第6話 ラブホの死体
ラブホで一人の男性の他殺死体が発見された。発見したのは、ラブホの清掃員で、お客が帰ってから、次の客が入るまでの間、清掃を行う人である。
部屋から、フロントに、
「帰ります」
という連絡が入り、フロントが、そこで初めてオートロックを解除する。
このやり方は、ラブホであれば、ほぼ、どこでも同じであろう。もちろん、入室までは、いくつかのパターンがある。1階(あるいは別の階)にある、タッチパネルで、空室満室を確認し、ランプがついている部屋が空室ということで、そこを選んで、ボタンを押すと、部屋のオートロックが解除になり、その間、客はエレベータ等によって、当該の階までいき、部屋を開けて入室する。入室すれば、そのままロックがかかるというわけだ。
これも基本的には変わりないが、中には、料金先払いのホテルでは、フロントで対面式でお金を払うところもある。
もちろん、その時は、お互いに顔が見えないようにしているだろうが、人によっては、無人で入れる方がいいと思っている人の方が多いことだろう。
部屋に入ってロックがかかるのは、基本的には当たり前のこと、料金後払いであれば、ロックを掛けていないと、未払いで帰られてしまう。また、退室時に連絡がなければ、いつ帰ったのか分からずに、清掃をいつしていいのか分からず、部屋が客もいないのに、満室状態が続くことになるからだ。
昔であれば、(今もあるのかな?)料金の支払いに、エアシューターのようなものが使われているところも結構あり、ポピュラーな支払い方法だった。中には、入った時間を機械が読み取り、退出時に、まるで駐車場の退室方法のように、時間でいくらというような最後まで店の人と対面することなく済ませられるところもある。
もちろん、オーソドックスに、帰りのフロントでお金を払うところもあるかも知れないが、それこそ、逃げられる可能性もあるだろうから、実際にそんなホテルがあるのかどうかは分からない。
これが、基本的にラブホテルにおける入退室のパターンである。
当該ホテルは、タッチパネルからの入室で、最後には自動支払機で払うという、ポピュラーなやり方だった。
それともう一つ、最初にロビーで前払いではない場合、部屋に入ると、フロントから電話がかかってくる。入室の確認と、ホテルの簡単な説明である。
というのも、ラブホテルには、サービスタイムなるものがあり、例えば、早朝の6時から、夕方の6時までの最長12時間、同じ値段というものだ。基本的な3時間よりも少し高いが、12時間いた場合は完全に格安である。これを利用する人も少なくはないだろう。
だから、入った時に、客の方から、
「サービスタイムで」
といえば、サービスタイム料金の支払方法を教えてくれたりするのだ。
この客は最初、男性一人の客だった。基本的にはラブホテルなので、男女1組が入るというのが常識だが、最近は、男性一人という方が一般的だということもある。ちなみに、今は分からないが、昔は、
「女性一人はお断り」
というのが一般的だったという。
なぜなら、
「自殺の可能性があるから」
ということであった。
昔は。女性一人で自殺をするのに、ラブホを使ったというそんな暗黒の時代があったのだろうか?
ただ、男性一人の場合は別に何も言われない。特に、ここ20年くらいは、男性の一人入室というのが増えている。それは性風俗の多様化が顕著になってきたからだった。
そう、ここまでいえば、たいていの人は気づくであろう。いわゆる、
「デリヘル」
というものの台頭である。
デリヘルというのは、自宅に女の子を呼ぶのが、元々は一般的だったが、最近では、ラブホテルに呼ぶのも多いだろう。個人情報という観点からなのか、それとも、近所の目を気にしているからなのか、ラブホにとって、デリヘルでの利用はありがたいに違いない。
デリヘルを呼ぶのも、いろいろなパターンがある。一番ポピュラーなのは、
「男が最初に部屋に入り、入った部屋番号を、電話で女の子あるいは、デリヘル会社に連絡する」
というやり方だ。
入ってから連絡をしないと、ホテルのどの部屋が空いているか分からないからである。
実際にホテル街というのは、都市部には、いくつか存在していて、その中であれば、それほど移動距離もなくて済むので、そのあたりで、ウロウロしている女の子もいるだろう。
逆に、事務所の待機室に数人のデリヘル嬢と一緒に待機していることも少なくはない。何と言っても、店舗型の風俗店であれば、その日の勤務時間は、その部屋を割り当てられているので、客が入らない待機時間は、一人でその部屋を使える。だから、他の女の子と会うこともなかったりするだろう。
しかし、デリヘルの事務所などでは、待機室はそんなに広くなく、事務所の奥の普通の会社であれば、小さな会議室程度の部屋があてがわれることになるだろう。人数としては、4,5人というところであろうか?
