『剣聖』討魔
「別に命を軽視しているつもりはないさ。ただこの我、ヴェンテの試練を受けるんだ。相応の代償が必要だと思わないかい?」
その悪魔……ヴェンテはそれが当然であるようにいった。
「試練の代償が命なんて真似があってたまるか。あったとして、そんなものは俺が俺が許さない」
悪魔の前に立つ男、石森さんは剣を構える。これが世界で最も強い剣士の構えか。
「そうか、別に君がどう思おうと我は構わない。試練を実施することに変わりはないからね」
「わざわざ試験等受けてやる義理はない。お前が奪った彼女の命が守ってきたものの重みを刃に込めて、俺はお前を斬り殺す」
そして石森さんがヴェンテに向かって切り込んで行く。しかし、その切込みはヴェンテが取り出したとある武器によって止められる。
「珍しい武器だな。さすが悪魔、趣味が悪い」
「ひどいことを言ってくれるね。我の愛剣に対して」
ヴェンテが取り出した武器。それは蛇腹剣。どういった素材でできているのかわからないが、金属でありながら伸縮しているようにも見える。
「愛剣だろうが何だろうが、斬るだけだ」
「やれるものなら、やってみなよ!」
ダンジョン内の狭い空間を支配するように蛇腹剣が蠢く。石森さんは全方向からのその攻撃を全て防ぎつつ、ヴェンテとの距離を詰めている。
「あの男、ステータスはそこまで高くないのに素晴らしい技術を持っておるのう」
「剣技の腕に関しては私たちの世界に居た『剣帝』よりもおそらく上でしょうね」
二人ともまさかの石森さんべた褒めである。そりゃまぁ、今圧倒的な剣技の腕前を見せられたらねぇ。ヴェンテも普通に攻めあぐねているし。
「君やるね! 我と戦えば戦うだけ強くなる素質を持っているよ! さぁ、このままどちらかの命が尽きるまで戦い続けよう!」
金本さんが戦闘狂って言ってた通りだな。
「ほら、私が言った通りですよ?」
「ですね……」
金本さんと鈴音がなんか話しあってる。ちなみに金本さんは悪魔になってヴェンテの上司の上司になったから煽りに来たらしい。
最初は圧倒的技術で押していた石森さんだったが、やはりステータスの差からか、徐々に押されていった。
「くっ! お前のような奴に俺が負けるわけにはいかないんだよ!」
「素晴らしい! 素晴らしい健闘だよ! この我が最後に奥義を見せてあげよう」
ダンジョンの中を蠢く蛇腹剣が赤黒く輝き始める。それらが唐突に加速して石森さんに襲い掛かる。それらは石森さんの体に少しずつ傷を入れていく。この感じ、少々まずいよな。
「手出しは無用じゃぞ。あの男は今、進化しようとしておる」
「ともすれば技術と合わせて私たちに及ぶほど強くなりますよ」
そろそろ助けた方がいいんじゃないかと言おうとしたとき、二人に止められた。
ウェスタとレイナに及ぶほど強く、というのはどうにも信じられないが……。
そういうわけで石森さんを観察していると、だんだんと蛇腹剣での攻撃に適応していった。そして、どういうわけか、体中についていた小さな裂傷もだんだんと消えていく。
「結果的にはお前は確かに試練として機能したのかもしれないな」
「なっ!」
石森さんがその剣を持ってヴェンテの右腕を吹き飛ばした。蛇腹剣の動きが止まる。
「くっやるね! でも我は魔法も……ぐっ!?」
ヴェンテの腹部に石森さんの剣が刺さる。
「まさか……、この我が、……見えぬほどの速度で……攻撃してくるとは……」
「これがお前にはお似合いの末路だ。お前が殺めた1人と同じ傷を持って、永遠に眠れ」
石森さんがその剣をヴェンテの腹部から引き抜き、血を払う。
「……参った。完全に、我の……負けだ。おとなしくこのまま、……眠るとしよう」
「じゃあな」
石森さんが倒れ伏したヴェンテから離れたとき、それはヴェンテの隣に現れた。
「死ぬ気? 死んだぐらいで執務から逃げられるとでも?」
「ッスゥー……いえ」
「じゃあ早く復活なさい。あなたの権能は命を操るものでしょ」
そういいつつ、それは地面に倒れ伏すヴェンテを蹴り飛ばした。蹴り飛ばされたヴェンテはなぜか恍惚の表情を浮かべている。あ、なんか察したわ。
「何者だお前」
ヴェンテを蹴り飛ばしたその様子を見て、石森さんがそれに声をかける。剣を構え警戒しているようだ。
「どきなさい。あなたに興味はないわ」
「ならば何に興味をもってここに来た?」
「バカの回収と皇子様と皇女様へのご挨拶よ。今あなたの後ろにいるでしょう? 邪魔だから早くどけなさい」
それの言葉を聞いた石森さんがこちらを見る。あ、もしかして気づいてなかった?
「……いつからいたんだ? というか金本さん、生きてたのか! 良かった……」
石森さんが金本さんが生きていたことに安堵している。まぁ生きてたっていうのとは少し違うけど、いい人なんだな。
「それはそれとして、皇子様と皇女様ってのは……」
石森さんがそれの言葉について考え始めたとき、それはいつの間にか俺達の前に移動してきていて、すでにひざまずいていた。
「皇子様、皇女様。お会いできて光栄です。私は悪魔公爵のテルミエルと申します。もしよろしければあのバカ者を回収する許可をいただきたく存じます」
めっちゃ丁寧……。おそらくあのバカ者ってのはヴェンテの事だろうな。試練を課して強化を図るってのにその強化ものを殺してしまうのはバカと以外言いようがないしな。納得だ。
「被害もまぁ私だけだったし別にいいんじゃないかな? ところで皇子様って誰の事?」
「そちらにいらっしゃる方が皇子様ですよ、皇女様。そういえば面識がありませんでしたね」
そういってテルミエルが紹介したのはやはり俺だった。いや、多分人違いだと思うんですよね……。心当たりないし。
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