【追放された宿屋のオッサンは、今日も無自覚に無双する】スローライフを送りたいのに、なぜか国で要職に就く最強美女の元弟子たちが俺を慕って雇ってくれと集まるんだが~ちょろっと教えただけなのに~
のすけ
第1話 オッサン、追放される
「おまえはクビだ! そして追放する!」
俺はバルド・ダルシス。39歳のオッサンである。
王都でしがない宿屋の主人をやっている。客の入りはいいとは言えないが、俺一人なら食っていけるぐらいの稼ぎはある。
そんな俺が、フリダニア王国の王城に呼び出されて、いきなりクビと追放を言い渡された。
「え? ゲナス王子殿下、なぜ……?」
いきなりのことで混乱してしまった俺は、クビ宣告をしたゲナス第一王子を見上げて口を開いた。
「決まっておろう。おまえは国王から特別役なる意味不明の役職を得たことを利用して、王国の財を不正に浪費しているからだ」
ゲナス王子の言う「特別役」とは国王陛下が俺に与えてくれたものだ。と言っても何かするわけではなく有事の際には国を助けてくれ、というものだった。
なぜ俺にそのような役職を与えたのかは、正直なところよくわからない。たしかに過去に戦役にでたことはある。毎日日課の鍛錬も続けている。でもそれだけだ。要はただのオッサンだ。
「え? 私が浪費? おっしゃっていることが良くわからないのですが?」
「フハハ、あくまで白を切るつもりか。証拠はあがっているのだ!」
ゲナス王子が手をあげると、1人の騎士が紙の束を持ってきた。
「これはおまえが経費と偽って提出した領収書だ。これらは巧妙に細工されているが、その全ては1つのある店舗から発行されたものと判明したのだ!」
どうやら、俺はニセの領収書を提出して、王国の経費を不正に使用していたらしい。
え? なんこれ?
当然ながらまったく身に覚えがない。というか領収書を出したら経費くれるんだ。オッサン知らなかった。
「ちょっと待ってください! 私にはまったく身に覚えのない事です!」
「ククク、まだ認めんか。まあ無能クズ野郎の卑怯な思考など想定内よ。おい! そこの者たち、こっちにこい!」
数人の女性がこちらへ姿を現した。なんだか色っぽい格好をしている。
「あら~~バルドさま~~ご機嫌よう~♡」
「ごめんねぇ~バレちゃったわ~~♡」
「最高の常連さまだったのにぃい~もう会えないのねぇ~♡」
ようするに俺は高級お姉ちゃんのお店に、国のお金で入り浸っていたというわけだ。
こんなムチムチお姉さんたち、全く知らないんだが。
「皆の者も見ただろう! この者は我が父上である国王の信頼を裏切り、夜な夜な酒池肉林ざんまいしておったのだ」
「おお、なんという下賤な輩か!」
「国王陛下の温情を踏みにじりおって!」
「なんだこの1日の使用金額は! 常軌を逸しておる! この色情狂がっ!」
周りの貴族連中からも罵声の嵐が飛んできた。
俺は関知していない旨を何度も主張するも、もはやどうにもできない状態になっていく。
そんな絶望的な状況で、1人の人物が声をあげた。
「ゲナス王子殿下、いけませんぞ。バルド殿がそのような不正をするとは思えません。それに、特別役であるバルド殿を絶対に王国に留めておけと、国王陛下に言われていたのをお忘れですか」
王国の宰相である、ピエット殿だ。数えるほどしか会ったことはないが、俺を擁護してくれるようだ。
「でしゃばるなピエット! もはや父上は心の病にかかられて正常な判断はできん。どうせその特別役も父上の心の弱みにでもつけ込んだんだろう。こいつは王国に巣くうクソゴミ寄生虫だ! 即刻追い払わねばならんのだ!」
「し、しかしゲナス王子殿下。バルド殿は三神を最強に導いたお方と聞いております。王国にとっても、いてもらわねばならない存在かと存じますぞ」
ピエット宰相殿が言う三神とは。
剣聖アレシア・オラルエン
王国史上最強の女剣士。彼女の振るう剣は千の軍に匹敵し、誰も彼女を止めることはできない。
