第12話 オッサン、美少女魔導人形セラを輝かせる

「ば、バルドさま……お、お待たせしました~う~重い~~!」


 マリーシア王女との通信が終わってから数時間後、リエナが王城につながる地下の隠し通路からなにやらデカい箱を引きずってきた。

 俺も慌てて彼女のもとに行き、一緒に運ぶのを手伝う。


 ―――てか重っ! よくここまで持ってきたな。


「ところでこれはなんだい? リエナ?」

「ふふ~バルドさま、新しい従業員ですよ~」


 そう言いながら、箱をガチャガチャと開けるリエナ。

 俺とアレシアが開いた箱を覗き込むと……



 ―――なんか人が入ってるぅううう!



「え? ちょ、リエナこれ!?」


「じゃ~ん、魔導人形のセラですよ! はい拍手~~」


 ええ? 人形? いやオッサンもう良くわかんないよ。


「なあリエナ、これどこから持ってきたんだ?」

「はい、王城の宝物庫ですよ~王族以外は立ち入り禁止区域にありました~」


 それ! 外に出しちゃダメなやつ!


「いいんですよバルドさま。どうせ倉庫に眠らせているだけですから。それにこの子も外に出して動かさないと錆びちゃいますもの」


 しかし王国の宝なんだろ? いいのかなぁ、オッサン不安だよ。


「細かいことは気にしなくていいです~~さあ、スイッチオン~~」


 なんか人形のお尻のほうを触ったリエナ。スイッチの場所おかしくない?

 そんな俺の疑問などおかまいなく、ギギギという音とともに人形が起き上がる。


「うわ! 凄いなリエナ! これが魔導人形か!」


 おお~~なんか知らんがオッサンテンション上がってきた~~凄いぞカラクリ人形みたいなもんか。

 ワクワクな俺と魔導人形セラの目がスッと合う。


「キャアア! 変態!」


 ―――バシッ!!!



 ……いきなりビンタされましたよ、オッサン。一気にテンション下がるわ。



「セラを裸にして何する気デスカ! ケダモノ!」


 ちょっと待って欲しい。初めから裸だったんじゃん! ねぇ、みんなもみてたよね! この子裸だったよね! これじゃ俺が変態オッサンみたいじゃないか。


 まあ、とにかく服を着せてあげないと。セラは女の子設定なので、ここはリエナとアレシアに任せる。


 例によって、リエナが自分好みのメイド服を着せたようだ。栗色の髪に大きな瞳、スリムだが凹凸がしっかりとした身体。

 本当に機械なの? メイド服が似合う可愛い娘にしか見えない。


 早速、セラに一通りの仕事をやってもらった。

 結論から言うと、セラはすっごい出来る子だった。 めっちゃ優秀だぞ!

 顧客対応、客室手入れも申し分ない。また料理まで作れちゃう。しかもこれがまた美味。


 これは最高の従業員じゃないか~と思っていたら、セラの様子が少しおかしくなってきた。


 なんだか動きがゆっくりというか。のんびりしている感じなのだ。

 いや起動した当初はそんな事なかった。とてもキビキビとした所作で動きまくっていた。こうなったのは仕事をして数時間たってからである。


「バルドさん~これ~どこにしまえば~良いデスカ~」

「あ、その書類はここに入れてくれ」


 う~ん、声も間延びし始めたぞ。

 やはり、機械でも疲れるんだろうな。そこらへんは俺がしっかり休憩取らせてあげないと。


 ん? なんの匂い?


 ―――って、頭から煙出てるじゃないのっ!


「お、おい! セラ!」


 俺の呼びかけに、こちらを振り向いたセラがガクッと倒れそうになった。


「おっと! 大丈夫か?」


 俺は咄嗟にセラを抱き留めて声をかける。

 やはりちょっと休憩を取らせよう。ごめんな。


 ……ん? あれ?


 セラから返事がない。

 なんかセラさんが白目むいているような?


「ちょ! セラ! セラ!」


「あ~~バルドさまったら、早速新しいメイドさんにベタベタしちゃって~するならわたしにしてください~キャ♡」


 リエナが異変に気付いてパタパタと駆けつけてきたが。違う! 煙はいて白目むいたんだ! 


 ヤバイ! 壊した? 

