第3話 オッサン、王様と王女に迫られる

 強引に馬車に乗せられた俺。なぜこんなことになったんだ。

 たまたま悲鳴を聞いただけ。たまたまオッサンでも倒せる魔物だっただけ。たまたま救った人が王女だっただけなのに。


 よし、今からでも間に合う。おいとましよう。

 俺は馬車の扉に手をかける。


 ガチャリ!


 扉に鍵をかけられた。


 ガチャリ! ガチャリ! ガチャリ!


 え、いやもう引くぐらい鍵を重ねがけされてるんですけど……


「あら? バルドさま、どうしたんです?」

「いや、そろそろ、おいとましようかと思いまして……」


「どうしてっ!」


 ひぃっ、どうしたのこの子。急に叫ばないでよ。


「姫ですよっ! 姫助けたんですよ! このイベントで逃げはありえませんよ!」


 うわぁ~なんか絡んじゃいけない人を助けちゃったかなぁ。


「フォフォフォ、リエナよバルドは緊張しておるのだ。バルド、我が娘リエナは少し変わっているかもしれんが、気にするでない。まあリラックスせい」


 いやいや、そう言いつつあなたも反対側の扉に鍵をガチャガチャかけてるじゃないの。まったくリラックスできないんですよぉ。

 この人たちは、どうしても俺を馬車から降ろしたくないようだ。


「ふむ、とりあえずわしの自己紹介がまだじゃったな。わしはマテウス・ロイ・ナトリス、なんとこのナトルの国王じゃ!」


 いや知ってますよ。王冠コスプレしている人じゃないぐらい、俺でもわかりますよ。


「改めて礼を言うぞ、バルド! よくぞ我が娘を窮地より救ってくれた!」


 王様がグイっと寄ってくる。お礼は嬉しいのだが、立派な髭が目のまえでモジャモジャとして落ち着かない。この国の王族はみんな距離感が近いのかな。


「ふむ、しかし腕利きの騎士たちでも歯が立たないミスリルベアを真っ二つにするとは。お主は何者なのじゃ? フリダニアから来たと言うておったが、名のある騎士かのう?」

「いやいや、私はただの宿ですよ。そんな大層な騎士さまとかではないです」


 うむ、これはまごうことなき事実だ。オッサンはウソつかない。


「しかし普通の親父はミスリルベアを真っ二つどころか、傷つけることもできんぞ。あやつの硬さは尋常ではないからのう」


 ええぇ……まあ硬いといえば硬い部類に入るかもしれんが、大げさすぎるよ。俺は昔もっと硬い奴に出会ったことがある。あの時は、何発も【一刀両断】を叩き込んでようやく仕留められたからな。キングアダマンタイトなんちゃらって長ったらしい名前の魔物だった。剣聖アレシアであれば、一撃で葬り去るのであろうけど。


 しかし何故かわからんが、王様と姫は俺を持ち上げてくれているようだ。

 ―――よし! ここは乗っておくか。客の話に乗るというのは宿屋の親父をして得た能力、そうオッサン処世術なのだ。


「まあ、私こう見えて【闘気】を多少使えるのです」

「なに! トウキじゃと!?」

「ええ!?……バルドさま凄い……」


 ふふ、2人も乗ってくれてるな。ぶっちゃけ【闘気】なんて、少し訓練すれば使えるものだ。実際俺の弟子たちは簡単に会得して、あっという間に俺より凄い使い手になったし。


(ふ~む、まさか闘気とはな……実際に使える者に会ったのは初めてじゃわい……いや? たしか5年前の血の会戦の時にも確かいたという噂が……リエナよこれはとんでもない奴に助けられたやもしれんぞ)

(ええ、お父様……私も闘気を使える方なんて会ったこともありません。凄い殿方に助けられたんですね……私たち)


 今までグイグイきていた2人が、黙ったかと思えば急にヒソヒソ話し出した。何を言っているかは良く聞こえないが。オッサンの乗り方が下手くそだったかな? 