そして、社員も数人は必要だ。オーナーはもちろんのこと、事務受付などの社員。さらに、女の子を送迎するための運転手が、2、3人というところであろうか?
店舗型であれば、女の子が部屋にいて、お客さんが来てくれる形だが、何と言っても、デリバリーなのだから、配達するには、車が必要というわけだ。
そう考えれば、デリヘルというのは、大きな部屋を借りるというわけではないので、部屋代は少なくて済むが、デリバリーをするための運転手の人件費を考えると、果たしてどっちが得なのだろうか?
と考えてしまうのだった。
ちなみに、桜井はデリヘルを利用したことはない。もっぱら、ソープばかりだった。
一番の違いは、
「デリヘルには、本番がない」
ということである。
ソープの場合は、基本、本番行為まであるので、本番まで求めるなら、店舗型のソープを使うしかないというわけだ。
さて、デリヘルと店舗型の店のもう一つ大きな違いというところで、
「営業時間」
というものがある。
デリヘルの場合は店舗を持っていないので、基本的に、24時間営業が可能である。しかし、店舗型のソープやヘルス、トクヨクなるものは、
「深夜営業はできない」
ということになっている。
風俗における、
「深夜の時間帯」
というのは、午前0時から6時までのことである。
だから、店舗型のお店で、早朝営業をしているところは、どんなに早くても6時からで、閉店も、午前0時までと決まっている。
したがって、入店には、女の子とのプレイ時間を午前0時から差し引いた時間での入店にならないと、風営法違反になるということである。
これは、風営法の中で、店の経営体系ごとに、種類が決まっていて、それぞれに、営業時間の最長が決められていて、あとの細かいところは、都道府県の条例によって定められることになるのだ。
そういう意味で、デリヘルの場合は、深夜だからということで、営業時間が限られるわけではない。もちろん、女の子の勤務時間となると、今度は労働基準法ということになるのであろう。
そして、もう一つ、デリヘルと店舗型の違いであるが、それは、
「女の子の危険性」
というところにある。
店舗型であれば、店舗の中に部屋があるので、客がもしも、モラルに反する禁止事項をしようとして女の子が危険に陥れば、非常ボタンを押すと、スタッフが飛んできて、客を出禁にしたりの処置ができる。下手をすれば警察に突き出されることになるのだが、デリヘルの場合は、プレイはホテルであったり、相手の家だったりする。女の子が何をされても、店の人には分からないという危険性がある。
中には強姦され、その動画を取られて、何らかの脅迫を受けるという事件も結構あるのではないだろうか。そういう意味では、デリヘルという商売は、これほど怖いものはないと思うのに、なぜか、デリヘルは、どんどん増えているではないか。
桜井もそれに関しては不思議に思っていたし、明美もそのことは感じていたりしたのだった。
今回、殺された男も、一人で入ってきたようだった。一応、タッチパネルのところだけを映すような防犯カメラは設置させていた。フロントでは、
「この客は男性一人の客なので、後で、女の子がやってくるんだろうな?」
と分かるからだ。
この客は、部屋を迷うこともなく、まるでめくら印を押すかのように、その部屋を選んだのだ。それこそ、最初からその部屋一択だったかのようにであった。
さらに男は迷うことなく一直線にエレベータに乗り込み、そこを降りてから部屋までも、案内板を見ることもなく、一気に入っていった。
各階のエレベータ前だけに防犯カメラがあり、男がエレベータを降りてから、部屋の方向へと曲がるまでをつなぎわせると、まったく迷っていないことが分かり、
「あの部屋の常連さんなのかも知れないな」
と、警察の方でも、それを見て、疑う余地はなかったのだ。
男が入っていくところと、受付時間は一致していた。
もちろん、部屋の中には棒はカメラなどがあるはずもなかった。部屋に入ってから、男の死体が発見されるまで、その部屋で何が起こったのか、分からなかった。ただ、死体の第一発見者は、清掃員であったが、実際に怪しいと思ったのは、受付スタッフだった。
というのは、その部屋の利用時間の終了が近づくと、フロントから、部屋に電話を入れるようになっている。
「お客様。ご利用、15分前になります」
などという連絡である。
基本的にはラブホテルなどでは連絡を入れることになっているのだが、それは法律で決まっているのかどうかということまではさすがに知らない。
