44限目

「なるほど、ベイビーはなかなかの策士だね。でも、もし相手が誘いに乗らなかったらどうするつもりだったんだい?」


 わたしはアレウス様に先日起こった難民暴動未遂のあらましの説明をした。アレウス様は興味深く合図地を打ちながら時折綺麗な前髪をファサッとかき上げたりして聞いていた。


「その時は後日、貧民街スラムの難民の身分証を作る名目で間諜スパイをあぶり出す予定でした。もっともこちらの場合は身の危険が増すのでわたしが向こうへは行けないので部下任せな上に、より多くの人数を揃える必要がありましたが」


「全てベイビーの手のひらの上って事だね」


 アレウス様は手に身分証のサンプルである二つのカードを手に取って興味深そうにそれを見つめる。そして、テーブルの上にある木箱のスリットに二つを入れるとそれぞれ箱の下側にある左右二つの出口にコトンっと落ちた。片方の穴には○が、もう片方には×が書かれている。


「正しい身分証とそうで無いものが分かる……これってどういう仕掛けなんだい?」


「まだ試験段階な上にわたしのギフトジョブの能力に依存するので、とてもではありませんが王国に献上出来る物ではありません」


「ベイビーの秘密のギフトジョブかい?」


「いやですわアレウス様、わたしはただの林業師ですよ」


 その返答を聞いたアレウス様の目が少し細められる。うわ~疑われているよ~。でもね、この段階でこの能力を明確に明かすのは避けたいんだよね。出来ればまーくんの記憶が戻って、その、二人が結ばれてからが望ましい。

 教会でも知られていなかったレアでチートなジョブがどういう扱いを受けるか計りかねる段階だし。


「テンカー家長男との決闘の事だけど、うちの林業師に聞いたけど、成長する寸前の気を見極めて切り出された木を生長させるなんてあり得ないって言っていた」


 わ~ズバッと切り込んでくるなぁ。決闘の事も国に筒抜けだなんて……ってことはわたしが悪役令嬢ムーブしている事もバレているって事なの!? それは嫌すぎるよ~!!


「まぁ、そうなんですか? でも自慢では無いですがわたしが一番ギフトジョブを上手く扱えるんだと自負していますのオホホホホ」


 仕方がないので扇を広げると口を隠しながら悪役令嬢らしく笑って誤魔化した。アレウス様はどうしてわたしのギフトジョブを知りたがるんだろう? 

 表向き私に期待されているのは


 1、アルダーク領へ王族派とわかりやすい人間を置く事


 2、魔物被害で疲弊している領の建て直し


 3、2を早めに完遂させて隣国からの防壁となる事


 だと、思っていた。


 多少……というかかなり……わたしのギフトジョブが怪しくても役割を果たせばとりあえずOKって思っていたんだけど、ここでわざわざわたしのギフトジョブを暴く必要ないよね? ってことはこれはただのアレウス様の独断? 何のために? う~ん、情報が足りないからわかんない。


「僕がどうして王国の意向を無視してベイビーの秘密を知りたがっているかって思っているのかな?」


「あら? そんなお話しでしたか? 察しが悪くて申し訳ございませんアレウス様。でもわたしに秘密なんてありませんよ」


 あれ~、顔に出てたかな? 分からないように顔を隠しながら悪役令嬢してたのに。ただのカマかけかな?


「本当はベイビーを僕の手元に置きたかったんだ。だけどベイビーは僕の予想の遙か彼方に飛躍して暫定領主の立場に収まってしまった。こうなってしまうと僕が父上にお願いしてもそれは難しいだろう」


「そうだったんですか。アレウス様にそこまで評価して頂けて嬉しいです」


 危なかった。その立場になると立ち位置次第では学院に通う事もまーくんの記憶を取り戻す手がかりを探すことも難しかったかもしれない。アレウス様には悪いけど自分の裁量で色々出来る今の立場の方が有り難いんだよね。本心かどうかは分からないけどとりあえず表向き信じる体を取っておこうっと。


「ベイビーが失敗すればと思っているなんて誤解しないでほしいけれど、もしも万が一アルダーク領の統治が困難だったら……その時は僕を頼ってくれ」


「わかりました。アレウス様の言葉、有り難く感じております」


 わたしを買ってくれるのは嬉しいけれど、王国のために頑張るので出来ればそっとしておいて欲しいな~。そんな事言えないけど。




 ……こうして、アレウス様はわたしが捕らえた間諜スパイ達を王都に連れて帰っていったのでした。これはどう考えても王子様の仕事じゃ無いけど、やっぱりわたしと話すためだったのかな?




______________________________________


面白かったら★評価、フォロー、応援、レビューなどなどお願いします……物語を紡ぐ原動力となります。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る