 オッサン処世術とか調子乗っていた自分がちょっと恥ずかしい。



 そうこうするうちに、王城に到着してしまった。

 うわぁ~また城かよぉ……




 ◇◇◇




 なぜか俺は王様の個室へ通されていた。王様と二人きり。こんな今日会ったばかりの奴を入れていいのか。


「バルドさま~~」


 そこへ、リエナ姫が元気に入室して来た。

 黄金色の髪は窓から漏れる陽光を反射して輝き、琥珀色の瞳。さらに存在感のある2つの膨らみと程よく締まったウエスト。まさに超絶美少女と呼ぶにふさわしい容姿である。


「バルドさま?」


 いかん、見とれてしまった。


「もしかして、見とれてくれたりしたのですか?」

「あ、えっとリエナ王女殿下が、その大変美しく……」


 なに本当の事言ってんだ俺。こんなオッサンが、美少女をジロジロ見ながら綺麗とか言ったらキモいじゃないか。


「まあ、うれしい! 着替えて良かった~~」


「当然じゃ。我が娘は世界で一番かわいいからのう。してバルドよ、お主何故ゆえにナトルに来たんじゃ。観光ではないであろう?」


 まあ、適当なウソをついても良かったのだが、王様の目力が強すぎたので事の経緯を話した。


「なんと! あの三神の先生だと!」

「ええ~バルドさま凄いっ!」


「いや、元先生ですよ。今では彼女たちの方が遥かに強いですからね」


「むぅ~~じゃが、お主もたいがいのように思えるがのう。そのような者を追放するとは……フリダニアの王子は何を考えておるのじゃ。いかに大国フリダニアといえども、たわけが王代理に就任すれば国は傾くぞ」

「そうです! バルドさまを追放とか、アホなんですか? その王子!」


 ボロクソに言われてるな、ゲナス王子……。

 にしても、買い被りすぎだ。何度も言うが、俺は一般兵より少し強い程度なんだ。

 なぜこの2人がここまで食いついてくるのか、全くわからない。もしかしたら俺をフリダニアのスパイとかと疑ってるんじゃなかろうか。

 よし、やはり早く退出しよう。そう思った時に王様がとんでもないことを口走った。


「ふむ、バルドよ。わしらを助けた褒美として、お主に男爵位を授けようと考えておるのだが。どうじゃ?」


 はあ? 爵位?? 

 何言ってんのこの人?


 俺は王様が何を言っているのか理解できずに混乱してしまった。


「不服か。では子爵でどうじゃ?」

「いや……」

「じゃあ、伯爵!」

「だから……」

「むぅ~ならば侯爵!」

「ちょっと……」


「う~む、お主ほどの人物。是非ともナトルに留めておきたいのじゃが」


 いやいや、バナナのたたき売りみたいな感じで爵位与えちゃダメでしょう。


「ちょ、ちょっと待ってください。俺は爵位とかまったくいらないんです! ただ宿屋の店主をしたいだけの一般人なんですって!」


 王族とか貴族とかに関わるのはもうまっぴら御免だ。宿屋のオッサン店主として、のんびり余生を過ごしたいだけなんだ。

 しかし、勢い余って俺って言っちゃった。失礼だったかな? 王様、ムゥ~って顔しているし。


「フム、ならばその宿屋を与えよう」

「はい~~~!?」


 え? なに? 宿屋をくれる?


「えっと、それはどういうことでしょうか?」

「言葉の通りじゃ。王都の外れではあるが、空きの宿屋があるでな。そこをやろうと言ってるのだ」


 マジかよ! 俺、硬めのクマを1匹切っただけだぞ……そんなんで宿屋くれるの!?


「ただし……じゃ」


 ほ~らきた。そりゃそうだ。硬クマ1匹討伐した程度で、宿屋とかくれるはずがない。


「お主にはナトルの【特別役】になってもらう!」


 はぁ~~~!?


 ええぇえええ! 俺、その役のせいで追放されたんですけど!

 うむぅうう、しかしちょっと待て、宿屋くれるのかぁ。ぶっちゃけた話、今から地道に働いて宿屋を購入するとなると購入した頃にはおじいちゃんだ。それはできることなら避けたい。でも「特別役」はやりたくない。

 助けた褒美をくれるってんなら、宿屋だけでいいんだ。


 王様の話によると「特別役」とはナトルが危機的状況に陥った場合に、臨時傭兵として国を助ける。といったものらしい。

 まさにフリダニアの時と同じだ。軍人の予備役みたいなもんかな。

 フリダニアの時は出番はなかったが、ナトルは小国だし、隣接する周辺国も多い。また大森林に囲まれているため、魔物大量発生スタンピードも十分にあり得る。


 つまり、本当に招集されてしまう可能性が高いということだ。

 ここは考えどころだぞ。オッサン脳をフル回転させる。


 んんん~~~まてよ! 

 宿屋の店主となれば、いかなる時も宿にいなければいけない。俺には従業員を雇う金など無いのだ。宿を無人には出来ない。ってことは特別役の件も、あって無いようなもんだな。よしっ、これでいこう!


「はは~国王陛下! それはありがたいお言葉。ですが私は貧乏店主ゆえ、従業員を雇うのはだいぶ先の話かと。準備が整いましたら特別役の件も考えさせて頂きたく、まずは宿屋の主人としてナトルにお仕え致します」


 よ~し完璧だ! これで王族に関わることなく、宿屋の親父ライフがおくれるぞ~。やったぜ!


「何を言うとるんじゃお主。従業員ならほれ、目の前におるではないか」

「―――え?」


 俺に、バイ~ンと柔らかいものが飛びついてきた。


「バルドさま~末永くよろしくお願いいたします~~リエナって呼んでね♡」


 はい? なに言ってんのこの人たち?





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