電話を入れた時、すぐに出ないということも珍しくもない。疲れて眠っていたり、風呂に入っている人もいるだろう。
「出物腫れ物所かまわず」
と、いうことで、トイレの場合もあるだろう。
だから、何度か連絡を入れる場合もある。
ただし、最初に決めた時間で必ず出ないといけないわけではない。追加料金さえ払えば、その料金分はいられるからだ。実際にそういう人もいたりする。だから、電話に出ないからと言って、部屋を叩いて確認するなどということは普通はしない。
それでも、フロントに何の連絡もなく、数時間が経てば、いくらなんでも怪しい。その時に電話を入れて誰も出なければ、さすがに心配になって、オートロックを解除して、部屋に入ることにするだろう。受付から部屋までは遠いので、オートロックを解除するタイミングで、清掃員が中に入る手筈になっていた。
そして、打ち合わせ通りに中に入ると、ベッドの上にうつ伏せになっている男が発見されたということだ。
背中からナイフで刺されているようで、ガウンには、血が染まっていた。さすがに、ビックリした清掃員は、すぐにフロントに電話して、事と次第を説明し、受けつけから、110番がなされたのだった。
少しして、所轄の警察署から刑事がやってきた。
殺されている男が部屋に入ったのは、午前10時頃、デリヘル利用の客であれば、別におかしな時間ではない。
しかし、実際にデリヘルを呼んだ形跡はなかった。なぜなら、デリヘル嬢を呼ぶには、デリヘル嬢が受付で、
「〇〇号室の連れです」
ということを言って、受付から、部屋に、
「お連れ様がお見えです」
といい、客が了承すれば、初めてそこで、オートロックを解除することになる。
客はそこで女の子を待つことになるのだが、この部屋からは、最初に入室してから、死体が発見されるまで、一切の連絡はなかったのだ。
「これは密室ということになるのかな?」
と刑事は事情を聴いた後で、ふとそんなことを言い出した。
「そうですね、すべてがオートロックになっているので、普通は、犯人が抜け出せるはずはないんですけどね」
ということであった。
「密室殺人か」
と刑事はそういうと、ふとため息をついた。
「密室殺人なんて、普通ではありえないんだけどな」
と、いろいろなパターンを考えてみた。
ただ、密室殺人というのは、探偵小説としては面白いが、実際の犯行ということになると、別に密室殺人だったからと言って、褒められるわけでもないんでもない。犯人にとって、どんなメリットがあるというのか、もっとも、それが解決し合いと、犯人を特定もできないということなのかも知れないが……。
さて、ホテルにおいて、その男が一体何をしようとしていたのか、ピンと来ない。もし、これがスーツを着て、旅行用のケースでも、持っていれば、
「出張なのではないか?」
とも思うだろうが、そうでもない。
出張でラブホを使うというのは、何かおかしいと思うかも知れないが、出張先での作業が夜中の、
「他の社員が皆帰った後でしか作業ができない」
などという、技術系の仕事であれば、宿泊は、朝から夕方くらいということになる。
普通の宿泊施設であれば、一般的なチェックインは15時半くらいだろう。早かったとしても、13時くらいだろうか。そうなると、その時間まで、徹夜で作業していたのに、どうすればいいというのか。
それであれば、ラブホであれば、昼間の時間はサービスタイムである。そんなにお金もかからない。
ほとんどのラブホでは、領収書だって発行してくれる。会社が領収書をラブホでも通してくれるというのであれば、ラブホが一番いいに違いない。
後はといえば、サウナのようなカプセルホテルであったり、ネットカフェになるのだろうが、そんなところで、ゆっくりと眠れるわけがない。それを思うと、やはり、ラブホが一番だ。
何と言っても、風呂もベッドも広い。テレビも大画面で見れるし、暇ならゲームだってできる。
アダルトビデオも、ビジネスホテルではカードを買って、それで見ることになるが、ラブホでは、いくらでも、見放題だ。(もちろん、映るチャンネルだけだが)
さらに、食事だって、ルームサービスがある。結構おいしいものがあったりもする。下手をすると、そのあたりのビジネスホテルよりも、おいしかったりするではないか。それを思うと、夜中作業の出張族にとって。ラブホというのは、実にありがたいものである。
今回のこの人はどうだったのだろう? 入ってくる時にも、荷物はほとんどなかったように見えた。
部屋に残っている荷物もちょっとだけだ。ということは、出張族ではないということなのか?