聖女ミレーネ・フォンレリア
王国史上最高の大聖女。彼女の発動する大結界は、いかなる魔物も寄せ付けない。
大魔導士キャルット・マージ
王国史上最強の魔法使い。あらゆる魔法に精通しており。中でも彼女のみが使えるとされる極大魔法メテオは、一撃で戦局をひっくり返す。
実は彼女たちは、かつての俺の弟子だ。
といっても鍛えたのは幼少の頃の話である。基礎中の基礎を反復訓練させただけ。その後、才能を開花させた彼女たちは、自らの努力により今の地位を勝ち取ったのだ。おそらく俺が国王陛下から特別役なる役職を与えられたのも、彼女たちの活躍のおかげなんだろう。
俺は彼女たちにきっかけを与えたに過ぎず、実力はとうの昔に俺を超えてしまった。
だが、それでいいのだ。人にはそれぞれ役目がある。俺は彼女たちの成長のきっかけを与えるという役目だったのだ。みんな巣立って立派になった。こんな幸せな事はないだろう。俺にとってはそれで十分であり、あとは宿屋の主人として、こじんまりとスローライフを送りたいだけなのだ。
「はぁ~~? ピエット、おまえは何を言ってやがるんだ? このクソゴミ寄生虫になんの価値があるんだよ! 存在意義なんかねぇんだよ! まったく親父の息のかかった奴はアホばかりか。言っておくが俺様は親父のような弱腰路線は取らんぞ。帝国をも滅ぼして大陸の支配者となるんだからな!」
「な、何を言っておられるのですか。帝国は大陸一の強国。こちらから仕掛けるなど、狂気の沙汰ですぞ!」
「まったくお前の情報力の無さには辟易するな。すでに奴らが侵攻しなくなって5年がたつのだぞ! 帝国は内部崩壊を始めているのだ。 これは俺様の有能なスパイからの情報だ。三神をはじめとして俺様には、そこのクソゴミ無能とは全く違う有能な部下がた~くさんいるのだ! もうよい、お前はさがれ!」
ピエット宰相殿は顔を歪めつつ頭を垂れて、退出した。
「ヒャハハハ、わかったか~~クソゴミ無能野郎が~特別役なんてふざけた役職はクビだ! 寄生虫はさっさとこの国から出ていけ! あと私財は全て没収だ!」
ゲナス王子は、ピエット宰相のお言葉ですら聞く耳を持ってくれない。もはや何を言っても、聞き入れられない状態となってしまった。
はぁ~~弟子もみな巣立って大成してくれた。あとはこの国でゆったり余生を過ごそうと思っていたのになぁ。
にしても、私財没収は酷すぎないか。オッサンが何をしたって言うんだ。
が、これ以上抵抗してもどうにもできなさそうだ。それに、問題がこじれると、弟子たちにも迷惑がかかるかもしれない。
「わかりました。もはやいくら身の潔白を主張しても聞き入れられないとなれば、出ていきましょう。二度とこの国の大地は踏まないでしょう」
俺はいつまでも高笑いを止めないゲナス王子をあとに、その場から退出した。
◇◇◇
「はぁ~とは言ったものの、どうするかなぁ。取り合えず荷物まとめて、王国から出ないと……」
ガックリと肩を落として、トボトボと廊下を歩いていると、突然可愛らしい小鳥のような声に呼び止めれられた。
「まあ、バルドさま! ご無沙汰しておりますわ! 暗い顔をされて、どうされましたの?」
第一王女のマリーシア様だった。彼女はゲナス王子の腹違いの妹君である。
彼女は元弟子の三神と交流があり、そのつてで俺も多少の付き合いがあるのだ。
俺は、事の成り行きをマリーシア様にお話しする。
「なんですって! 酷いでっち上げですわ! なぜバルドさまが、そのような仕打ちを受けなければならないのですか! わたくし納得できません! お兄様に掛け合いますわ!」
普段温厚な王女殿下が顔を真っ赤にして、声を荒げている。
「マリーシア様、ありがとうございます。ですが、ゲナス王子は何を言っても考えを変えないでしょう。そのお気持ちだけで十分です。」
「で、ですが……バルド様が王国からいなくなるなんて……そんな」
