第16話/パーフェクトデートプランニング
そして翌日の放課後である、体育倉庫の一件は昨日の内に無事解決した。
七海も紫苑も、デートプランをあれこれ考えながら授業時間を過ごし。
部室にて対面で座る、どこかヒリついた空気の中で不敵に笑いあって。
「ではこれよりぃ~~、ドキドキワクワクデートプラン対決を始めまーーすっ!!」
「ふ、この勝負勝たせて貰うぞ紫苑……!」
「幾らでも吠えてくださいよ先輩、どうせ勝つのは私なんだからねぇ~~」
「お互いに気迫は十分って所か、――どっちから先に言う?」
「どーしよっかなぁ、私としては先輩が先でも問題ないですけどぉ、それだと先輩が不利になるかも? みたいな?」
「へぇ、言うじゃん」
挑発的な態度を崩さず、そして思考は冷静に。
勝負は既に始まっているのだ、少しでもイニシアチブを取らないといけない。
この手の事柄は後出しが有利、思い描いた理想のデートをするには絶対に後攻を取るべきで。
――視線が交わる。
(――最悪のケースを想定しよう、それは紫苑に先手を取られハートキャッチで心奪われ封殺させること)
(先輩は私に先手を取らせたくない、うん、……今の先輩には弱点がある、だからこそ封殺を狙ってくる筈っ!)
(紫苑は俺の弱点を突くのを躊躇わない、アイツの提案するデートプランの誘惑に勝てれば俺の勝ち目は十分ある…………耐えられるか?)
(先輩は今、昨日のことで性欲が爆発寸前ッ! 勝てるっ、――ぬっちょぬちょなデートが出来る!!)
交わった視線が外れるまでの一瞬、二人は出来る限りお互いの思考を読みあった。
次に言葉を発したとき、全てが決まると言っても過言じゃない。
(――――本当に? 紫苑に勝つ方法はそれだけか?)
七海の脳裏にとある考えが過ぎる、性欲が爆発しそうなのは本当に己だけか、と。
もし紫苑も同じなら、危うい橋だが勝ち目は大きくあがる。
だから。
「提案だよ紫苑、デートプランの話の前に大事な提案がある」
「なんですあらたまって?」
「エッチな自撮りとトイレにいく時間を三十分欲しい」
「本人っ!? 本人目の前にしてそれ言う!? っていうか可愛い恋人に頼みましょうよ断りませんからぁ!!」
「これはとても重要な意味があるんだよ、ああ、そうだ俺の勝利の為と言ってもいい」
「率直すぎやしません??」
何を言い出すのかこの男は、と紫苑は嬉しいやら悔しいやら複雑な顔をしながらジトっと睨んだ。
もしかすると、今すぐにでも口を塞いだ方がいいのかもしれない。
彼女のそんな迷いを敏感に察知し、七海は口を挟ませずに続ける。
「――俺がムラムラしてるようにさ、……紫苑、君もムラムラしてる筈だ。そんな状態でデートプランの話が出来るはずがない……なら、ここは一時休戦といこうじゃないか!! 勿論、俺のエッチな自撮りも送るよ!!」
「なっ、ぁ、そ、そんな――ッ!! 先輩のエッチな画像が!? …………いえ七海先輩、いくら恋人同士とはいえネットリテラシーは守りましょう、先輩がその気じゃなくてもアプリが犯罪組織に不法アクセスされて写真が流出するかもしれない!!」
「急に真面目になるね??」
「なので――生写真でください、チェキでも可です、かなうならば…………今ここで半裸でポーズをプリーズ!!」
「明日のデートで一日中エロいことするって言い出さないならいいよ」
「あー、じゃあダメですね」
「おい、おい??」
「カマトトぶってんじゃねぇぞ七海先輩!! エッチしたいに決まってんだよぉ!! 抱けぇ……!! 私のことを抱けぇえええええ!!」
「え、カップルシートで映画見た後でカフェでダベった後は、適当に遊んで……みたいなデートしたいんだけど?? とりまエッチなのはその後でよくない??」
「それでも年頃の男の子ですかセンパイ!? もっと獣のようにですね!!」
「遊園地に行ってペアルックとかしたくない?」
「う、ううっ、ま、負けっ、私は負けな――――」
頭を抱えて紫苑は苦悩した、なんたる選択肢であろうか。
超バチクソ清楚で清楚の権化である佐倉紫苑としては定番デートに今すぐ行きたい所存。
しかしマイダーリン七海専属サキュバス佐倉紫苑としては、愛の巣に引きこもりたいワケで。
「センパイは鬼畜です、ヒドいです、そんなの……そんなの私、選べないですようええええええんっ!」
「目薬使って嘘泣きやめてもろて??」
