記念閑話【ネタバレ注意】『教皇としての覚悟』
本日記念閑話最終日です!
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明日からは本編に戻ります。
◆◆◆
私は常に選択を強いられてきた。私の教皇という立場がそうさせるのだ。我らが
人間族の繁栄のために。やらなければならないことがある。
私の国が国教とする宗教、アルタ教は人間族全体の結束を強め、礎を築いた。先人が作成したその経典にのっとった行動を、私はしなければならない。
「メルベル、私は正しい行動をしているといえるだろうか」
人間のために魔族を討てと、私の唯一の友の同族を殺せと、命令しなければならない。そんな命令などしたくはない。しかし、やらなければ人間族は瓦解する。
両極端の葛藤によって私の顔はひどく歪んでいることだろう。
「そんなひどい顔しないで。あなたが許されなければ私も許されないわ」
「気を使わなくてもいい。私はもうすでに敵も味方も、数えきれぬほど殺した……私のせいで、彼らは命を……!」
私の今までの命令によって一体何人が死んだことだろう。自軍の被害はもちろん、魔族たちもだ。
「安心して、罪の重さなら私が上よ。あなたのその手はまだ汚れてないでしょう? 私の手はもう何万年も前から汚れたままよ」
たまに思うがわが友、メルベルは一体何年生きているのだろうか。人間族には想像もできぬか。
「確かにまだこの手は汚れていないが……汚れているようなものだ。私はこの手で異世界の青年に洗脳を施した。彼は元々危険のある行動を取らない人だった。彼がもし死ぬようなことがあれば私が殺したようなものだ」
「それは彼が魔族を殺した時に自責の念ではなくてあなたへの敵意を持たせるためでしょう?」
確かにその通りではある。しかし、1人の青春を奪い、あまつさえ魔族を殺させるなど、まるで悪魔の所業ではないか。
「そうだ……しかし、彼が奪ってしまった命も私が直接奪ってしまったようなものだ」
「命というものは確かに重いわ。魔王様も救える命は救うと常日頃から口にしているからね。でも、私はそうは思わないわ。過去の仕組みが残した黒い部分を、その責任をあなたがすべて背負う必要はないのよ」
メルベルが私を抱きしめる。生まれてから感じたことのなかったぬくもりを感じる。
「もしあなたが地獄に堕ちるというのなら……私も一緒に堕ちてあげる」
その言葉はまるで危険な何かのように私の頭の中にしみ込んだ。メルベルがいてくれるなら、私はまだ教皇としてふるまえる。そんな気がした。
しかし、世界は甘くない。私の作成した聖域が一つ、破壊された。いや、破壊されたというのは正しくない。消滅した。
勇者を送り込んだ街の近くの聖域が消えていく……。波紋が広がるように、いくつもの聖域が消えていく。聖域にいた人達は無事なのか!? 聖域には一体何人の人がいたと……!?
「ルイス。私の近くから絶対に離れないでね」
この異常事態に、メルベルも気が付いたらしい。メルベルは強い。数万年生きている魔族だ。弱いはずもないが。
「メルベル、ここから離れよう、いずれ到達する」
「もう来るわよ……」
メルベルが私をかばうように私の前に立つ。が、しかしそちら側は消滅が広がっているほうではない。なぜそちらを?
その答えはすぐに分かった。壁を突き破り、まるで竜のような翼をはやした一人の女性が現れた。
おそらくだが彼女の名はラズメイテ。魔王の、妻だ。
「メルベル? なんでここに? っていまはそれどころじゃないや。教皇、あなたがいれば結構大きな被害でちゃっても人間族まとめられるよね?」
私がいれば、か。確かに私の人望はあつい。しかし、大きな被害が出た後に人々の心情がどうなるかはわからない。
「わからない。ほかの人間よりはまとめることに向いているとは思うが、混乱した人々がどうなるかは未知数だ」
これに関しては正直に答えるしかない。彼女は私の要注意まとめに入っている私に敵意を持っていたとしてもおかしくない存在だ。できるだけ感情を刺激したくはないが言わざるを得ないな。
今はメルベルが守ってくれているから、震えることもなく言い切れた。やはり友とは偉大な存在だな。
「そう? まぁでも今はあなたを守るのが一番人間の復興に現実的な策かな。私の後ろに隠れててね。あ、あとこの宮殿、ちょっと壊れちゃうかも」
そういった彼女は消滅の波紋が広がっている方角の壁を拳で破壊した。……私の部屋がボロボロだが?
次の瞬間、壁が壊れて見えていた外が一瞬にして氷の壁で埋め尽くされた。宮殿よりも規模が大きいのではないだろうか、この氷の壁は。
「これで防げるといいんだけどね。まぁ望みは薄いとおもう」
「ならばなぜここに残る気だ」
彼女は私のベットに腰を掛けている。もう動く気はないとでもいうように。
「あの人がいないならもう生きてもしかたないからね。せめてあの人が気にしてた世界の平和を少しでも達成しやすくしたかっただけ」
「生き残る手段は完全にないのか?」
「あるにはあるよ? 私とかメルベルくらい強くないと、無理だけど」
ならば私はもう無理だな。それであれば……。私はいつの間にか後ろから私を抱きしめる形になっていたメルベルに声をかける。
「メルベル、君だけでも生きてくれ」
「もちろん方法は知ってるでしょ?」
まるでその言葉を聞きたくなかったかのように不機嫌な顔をしたメルベルがいう。
「一緒に地獄に堕ちるっていったのに、私だけ生き残るなんて、できないわよ」
「私は君に生きてほしい。私はここにいる人々を置いて自分だけ逃げるなんてできそうにない」
これでも人々の上に立つものだ。危ないから逃げましたなんて言えるはずもない。
「絶対また会えるって約束できる?」
「ああ、約束だ」
最後に一度、彼女と抱き合う。名残惜しいながらも離れると、彼女の姿が空を解けるように消えた。瞬間移動したらしい。
「最後の時だね」
「後悔はない」
魔王の妻と最後に言葉を交わしたそのあと、氷の壁が一瞬にして消滅したのをみたのを最後に私の意識は途絶えた。
◇◇◇
はっと目を覚まして上体を起こす。いま、何時? 0時45分。なんて時間におきちゃったんだ。でも、今は気分がいい。
もう教皇の責任を背負わなくていいから? そうだね。その通り。もう、普通の女の子でいいんだ。そう思うだけで気が楽になる。
でも、この幸せに浸ってちゃだめなんだ。たくさんの人を不幸にした分、今度は幸せにしないといけない。
ゲリラで配信でもしようかな、と今の私、類瀬 心菜、またの名を『ココン』は考える。
この世界で、1人でも多く幸せにしてみせる!
◆◆◆
リン「教皇としての立ち回りは完璧でしたね、この人は。しかし、唯一、魔王と勇者を戦わせるというミスを犯しました。勇者の因果崩壊は魔王の因果とぶつかり合い、矛盾を引き起こしました。その矛盾は……世界を滅ぼすトリガーです。あ、あと今回魔王の妻が登場しましたが……もしかするとみなさんすぐに彼女の正体に気づくかもしれませんね。私はすぐに気づきましたよ」
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