出張ではないとすれば、ただの休憩というのはありなのだろうか?
昼間暇で、どこに行っても金を使うだけ。
だったら、ラブホのサービスタイムにいて、眠い時は寝て、お風呂にも入り放題。あだルドビデオだって見放題。
しかも、食料を持ち込んだっていいのだから、ラブホで、一日ゆっくりするという人も中にはいるかも知れない。結構、いろいろ楽しめるものもあったりする。
何よりも、お金を使わなくてもいい。
大体5000円もあれば、普通に一日遊べるではないか。どこかに遊びに行って、食事をしたり、何かを見たりしていると、それくらいのお金は普通に使う。彼女でもいれば、そんな値段では足りるはずもない。何しろ、二人分を払わなければいけないからだ。
しかも、毎回同じところなどというと、嫌われてしまう。嫌われないようにしようと気も遣い、お金も使うことになるのであれば、彼女がいても、却って疲れるのであれば、本末転倒だというものだ。
だからこそ、彼女を作らない人も多い、桜井のように、
「癒しを求めるのであれば、ソープでいい」
と思うようになるのだろう。
ソープだと煩わしいことはない。
下手に相手を好きになってしまうと、自分が苦しいのだが、そこは割り切ってしまうしかない。
そういう意味で、いつも同じ人に相手にしてもらうよりも、毎回違う人の方が新鮮だというものだ。
ソープなどの風俗では、一度遊んだ相手を、もう一度指名したりすると、
「本指名」
という言葉で呼ばれる。
普通であれば、リピーターなのだから、リピーターを大切にしないといけないという観点から、本指名ほど割引がついてもいいのだろうが、ほとんどの店で、
「本指名不可」
と、割引サービスには書いてあったりする。
一体、どういうことなのだろうか?
普通のサービス業であれば、新規開拓も確かに大切であるが、それ以上に、リピーターの方が確実なのだから、そちらを大切にするのが普通ではないかと思うのだが、なぜ、リピーターにこれほど冷たいのか、理解できない。
ただ、一つ思い浮かぶこととして、
「本指名を女の子が受けた場合、女の子には、リピート代を支払わなければいけない仕組みになっている」
ということであった。
つまりは、リピーターの獲得は、それぞれの女の子の仕事であり、それ以外は、スタッフの仕事だということだ。スタッフは新規獲得のため、ネットでの公式サイトを充実させたり、サービス価格を設けて、客に来てもらおうという努力をするということだ。
そして来てもらった客を逃がさない努力は女の子がするということになるのだろうが、ただでさえ、安くない価格設定で、割引がないとなると、さすがに安い方に走るのは、騒然の心理ではないだろうか。
だから、桜井のように、指名をせずに行く客も多いのだ。
「今日は誰に当たるんだろう?」
というのもドキドキで、同じ相手からもう一度相手をしてもらうのとは違った楽しみがある。
相手は、自分にリピーターになってもらおうとして必死になるのは、当たり前のことである。リピーターになってくれれば、リピート代が出るのだから。
しかも、店によっては、
「本指名ランキング」
なるものを発表しているところもあり、そこに乗ると、指名客も増えるというものだ。
これは、女の子のテンションを爆上げするものとなるだろう。
要するに、初めての相手でも、リピートした相手でも、
「基本的には女の子のサービスは同じではないか?」
という考え方である。
「癒しを求めるのに、彼女のような煩わしいものはいらない」
と思っている桜井のような人間には、基本的に、
「本指名」
というのは、似合わないと思っていた。
だが、気に入った女の子がいて、
「この子であれば、彼女にしても、煩わしいことはないはずだ。絶えず俺のことを考えてくれている」
という、気持ちになったことがあった。
その時は、初めて、
「本指名」
というものをしてみた。
「わぁ、嬉しい。また来てくれたんだぁ」
と言って、抱き着いてくれる。
桜井は、
「俺のことを覚えてくれていたんだ」
と思い、彼女にそういうと、
「ええ、もちろんですよ」
と言って、以前遭った時にどんな話をしたのかということまで、覚えていてくれたのだ。
さすがに、サービス業というのは、こうでなければいけないのだろうが、それ以上に、覚えてくれていたことが嬉しかった。
だが、もっと言えば、受付の際に、
「本指名」