「本気で泣いたら涙を舐めてくれます?」
「お化粧した顔って舐めても平気なのかい? じつはちょっと疑問だったんだけど……」
「そういえば考えたことなかったなー、いやでも平気なのでは? リップした唇に何度もキスしたじゃんセンパイ……もしやお腹壊しました?」
「あ、君の新しいリップ買いに行くデートとかどうだろう。俺ちょっとプレゼントしたい」
「え、マジで!? ヤッター!!」
「リップ選びと映画デート組み合わせられそうだね」
「リップ選びした後、私の唇をずぅ~~っと堪能するってプランもありますよ? 実はちょっと良いかもって思ってますよね?」
二人で居られるなら、どれもが魅力的で楽しそう。
きっと何処にでも、誰にでもある他愛ないデートで。
きっと記憶を失う前の七海にも、これからの七海にも紫苑と過ごせる大切な時間。
(………………そういえば)
リップをプレゼントする丁度良い理由があるのを、七海は気づいた。
もしかしたら、前の己もしていたかもしれない。
否、恐らく確実にしていただろう。
(ま、誕生日プレゼントは何回あげてもいいって法律にあるからね)
問題はサプライズにするか、今ここで言ってしまうか。
どちらにせよ、きっと紫苑の喜ぶ顔が見れる筈だ。
その為ならばお年玉貯金が尽きても構わない、貢ぐ男と罵られようが構わない。
「どーしたんですセンパイ? いきなり変な顔になって」
「ふっ、紫苑を愛するあまり俺は思いついてしまったのだ……君に合法的にリップを贈る理由を!!」
「ほう!! 聞きましょう!!」
「誕生日けっこう過ぎちゃってるけどさ、うん、俺の方に記憶ないし誕プレとして贈りたいんだ…………いいかな?」
「え、あ、あーー…………ダメカナ?」
「あれっ??」
んんっ? と七海は首を傾げそうになった。
断られるなんて想定外だったし、何より悪戯っぽい口調に反して彼女の声色は酷く冷たく。
紫苑は理由を聞かれたくない、と言わんばかりにそっぽを向いて。
「用事を思い出しました、デートの相談はまたあらためてしましょ七海先輩」
「待ってよ紫苑、嫌だろうけど理由が知りたいんだけど? テンションマイナスになったとか、そういうレベルじゃないよね??」
「気のせいです先輩、――離して、腕、痛いから」
「………………」
部室が狭くてよかった、手を伸ばせばすぐに届くのだから。
しかし、ここからどうしようと七海は迷い沈黙した。
普通に考えれば、明日になれば機嫌が直るを期待して手を離すなり、穏当な言葉で聞き出すなりあるだろう。
「離して、七海先輩……離してください」
「……」
「デートの事はごめん、でも話し合いを明日にするだけだから、先輩の好きなデートでいいから……ね?」
「……」
分からない、佐倉紫苑という女の子の態度の急変が。
何処に地雷があった、何が問題だったのだ、井馬七海という男はただ。
目の前の女の子が好きで、愛して。
「――――ぁ」
「隙アリっ! じゃっ、先輩また明日! 楽しくデートしていっぱいエッチしよーぜぇ!」
「…………俺、は――――」
紫苑が逃げるように、否、逃げた部室に一人取り残されて。
七海はふらふらと後ろに下がり、棚を背もたれにずるずると座り込む。
なんで今なのか、どうして、何故か景色が鮮やかで色褪せて。
『――――遠からずと思っていたが、芽生えたのか、それとも自覚か、その感情は……いや、このシステムめが申すのも無粋というもの』
「俺は…………好きなんだ、たぶん、マジで愛してる、佐倉紫苑って女の子が大切で、喜んで欲しくて…………うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!! 俺は!! 今の俺が!! 好き!! なんだ!!」
なんだろうか、この嬉しくも恥ずかしい様な、とてもフワフワとした心地は。
もっともっと叫びたい、今すぐ会いに行って抱きしめたい。
けどきっと我慢する時だろう、明日だ、明日になれば彼女の機嫌もなおってるだろうし、と。
「そっか……恋、してるのかぁ…………」
『ご主人、ちょっと浮つきすぎやしないか?』
七海は空を歩いている様な気持ちのまま、衝動の赴くままに、足取り軽くステップを踏み歩き出したのであった。
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