみるか……


「さて、今度はこちらからいかせてもらうぞ」

「はぅううう! わ、吾輩の最強盾ミスリルシールドはどんな攻撃も……はわぁああ!?」


 今度はミスリルシールドとやらを「せいっ!」と両断した。


 ―――やはりだ。


 さきほどの疑問は確信に変わった。


「さて、剣も盾も無くなったぞ。降参か?」


「はわぁあ! ただのオッサンごときにこの吾輩が降参だとぉお! まだだぁ! 最強の鎧があるのだぁ!」


 ヌケテル将軍は、武器もなしに俺に向かって突っ込んできた。


 やれやれ、しょうがない。

 俺は剣をグッと握り、そのまま正眼に構えて息を大きく吸い込む。



 ―――「一刀両断! せいっ!」



 一筋の剣閃が走ると同時に、ヌケテル将軍の動きがピタッと止まり、将軍ご自慢の鎧はパカッとまっぷたつになってしまった。


 将軍は一瞬何が起こったのかわからず。ホゲ~と目が点になっている。


 ところで……


 なんでパンツ一丁なんだ!?


 おい! なに全裸に近い状態で鎧を装備してるんだ。

 ティーシャツは着ておけよ。俺はちゃんと肌着として白ティーシャツを着てるぞ。オッサンとしてのマナーだ。


「はわぁああ! なぜだぁ! 吾輩の超高かったミスリルシリーズがぁ! こんなただのオッサンに敗れるだとぉおお!」


 パンイチ将軍が頭を抱えて、現実から目を逸らしはじめた。

 いい大人がなにをやっている?


「愚か者が! アレシアの今の強さは血のにじむような地獄の努力を重ねたからこそあるんだ! 貴様のように他人の血税で武具のみ着飾っても強くはなれん!」


「努力ぅう? おまえはなにを言ってるんだぁ?」


「それが証拠に、オッサンの俺にすら負けているではないか! オッサンにすら負ける奴が剣聖アレシアに勝てるかぁああ!」


「ひぃいい、なんだこのオッサンの気迫はぁああ~~ビリビリするぅうう」


 おっと、つい熱がこもって声に【闘気】をのせてしまった。

 これをやると、相手はちょっと圧がかかったような感じになる。


 よし、ついでに俺が確信したことをパンイチ将軍に教えてやろう。


「あとな、それはミスリルではないぞ!」


「へ?」


「当たり前だ、この銀貨1枚の安物剣でミスリルが切れるわけないだろ! トウフを切ってるのかと思ったぞ!」


「「「「「へ?」」」」」


 ん? 


 なぜかヌケテル将軍以外からも驚きの声があがった。


 だが間違いなくミスリルなんかではない。あまりに手ごたえが無さすぎたからな。おそらくヌケテル将軍はパチモノを買わされたんだろう。

 まあ落胆する気持ちはよくわかる。なぜなら……



「――――――俺の剣もパチモノだからだ!」



 俺が銀貨1枚という言い値で買った翌日には、銅貨1枚で売ってたからな。あの時の精神的ダメージは今も残っているぐらいだ。大好きなアンパンを我慢してまで出した、なけなしの銀貨1枚だったんだぞ。


 そんな安物剣でミスリルが斬れるわけがないからな。斬れるとすれば、それはパチモノだからだ。

 しかしパチモノミスリルで助かった……本物であれば俺の剣など一瞬で折れていただろう。


「ひぃいい、何言ってんだ意味わからん。このオッサン、ヤバイぃいい」


「な、何者なんだあの男!? ミスリルを斬ったぞ!?」

「あのオッサン、なんでも斬るぞ!」

「キレキレっオッサンだ!」


 なんか周りが騒がしくなってきた。パチモノの装備を斬っただけで何を大げさな。というかキレキレっオッサンってなんだ。


「うむ、勝負ありじゃな。バルド見事なり!」


 王様の声と共に、リエナが駆けつけてきて飛びついてきた。

 こら、やめなさい。仮にも王女でしょ。というかオッサンいま汗臭いの! 

 白ティーシャツがヤバイかもしれないの!


「バルドさまカッコイイ~~、惚れ直しました~♡」

「こら、リエナ! あたしの先生に気安く触るな! 離れろ!」


 だめだ、アレシアも来てよけいにややこしくなり始める。


「おお、リエナ姫とも懇意のようだぞ!」

「あの剣聖殿にも先生とか言われてるぞ!」

「もしかしてあのオッサン、とんでもない特別役じゃないのか?」


 ほら~~、周りのザワザワたちが勘違いしてるじゃないかぁ~!

 俺は目立ちたくないのに……早く帰りたい。


 がそんな俺に王様は待てという。


 もう用事も済んだし、いったん宿屋に戻りたい。取り合えず汗臭くなった白ティーシャツ着替えたいのに。


「ふむ、ヌケテル将軍よ、自慢の装備が無くては存分に働けまい?」


「ふひぃ~~吾輩の予備ミスリルシリーズを本国から取り寄せる~1週間まて! それまでフリダニア軍は動かん!」


 いやいや、動かんって……子供か。

 ていうかもうワンセットあるのかよ、どんだけパチモンに貴重な税金を費やしてんだ。


「決戦は数日後の予定じゃ~それでは同盟国としての約定が果たせんのう~~」


 そりゃそうだ。王様の言う通り敵は待ってくれない。


「ということでじゃな……」


 王様がニヤリと俺の方をチラ見した。あ、嫌な予感してきた。


「バルドよ、お主をフリダニア軍の指揮官とする! 敵を存分に討ち果たすがよい!」



 はい?



 ―――何言ってんの!? 俺の後方支援はどこいった?


「ふひぃ~~なんでオッサンが!」

「約定を果たせぬ以上仕方なかろう。フリダニアの援軍殿は副官すらおらんようだしのう。それに決闘でバルドの凄さは身に染みたであろう? それともパンツ一丁で先陣を切るか? ああん?」


 王様が獅子のごとき眼光でヌケテル将軍を睨みつける。

 いや、滅茶苦茶怖いんですけど……そういえばナトルの王様はかつて獅子王とか呼ばれるぐらい武勇に秀でていたらしい。とリエナから聞いた覚えがある。


「ひぃいい~そ、それでいいです……」


「ふむ、これでまとまったのう。バルドよ! お主の軍は遊軍とする。少数じゃしのう。状況にあわせて臨機応変に暴れまわってこい。期待しておるぞ~~」


「おお、特別役殿の遊軍か~素晴らしい!」

「うむ、我らナトルに希望の星が出てきたぞ!」



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