 オッサン過重労働させたうえに壊した? ヤバイ! 極悪非道オッサン経営者になってしまう!


 俺が焦りまくっていると、リエナはセラが白目をむいている理由を教えてくれた。


「それ、魔導石切れですよ~」

「へ?」


 リエナが言うに魔導人形とは大量の魔力を消費して稼働するそうだ。だから魔力をため込んだ魔導石を結構なペースで交換しないといけないのだそうだ。

 ようはセラは魔力切れで動きが止まったということ。そうだったのか……オッサン一人で焦ってしまった……ちょっと恥ずかしい。


「しかし魔導石か……とてもじゃないがうちの家計で大量購入なんかできないぞ」

「なに言ってるんですか、バルドさまなら魔導石なんかいらないじゃないですか」

「ん? それって【闘気】」のことか?」


 そうか! 俺は【闘気】を魔導石に注入して魔力の代わりとして使用できる。この宿屋の主要設備もすべて俺の【闘気】でまかなっている。


「リエナ、ありがとう! 早速やってみよう。セラの魔導石はどこに設置されているんだ?」


 リエナがセラのスカートの中をちょいちょい指さした。


 いや、だから設置場所おかしくない?


 オッサンが美少女従業員メイドのお尻をまさぐるなど、完全に牢屋行き案件なのでリエナにセラの魔導石を取ってもらう。

 しかしスイッチといい魔導石といい、なぜお尻につけたんだ? 製作者の常識を疑うぞ。


「せいっ!」


 俺はリエナから受け取ったセラの魔導石に【闘気】を流し込む。必要量はわからんので多めに入れよう。

【闘気】を入れ終えた魔導石をリエナに渡す。


「ふわぁああ~バルドさま~なんか魔導石がギラギラに輝いてますよ~凄い~~」


 ええ? マジかよ。魔導石を壊しちゃったのか? ヤバいな、俺の【闘気】注入は世間一般には知られていない方法なはずだ。つまり魔導石を作った人の想定外のものを注入している。ようはまがい物を入れてるようなもんだ。

 セラは宝物庫に保管されるほどの魔導人形だ。そこらの品よりもデリケートなのかもしれん。純粋な魔力以外を注入したら不具合が起こるとかないだろうか……うむ、ちょっとリエナにいったんストップを……


 ―――遅かった~~! 


 ヤバイ~リエナさん、もう魔導石をセラのお尻に突っ込んでるじゃないの! あとこの絵づらもヤバい!


 ドキドキドキ


 どうしよう、万が一にも故障とかしたらどうしよう。弁償するお金なんか無いし、なによりもセラを傷つけることになってしまう。


 ピカ―――


「セラ再起動シマシタ! ううぅうううう」


 ほら~なんか変な声出ちゃっているよぉおお! 

 すぐに魔導石を取り出さないとぉおお!


「超気持ちいいデス!! ご主人サマ、セラは勘違いしてました。ご主人様はセラに素晴らしいものを与えてくれた! こんな気分はハジメテ! セラは永久にご主人様のものデス!」


 ―――あれ? なんか大丈夫そうだ? 誤解を招く言葉はおいおい教育するとして良かった~。


 オッサンがホッと胸をなでおろしていると、仕事の続きを再開します。と言ったセラがとんでもない速度で動き出した。


 目の前をビュンビュン行ったり来たり。

 受付しながら荷物はこんで、一瞬で洗濯物を干してしまう。


 速さだけではない、大きな荷物をいくつもひょういひょい運んでいる。あんな細腕なのに……!?


 いずれにせよ、わが宿屋「親父亭」は超優秀な従業員を雇い入れた。オッサンの仕事、無くなっちゃうんじゃなかろうか……


 などとセラに感心していると、ロビーの扉が開いて鎧をまとった騎士が入ってきた。


「ごめん! バルド殿はいらっしゃるか? 王より手紙をお届けに参上した!」


 俺は騎士から受け取った手紙を開封する―――「あ……」



 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 招集令状


 特別役 バルド殿

 ナトル王国に危機せまる。約定に従い、急ぎ王城に参上せよ。


 ナトル王国 国王マテウス・ロイ・ナトリス


 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 うわぁあああ、行けちゃうじゃん俺。

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