聖水皇女アリア姫の苦悶

@kinugoshih

第一章 授業中にトイレに立つなんて恥知らずなこと、私なら絶対にしたりしない

第1話 教室の女王様

 ノイングラート帝国高立学園。


 4月を区切りに、満11歳~18歳までの子女が通う、巨大教育機関だ。


 帝国内のみならず、同盟国からも、毎年多くの入学者を受け入れている。

 他国にはない挑戦的な試みであり、学園設立後の帝国は、血筋よりも卒業校舎と成績を重要視する、『学歴社会』に突入した。


 教育内容は、初等部2年間、中等部3年間、高等部3年間で大きく分かれるようになっており、

 初等部の校舎は、まだ幼い生徒達が親元から通うことができるように、国内の各地に作られている。


 他国から通う生徒は、中等部からの入学が一般的だ。

 が、中には初等部から親元を離れ、校舎のある街に移り住む者も、稀にいる。


 帝国最大の同盟国、ランドハウゼン皇国の第二皇女、アリア・リアナ・ランドハウゼンもその1人だ。


 幼少期から優秀だったアリアは、その能力を国内外から期待され、本人の希望もあり、初等部の1年から、最高学府である『学園都市』ベルンカイト校に通うことになった。


 各地から優秀な生徒が集うベンルカイト校にあっても、アリアは突出した優秀さを示した。

 まだ専門性が薄い初等部では、アリアの全方位に優秀な、『尖らない才能』が、成績に大いに反映されたのだ。


 だが、改めて見知らぬ他人と比較され、そして持ち上げられたことで、初等部入学直後のアリアは、少しばかり増長していた。



「せんせー、トイレー」


 最高学府とはいうものの、まだまだ初等部。

 幼稚さを残した生徒は多いし、親の力でねじ込まれた生徒もいる。


 全員が全員、真面目とは限らない。むしろ、ある意味子供らしい、真面目すぎない生徒の方が多いくらいだ。

 そして、そんな彼等に対して、アリアは若干、キツい態度を取るようになっていた。


「貴方っ! さっきの時間も、そう言って帰ってこなかったわよね? どうせサボりでしょ」


「なんだと!?」


「それに、授業前にトイレに行くのは常識よ! ここに通ってて、そんなこともわからないの?」


「この……こいつっ!」


 注意された男子は、悔しそうにアリアを睨む。

 『女の子に乱暴なんて』などという騎士道精神ではない。

 腕力でも魔術でも、アリアに敵わないことがわかっているのだ。


「ほら、そのくらいにしなさい」


 睨み合う2人の間に担任教師が割って入る。


「ルーカス君は、授業が終わるまで、我慢できそうにないですか?」


「無理でーす。漏れそうでーす」


「じゃあ、なるべく早く帰ってくるんですよ」


「いよっしゃー!」


「ちょっと! 待ちなさい!」


 少年――ルーカスは、悪戯が成功した悪ガキの笑みを浮かべ、教室を出て行った。


「先生!」


 納得がいかず、食ってかかるアリアに、担任教師は柔らかい笑みを返す。


「こればかりは、人間ですからね。貴女だって、授業中にどうしても我慢できなくなることが、あるかもしれませんよ」


「っ!?」


 アリアが息を呑む。

 同級生の中では一際大人びた容姿のアリアだが、まだ親元にいた去年、実はトイレ関連で大失敗をしたことがあるのだ。


 風化しかけた苦い記憶を刺激されたアリアは、自分への過信も手伝い、これに強く反発してまう。



「あり得ません! 授業中にトイレに立つなんて恥知らずなこと、私なら、絶対にしたりしません!」



 隣のクラスにまで聞こえるほどの声で、アリアが叫ぶ。




――数時間後、アリアはこの発言を、死ぬほど後悔することになる。


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