第六章 想い出をあなたに……

56限目

「良い天気だなアーリャ」


「はい、マクシス様」


 わたしは今まーくんと一緒に馬車に乗っている。いつも乗っている自分では無く豪華な内装……これはまーくんの用意したお城で使われている馬車だ。


 学院では伯爵になったと言ったけど実は叙任前で正式なものをこれからお城ですることになっている。セーラーさんとか絶対に自分で調べないだろうからよかったけど、もしもまだ正式に叙任されていないと突っ込まれたら面倒ではあったんだ……まぁ、身分が関係ない学院だと言い張るつもりだったけどね。


「わたしがマクシス様とご一緒しても良かったのでしょうか?」


「かまわない。学友同士、二人とも同じ目的地なのにわざわざ別々に行く必要も無いだろう」


 学院から王城までの道のりはそれほど長いわけでは無いのだけれど、まーくんから馬車へ同乗のお誘いを受けて一にも二にも飛びついて了承したのです。えぇ、ここで断る意味が分かりません。


「去年度はなかなか忙しかったが新学期は落ち着いて過ごせて良かったな」


「あはは、その節はすみませんでした」


「いや、あれはアーリャは悪くないだろう。それにしてもどうして立て続けにアーリャに絡んできたのやらだな」


 去年の学院四天王の事を言っているんだろうけど、あれはキャレルさんの差し金ですとは言えないので笑って誤魔化すしかないね。


 あれからキャレルさんはクラスと授業が別々になり、表向きまーくんにちょっかいを掛けるのを止めていた。彼女の護衛に阻まれて完璧に監視出来ていたわけじゃ無いけど、皆の報告から変な行動を起こしては無いと思う。


 学院ルールのせいで身分を使った強引な嫌がらせは難しいのは分かったはず。おそらく学院外からの何かを仕掛けてくると思うのだけれど彼女の家は貴族派と言われる自らの家の利権を重要視する家柄……簡単に王国への接触はしてこないはずだから、いきなり王族と面会から『相棒』にするという事は無いはず。


 ……とはいえギフトジョブのレベルが上がって『相棒』の人数が増えたらどうなるか分からない。彼女の家の動向を注視するのはもちろん、根本的なギフトジョブへの対策も……一応は考えてあるけれど試す事が出来ないのが難点なんだよね。


「どうしたんだアーリャ、考え事か?」


「申し訳ございません、マクシス様と一緒だとなぜだか心がとても落ち着いてしまうのでつい……」


「はは、そうか。俺もアーリャと一緒だと不思議と落ち着いた気持ちになる……何故だろうな?」


 いけないいけない、キャレルさん対策も大事だけれどわたしの中で一番大事なのは目の前のだいすきな人だもん。今だけはそんな事忘れてこの一時を大事にしなきゃね。


 それよりもまーくんが『俺も同じ気持ちだよ(※意訳)』だなんて……嬉しすぎてつい辺り一面を森にしちゃいそうだよ。って、たとえ話だから本当にはやらないよ。


 感情が高ぶって花が咲いたり祝福の光が飛んだりなんて素敵な物語の主人公の本は読んだ事はあるけれど、森が出来るとかどれだけ迷惑なんだろうね、わたしってきっと小説の主人公とかにはなれないんだろうね。

 

「アーリャ見てくれ、あの建物は……」


「……ええっ、そうなんですか? それじゃああっちは……」




 ……まーくんと一緒の幸せな一時は穏やかな馬の蹄と馬車の車輪の音と共に流れていったのでした。




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