第2話 追い詰められた女王様

「んんっ! んっ! あぁぁ……っ」



 アリアの口から、苦しそうな呻き声が漏れる。

 午後の授業の1時間目、アリアは、激しい尿意に襲われていた。


 尿意を感じ始めたのは、昼休みの終わり頃。

 4時間目の終わりから昼食まで、トイレに行かず終いだっことを思い出したアリアは、次の授業が始まる前に、トイレに向かおうとした。


 が、タイミング悪く、教師に手伝いを頼まれてしまったのだ。


 優等生のアリアは、よくこういった手伝いを頼まれる。

 彼女は快諾し、教師と2人で荷物を運び、気付けば午後の1時間目が始まる時間が迫っていた。

 アリアに、トイレで授業に遅れるという選択肢はない。


 自分は同級生達の様な子供ではない。あと1時間くらい我慢できる。


 何の疑いもなくそう思い、アリアはトイレを通り過ぎ、教室に戻った。





――それが間違いだったことに気付いたのは、授業開始からすぐのことだった。


 昼食の際に飲んだピーチティーと、果物の水分が膀胱に押し寄せる。

 それはおさまることなく、授業開始から僅か10分、アリアの尿意は、我慢がならないところまで迫り上がっていた。


(ど、どうしようっ!? おしっこしたい……! おしっこ……漏れそうっ!!)


 授業終了まであと40分。とてもじゃないが我慢し切れるとは思えない。

 だが、教師にトイレを願い出ることはできない。

 その選択肢は、アリア自身が数時間前に潰してしまった。




『授業前にトイレに行くのは常識よ!』


『授業中にトイレに立つなんて恥知らずなこと、私なら、絶対にしたりしません!』




(あんなこと言ったのよっ!? 『トイレに行きたい』なんて、言えるわけないわっ!)



 だが言えなければ、アリアは耐えるか、漏らすしかない。



(が、我慢するのよっ! 大丈夫、私は、みんなより大人なのよっ! 絶対、我慢できるわっ!)



 それは根拠のない、自信ですらない妄想。

 だが、そんなものにでも縋らなければ、アリアは今にでも泣き出してしまいそうなのだ。


 おしっが漏れそうで泣き喚く……そんなことは、アリアのプライドが許さなかった。


 だが、体はそんなアリアの言うことを聞いてはくれない。

 真っ白いショートパンツに包まれた下半身はプルプルと震え、そこから伸びる足は忙しなく擦り合わされる。


 アリアは隠しているつもりだったが、教室にいる殆どの生徒が、アリアの窮状に気付いていた。


 アリアは色々と目立つ生徒だ。

 大きな動きをすれば、本人が望まなくとも注目を集めてしまう。



 行け好かない『教室の女王様』の窮地に、女子達は嗜虐的な笑みを浮かべる。

 漏らせ、漏らせ、みっともなく漏らしてしまえと。



 そして、男子達は皆、子供らしからぬ邪な視線をアリアに向ける。


 初等部の生徒のボトムスは、男女共にショートパンツなのだが、

 丈が長くサイズに余裕を持たせた男子用に対し、女子用は、誰が決めたのかホットパンツ並に丈を切り詰め、サイズもぴったりフィットする用に調整されている。


 そして、アリアの体は学園入学後、他の生徒を置き去りにする急成長を見せ、

 入学時に買った小さなショートパンツでは、その下半身は収まらなくなってきている。

 少し前に新しい物を注文したが、素材待ちのためまだ届いてはない。


 むっちりとはみ出す太ももは、もはや卑猥の域に達し、まだ幼い男子達は、否応なしに性を刺激される。

 そんなアリアが、艶めいた声を上げながら腰をくねらせ、足を擦り合わせる様に、教室中の男子は皆股間を限界まで膨らませることになった。


 そして思った。

 これでアリアが漏らしてしまったら、その姿はどれ程いやらしいのだろう、と。


 見たい、あのアリアが漏らすところを、断末魔の悲鳴を上げて、尻を、股を、びしょ濡れにする所を。

 まだ未成熟な少年達に、歪んだ性癖が芽生えた瞬間だった。



 そして、担任教師もまた、そんなアリアに酷く欲情していた。


 穏やかな仮面で隠してはいるが、彼はロリコンだった。

 それも、12歳くらいが好みの、中途半端なロリコンだ。


 発育の早いアリアは、彼の好みのど真ん中を突いていた。

 しかも、『イエス、ロリータ! ノータッチ!』な変態紳士ではなく、あわよくば如何わしい行為をと望む、クズの方。


 そんな彼にとって、刻一刻と追い詰められるアリアの姿は、この上ない程に劣情をそそられた。

 年齢以外の性癖はノーマルを自認していた彼だったが、ここにきて、好みの少女が喘いでいれば、自分は何でもいいのだと気がついた。


 見たい、この少女が限界に悶える姿を。その先にある、失禁の羞恥に震える表情を。


 教室中の誰もが、アリアが漏らすことを望んでいた。

 彼等にとっては至福の、アリアにとっては地獄のような時間が進む。



「んんっ! くぅっ! あ、あぁぁぁ……っ!」



 アリアは、よく耐えた。

 だが、授業終了まで残り10分。アリアの尿意は、とうとう限界を超えようとしていた。



(あと、少し……少し……なのに……あぁぁっ! ダメ、ダメぇっ! もうっ、我慢できないっ!)



 腰の震えは止まらない。ぎゅっとクロスされた脚は、モジモジと切なく蠢く。

 顔面は脂汗に塗れ、目から溢れた涙が机に落ちる。



(嘘よ……っ……こんなっ……私が……ランドハウゼンの皇女が……教室でっ……お漏らしなんて……っ!)



 下着を濡らしているのが、汗なのか、我慢できずに溢れたものなのか、アリア自身にもわからなかった。



(漏らせ!)(漏らせ!)(漏らせ!)(漏らせ!)(漏らせ!)(漏らせ!)(漏らせ!)(漏らせ!)(漏らせ!)



 教室中の視線がアリアに集まる。



(漏れる!漏れる!漏れる!漏れる!漏れる!漏れる!漏れる!漏れる漏れるぅっ!!)



 尿意で頭がいっぱいのアリアは気付いていなかったが、その仄暗い視線は、僅かながらでも確実に、アリアの体を蝕んでいた。



(漏れる漏れる漏れる漏れる漏れるっ! 漏れちゃうぅぅぅっ!!)



 そして、今度ははっきりと、尿道が浸水を許すのを感じた。



(もうっ! だめええええええっっ!!!)




「ああ「先生ええっっっ!!!!」っ!!」




 直後、アリアの悲鳴をかき消す用に、別の少女の声が響き渡った。



「めっちゃお腹痛くてっ、今にも漏れそうなんでっ、トイレ行ってきますっっ!!! 1人じゃ歩けないからっ、ランドハウゼンさんっ! 連れてって!!」


「えっ! んくぅっ!?」


「ほらっ、早くっ! 私がここでモリモリ漏らしてもいいって言うのっ!!?」


「え、や、そんな、ことは」


「じゃあ行くよっ! 早くっ!」


「ああぁああぁっ!!?」



 少女が無理矢理アリアを立たせ、急に動かされたアリアの膀胱が猛抗議を起こす。

 少女はそんなアリアにしがみ付き、抱え上げる様にして、いそいそと教室から出て行った。



「ちょ、ちょっと待ちなさいっ!」



 担任教師の静止は、少女の真っ赤なサイドテールを掠めただけで、教室の壁に虚しく吸い込まれた。

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