まだ納得がいかない様子の王女殿下。しかし、もはやどうにもなるまい。それに王女殿下にまでご迷惑をお掛けするわけにもいかないしな。
まあ王国については、俺の弟子たちもいるから大丈夫だ。それにここまで大きな国なのだ。ゲナス王子の言うように、弟子たちにばかり頼らないよう他にも人材はいるのだろう。まあ当たり前か、一介の宿屋オッサンである俺がどうこうできることでもない。
「これはせめてものお詫びですわ、旅の路銀としてお使いください。あとこちらを」
マリーシア様は、俺に金貨の入った小袋と小さな石を渡してくれた。
俺は少し躊躇したが王女殿下がグイグイ押してくるので、ありがたくご厚意に甘えることにした。
小さな石は遠距離通信石だった。相手方の持つ石と会話できる魔道具だ。こんな高価なものまで。
「本当はご一緒に食べたかったのに……」
残念そうな顔をするマリーシア様が、最後に包み紙をひとつ渡してきた。旅路で開けてくださいとのことだった。
「わたくし、まったく納得してませんから! こんなこと絶対おかしいですわ! 必ずバルド様を連れもどします! 通信石はしっかり持っていてくださいね」
俺のようなしがないオッサンにここまで良くしてくれるなんて、とてもありがたい。なんだか少し気分が上向いた。明日への活力が僅かばかり湧いてきたような気がする。
王女殿下に一礼をした俺は、フリダニア王国をあとにした。
◇ゲナス王子視点◇
ギャハハハ、バルドの野郎を追放してやったぜぇ。しかも俺様の風俗使い込みも全て擦り付けてやったぞ。あ~~スカッとしたぜぇ。笑いがとまらねぇよ。
あいつは無能クズ野郎のクセに、凡人の親父に取り入ってチヤホヤされて、前から気にくわなかったんだよなぁ。
おまけに、俺様の最愛の妹にまでちょくちょく声をかけられやがって。妹は俺のものなんだよ!
ぼんくら親父が健在なうちは手が出せなかったが、親父も俺様の天才的計画により廃人同然にしてやったからなぁ。
もはや王国の全権は、この有能な俺様が握ったといっても過言ではないだろう。
クヒヒヒ、ようやくだ、ようやくだぜぇ~。
これで無能クズ野郎にぼんくら親父と、ゴミ掃除は終わった。あとは周辺国と戦争しまくってフリダニアを最強の王国にしてやる。そしてラストはガタガタの帝国をぶっ殺して、大陸の支配者となってやるぜぇ。
ギャハハハ、俺様すげぇ~~天才過ぎて、自分に震えちまうぜぇ。
この時、ゲナス王子は大きな思い違いをしていることに気がつかなかった。
帝国は弱体化などしていなかったのだ。5年前の「血の会戦」以来、帝国が王国に手を出さなくなった理由。
―――それは当時の帝国軍をボコボコにした三神が健在であるから。さらに三神の活躍する裏舞台で、帝国を真の恐怖のどん底に叩き落した名も知れないオッサンの存在が王国にあったからなのだ。
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【読者のみなさまへ 新作投稿開始のお知らせ】
新作を投稿開始しました。
異世界召喚に巻き込まれたおっさん、みんな勇者なのに俺だけ【三流召喚士】で外れスキル認定→速攻追放かと思いきや、なぜか姫が「これ最強のパターンですわ!きた~!!」と救世主様扱いで付きまとってくるのだが
https://kakuyomu.jp/works/16818093084993703614
巻き込まれ召喚されたおっさんが、ハイテンション姫とともに近現代兵器無双で大暴れします!
是非お読みください!
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【読者のみなさまへ】
いつも読んで頂きありがとうございます。
オッサン頑張れ!
と思って頂けたら、オッサンは泣いて喜びます!
そして、少しでも続きが読みたい!
と思って頂けたら、作者も泣いて喜びます!
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