21限目
「上級貴族の間でも芸術の申し子と呼ばれているオーツ家の長男、カイナとは僕のことさ」
青みがかった銀髪をふぁさっと右手でかき上げると、取り巻きらしき者達が青いバラの花びらを巻いている。顔はイケメンだけどキザなタイプはご遠慮したいね。あと床の掃除が大変そうだよ。
「マクシス様、あちらのお席が空いていますよ」
「そうだな、そこは皆の歌が聴きやすいと良いのだが」
「待ちたまえ!! 僕を無視するな!!」
残念! 前と同じでパターンで逃げることは出来なかった。
「あの、授業が始まるので出来れば後にして頂けないでしょうか? できればわたしの卒業後にでも」
「ふざけないでくれたまえ、何が卒業後だ!! アーリャ・アルダーク、そんなふざけた君が高貴なマクシス様の周りを彷徨くのを許容出来ない。例え芸術の神が許しても僕が許さない!!」
「別にカイナさんに許してもらう必要性を感じません。あとどうして芸術の神様が出てくるのでしょう?」
「果たしてそれはどうだろうか? この芸術学科はね、才能が無ければ評価を得られないんだ」
「はぁ、それでどうして芸術の神様が出てくるのでしょう?」
「君が味方に付けている教師陣に芸術担当の者はいない。君の今までやり口は通用しないよ」
「別に不正なことをした事は無いですから……あとどうして芸術の……」
「と・に・か・く! 今日の創作歌で僕以上の評価を取れなければ君は今後この授業に出ることは許されない」
わたしの疑問を遮って言葉を被せてくる。さて、もの凄い理不尽なことを言ってきたけどどういう事だろうか?
「さすがに横暴な物言いを聞く義理もないと思いますが」
「おっと、失礼、説明不足だったね。今この授業を受けている殆どの物は男爵より上の身分だ。そして芸術の評価が高いのも身分の上の者ばかり」
「つまり、身分が低い者は芸術を理解出来ないとでも言いたいと?」
「ふん、下賤な成り上がり者でも頭は働くようだね。いま、学院では芸術の授業を受ける人間を限定しようと動いている。そこで僕が一つ先生に協力しようと思ってね」
何が言いたいのか何となく分かってきたけど、わたしは特に反論せずに話を聞く。
「君が代表で僕と創作歌で勝負、君が負けたら今後は伯爵以上の身分の者は芸術の授業に参加はさせない」
「そんな事を学院が認めると?」
「芸術を担当している教師は学校外にも発言力があってね。今回の件は賛成しているんだよ。たとえ学院長が駄目と言っても強行するだろう。芸術を愛する者は権力などに屈しないのさ」
権力に屈しないけど身分は制限するんですね。それはともかくわたしが矢面に立って勝負をして負けると芸術の授業を受けることが出来なくなった人達から評判が悪くなるだろう。
わたしが味方に付けていなかった芸術の教師を使って理不尽な勝負に巻き込み、負ければ評判まで落ちる……前回と違ってちゃんと色々考えて攻めてきているよね。
「ちょっと待つんだ、創作歌と言っても今日の授業中に曲が作れるはずは無いだろう? 本来なら数回の授業を経て発表するのが本来の流れだろう? 今日その勝負というのは急すぎるだろう?」
さすがの理不尽な話にまーくんから援護が入った。まーくん、かっこいい!!
「マクシス様、真の芸術を理解する者なら時間など無意味。僕は常に新たな歌の音色が湧き上がっています。そうだろう?」
「はい、カイナ様、私も今歌えと言われればすぐに新しい歌を歌えます」
「私もです! 高貴な者として当たり前の嗜みです」
取り巻きの人達が次々にカイナさんの呼びかけに応える。
これは事前にみんな歌を作ってるよね。さすがに全員に仕込んでいないと思うけど、適当な人を当てて歌ってみてと言ってちゃんと歌えるとそれ見た事かと攻撃されそうだよ。
「もちろん、僕の周りの者達だけではなく、この講堂内の誰でも創作歌を歌うことが出来るだろう。好きな人を指名しても良いんだよ?」
どうやらわたしの予想通りみたいだね。この世界では歌も財産。社交界の場でオリジナル曲を披露し賞賛されるのは名誉とされている。
もしかしたら芸術に長けているというカイナさんは自分の手持ちのオリジナル曲を使って……指名されたら歌うことを条件に曲を譲渡したのかも? それにしてもこの人数に? ううん、考えても仕方がないね、どうやらわたしは相手のフィールドに入ってしまったみたいだ。
でも、負けるわけにはいかないよ! たとえたったひとつの授業だろうと、まーくんと一緒にいられる時間を1秒だって無駄にしないんだから!!
「わかりました、その勝負お受け致しましょう」
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