杖とウェスタの友人

「これを開けて配信終了、ですかね?」


 レイナがこちらにそう聞いてくる。……そうだな。


「開けたらウェスタから告知あるから少しまってな?」


 まぁSNSではすでに告知はすんでいるんだけどな。


「了解しました」



コメント

『告知?』

『ああ、あの件か!』



 視聴者の間では疑問に思っている人もいるようだし、告知はしておいて間違いないだろうな。


「では宝箱を開けましょうか」


 そういってレイナはいきなり宝箱を開けた。いや早い早い!? 配信なんだからもっともったいぶろうよ!?



コメント

『ええ!?』

『いや宝箱珍しいのにめっちゃ淡泊やん……』



 視聴者も困惑してるぞ!!


「これは……杖ですね」


 中身!? もう出してるし!! ウェスタも隣であきれ返ってるぞ。まぁレイナは配信のこころえとか知らないだろうし、しかたないとは言えるんだけどね? それに宝箱のことをあまり貴重だと思ってなさそうな節もあるし、貴重なものには時間をかけようって言っても聞かないだろうなぁ。


 しかし、レイナが持っている杖、なんだか懐かしい感じを覚えるな。もしかして俺でも使えそうな感じの杖か?


 すると、次の瞬間レイナの瞳に魔法陣が現れた。カンニングか。


「この杖は『ラズメイテの短杖』といって所持者の魔力値を+5000して氷属性を大幅に強化するらしいですね。私たちには必要ありませんが……そこそこ強力な部類に入る武器でしょう。運がよかったですね」


 ……ちょっとまてよ? +5000って言ったか? ……確かに二人には必要ないかもしれないけど、普通の人間にとってはぶっ壊れレベルで強いぞ!? 特に氷属性の人が使ったらやばい。あ、そういえばなんか使えるかもとかおもったけど俺全然使えないわ。うん。魔法使えないもん、俺。


 そういえば鈴音って氷魔法の使い手だよな。これ使ったらどうなるんだ? あ、でもフュンフも氷の使い手だな。まぁフュンフに武器がいるかって言われるとそうでもないような気がしないでもないけど……。



コメント

『目の前の光景ツッコミどころしかなくて草』

『まずレイナ様が鑑定を使えるという万能具合からしてやばいし、武器の性能異常すぎるし、魔力+5000をいらないって言ってのけるのもわからない』

『武器の性能、ガチなら数億クラスで草なんだが……』



 え、この武器数億すんの? 売るかどうかを考えて居たとき、ウェスタに服の袖をひかれる。


「主殿、気持ちはわかるが売らないでおいてほしいのじゃ。あの短い杖は儂の友の遺品でな……その、できれば……儂に……」


 珍しく弱気なウェスタが俺にそういってくる。なんでダンジョンから遺品が出てくるのかはおいておいて、そういうことなら俺は絶対に売らないぞ。


「レイナ、それはもともとウェスタの友達のものらしいから、ウェスタに渡してもいいか?」


「かまいませんよ?」


 レイナはウェスタに杖を手渡しした。同時にウェスタの目から一筋の涙がこぼれる。


「ウェスタ……」


 俺はなんて声をかければいいのかわからなかった。俺がおろおろしている間、レイナは冷静に配信の場をつないでくれていた。あ、一応コメントが読めるスマホを渡しておこう。


 レイナが配信をつないでくれている間、俺はウェスタのそばにつく。


「……主殿、少しだけ、話を聞いてもらってもよいかの?」


「もちろん」


 そう答えるとウェスタは氷の結晶でできているような杖を撫でながら話を始めた。


「実をいうとこの杖の製作者は儂の部下でな……属性が儂には合わないから一番仲の良かった友にこの杖を送ったのじゃ。数千年にわたって肌身離さずもっていてくれたこの杖がここにあるということは、もう彼女は世界を渡る選択をせず、そのまま……」


 後半が正直意味が理解できなかったけど、要は大切にしてくれていたプレゼントがいまここにある、と。レプリカでもなければもう友人は……。


「わかってはいたのじゃ。彼女は結婚もしていたし、最後の時は旦那と一緒なのじゃろうと。それでももしかしたら生きてるかもと心のどこかでは思っていてな。……今、この杖を見て少し心に来てしまったのじゃ」


 俺も大切な人を失ったときの気持ちは理解できる。家族を失っているからな。俺の経験だがこういう時はただひたすらに泣いて割り切れるときを待つしかないと思う。俺にはその時、鈴音という慰めてくれる人もいて、なんとかなっていた部分もあるが。


 そうだな、ならば……。受け売りのようだが。


 俺はウェスタのことを抱きしめていう。


「大切な人を失ったときの気持ちは、俺もわかる。ウェスタからしたら若造がなにいってるんだって思うかもしれないけどさ、こういう時は泣きたいなら泣いていいんだ」


 ウェスタも俺に手をまわして強く抱きしめてくる。ぐぇっ。ちょっと痛い……。


「もう割り切っておるから別にいいのじゃが……。しかし……もう少しだけこのまま……」


 声に出してはいないが、ウェスタは静かに涙を流していた。もう少しだけこのままでいてあげようか。


 ウェスタが落ち着いてきたので配信を継続しているレイナの方を見てみると、レイナは視聴者と会話していた。


「よって、ここの計算ではこのようになるわけです。理解できましたか?」


 ……なぜか数学の解説をしていた。なんで?

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