であることが分かっているので、そのことを教えてもらい、そして前にいつ来たのかも情報としてもらえば、女の子の方で、いつ、誰が来て、どんな会話をしたのかというメモでも取っていれば、そのくらいのことは容易に分かるだろう。
だが、もしそうだったとしても、彼女はそれだけ、この仕事に対して一生懸命だということなのだろう。だからこそ、本指名した時に喜んでくれたのも、本心からだと思うと、こちらも彼女を応援したくなる。
「本指名というのも悪くないな」
と思ったのだが、桜井にとっての本指名は、その時が最初で最後だったのだ。
今後、
「もう一度会ってみたいな」
と思う子が現れて、本指名するかも知れない。
それは、今のところ何とも言えないと思っている桜井だったが、やはり、店側の本指名に対しての考え方には、疑問符しかないのだった。
しかも、その考え方はこの店だけではなく、他の店の料金体系や、イベントなどのページを見ても、やはり、
「本指名不可」
と書かれている。
それを思うと、この業界というのは、他とは違う特殊なものなのか、それとも単純に、頭の悪い人が昔に作った制度が伝統として受け継がれてきたのかということであろう。
しかし、そのことについて、ネットではおかしいという人も若干名いるが、そのことを、声を大にして叫んでいるのをまったく聞くことはない。
「こんなものなんだ」
ということで、客側は皆諦めているのだろう。
あるいは、
「そっちがその気なら、誰が本指名などするものか」
と思うだろう。
しょせんは疑似恋愛であり、その時だけの癒しを求め、その余韻で、しばらく酔うことができればそれでいいのだった。
これはデリヘルにおいても、同じことのようだ。
風俗といえば、デリヘル専門の人もいるようだが、桜井のように、店舗型人間には分からない。
確かに、本番という意味でいえば、店舗型しかないが、それ以前に、
「デリヘルのどこがいいんだ?」
という、単純な思いであった。
ただ、この件に関しては、
「最初に見たものを親と思う」
という、ツバメなどの動物の本能を思い浮かべてしまう。
なぜなら、桜井にとって、最初の風俗が、ソープだったということもあり、
「風俗とは、ソープのようなものなんだ」
という考えが頭の中にあるのだった。
だから、デリヘルというもののシステムを理解しても、自分から利用してみようとは思わないのだ。
大きく分けると、店舗型とデリヘルの一番の違いというのは、
「店舗型は、女の子が部屋を用意していて、客がその部屋に赴くというものであり、デリヘルの場合は、客が部屋を用意していて、そこに女の子が訪ねてくる」
というものだ。
他にはそれほど大きな違いはないだろう。もちろん、サービス内容は違うが、ここでの違いの中とは別格のものである。
つまり、桜井の場合は、待っている女の子に迎えられるように女の子の部屋に帰ってくる。これこそ、癒しなのではないかと思うのだった。
それまで考えたことのなかった、
「結婚生活とは、こんなものなのかも知れないな」
と思うのだ。
結婚生活を続けるのは、エネルギーがいるが、何と言っても新婚であれば、仕事から帰ってきて、
「あなた、お帰りなさい。ごはんにする? それともお風呂?」
などということこそが新婚の醍醐味だと思い、それこそが、一番求めている、
「癒し」
というものなのだろうと思うのだった。
確かに、新婚の間はそれでいいだろう。楽しくて仕方のない毎日が過ごせる。だが、ピークは最初だけで、あとは徐々に右肩下がりとなって、癒しも興奮もなくなる。そのうちに、結婚生活というのがマンネリ化していき、子供ができると、奥さんは子供だけにかかりきりになるだろう。
それは当たり前のことだと桜井は思う。しかし、癒しは興奮というのは、もうどこにもない。
ちょっと何かあれば、奥さんは猜疑心や嫉妬が強くなったり、子育てによるヒステリーで、身動きが取れなくなる。
そんな奥さんをコントロールできないのは、夫の責任と言われ、結婚したことを後悔するようになるだろう。そうなってしまってからでは遅いのだ。だから、
「煩わしいものには、最初から手を出さない」
というような、ドライな考えを持っている人が、結構な割合で一定数いるような気がしているのだった。
ラブホテルを一人で利用する男の中には、そういう感情から、ここを利用しているということを自分なりに理解し、納得したうえで、利用している人も多いような気がするのだった。
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