22限目
「わかりました、その勝負お受け致しましょう」
「そんな、アーリャさん!?」
「無茶です!! いけません!!」
「アーリャ、そんな無茶な条件の勝負を受ける必要は無い。俺が何とかする」
勝負を承諾したわたしを心配して止めてくれる。でも大丈夫。
「もちろんマクシス様に泣きついて勝負をしなくていい。別の男爵位の者に勝負してもらう……そちらのお嬢様方でも構わないよ? その代わり明日から学院でどんな噂が立っているのだろうな? 勝負を投げて友人に押しつけるような卑怯な人物だ、それはそれは酷い物だろうな?」
急に自分達に話を振られたベスさんとヘレナさんがビクッと恐れの表情を浮かべる。この講堂内でいきなり創作歌を謳わされるなど……そのせいで今後授業が受けられなくなるなんて事実は彼女達に重すぎるだろう。
わたしは孔雀の扇をバッと広げると口元に当てて不敵に微笑む。
「安心してください皆様、芸術に身分などあり得ません。それをわたしが今この場にて証明しましょう!」
講堂内の数少ない身分の低い貴族達から歓声が上がる。少ないけど味方はいるし頑張ろう。
「ふん、言うじゃ無いか。いいだろう、その自信も僕が芸術の名の下に踏み潰してあげるよ」
かくして、わたし達は創作歌で勝負することが決まったのでした。
「それではカイナ・オーツから提案があった創作歌を二人の生徒に歌ってもらう」
芸術の教師がライオンの鬣のような髪型を揺らしながら言った。あれ? 前世で音楽室の額縁の肖像画でそっくりな人を見たような気がするけど、気のせいだよね?
「芸術の名の下に勝負をするからには私は公平にジャッジする。たとえどちらが勝とうとその勝敗に文句を付けることは許さん」
どうやら身分を限定しようとしているのも本気で芸術のためだと思っているのかも? 歌の内容に拘わらずカイナさんを勝たせるような真似はしないかな?
「それではまずカイナから歌ってもらおう」
「わかりました……僕のオリジナル曲を聴いてくれ」
その歌は社交界のダンスパーティーでひと目見た彼女に一目惚れをして、彼女を想って歌う曲だった。キザなカイナさんだったが歌の実力は本物で、曲も歌詞もこの世界、この時代らしい流行を取り入れた曲だった。
講堂内に大きな拍手が湧き上がった。
「良くある曲の域を出てはいないが、生徒が考えた歌とすれば上出来だろう。歌唱力はさすがと言っておこう」
おお、厳しめの評価だけど歌のうまさは評価されているみたい。ううっ、わたしは歌の方はどうだろうねぇ~。
とりあえずみんなが歌を聴いている間に仕込みは済ませたので、後はやることをやるだけだよ。
「次はアーリャ・アルダーク……本当に今日でいいのか? 出来てもいない歌を無様に歌ったとしても私はそれを評価するぞ?」
「ご心配には及びません。芸術に身分など関係ないとお教え致します」
「ふん、強がりを言うじゃ無いか……その自信が嘘じゃ無い事を僕に見せてくれ」
わたしと入れ替わってカイナさんが席に戻っていく。わたしは行動の前に立つと皆の視線が一斉にこちらへ突き刺さる。
さすがに緊張してきた……あ、まーくん、こぶしをぐっとわたしに見せてくれる。ベスさんにヘレナさんも真剣に見ていてくれる。うん、緊張も吹き飛んだよ。
「先生、持参の魔道具をピアノにセットしたので伴奏を入れても良いでしょうか?」
「魔道具をピアノに? いいだろう、だが歌の評価には関係ないからな」
「はい、わたしの気分の問題です」
魔道具なんて嘘だけどね。ジョブの力で作った木で出来た自動演奏機……鍵盤の上に置くと鍵盤を叩いてくれる。寮で練習するために作っておいて良かった。
しばらくするとピアノの伴奏が始まる。ピアノ伴奏があると知らない生徒が無人のピアノを二度見している。
……そしてわたしはお腹に力を入れて口を開いた。
「ねぇどうして~……」
それはわたしの生まれる10年以上も前の曲で、ドラマの主題歌になった……わたしはそのドラマを見た事無いけど……曲だ。お母さんが大好きな曲で、家族でカラオケに行った時に毎回歌っていた。
わたしも何度も聞いているうちにその曲が大好きになった。しってる? そのころのCDって8cmくらいの小さい大きさでケースも縦長なんだよ? そんなどうでも良いことを思い描きながらもわたしは歌を歌い続ける。
「二人出会った日が~……」
その歌はただ好きな人を想って気持ちを伝えたい、愛を伝えたいって歌。
前世では歌の旋律や歌詞が良いって想っていたけど、転生してからまーくんに会いたいという気持ちが募ってその歌詞の意味を本当の意味で理解したの。
「愛してる~ルルルル~……」
歌が終わった……講堂はシーンとしている。目を大きく見開いている人や、目を潤ませている子までいる。
パチパチパチ……拍手が聞こえる。まーくん達だ。やがてその音に連鎖するように大きな拍手が鳴り響いた。わわ、スタンディングオベーションだよ!!
……その拍手を聞いてわたしも笑顔になっちゃった。
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