閑話『冥竜王と魔王』

前書き

 この閑話は全体的に話が暗いです。本編に影響のない過去の話なので、苦手な方はとばしてもストーリーに影響はありません。閑話は本日で終わりの予定です。明日からはレイナが新メンバーとして配信に出るお話が始まります。


◇◇◇


 とある秘境にあるあたり一面岩肌の荒野で二つの存在が言い争いをしていた。


「なんでわざわざ君が出ていく必要があるの!? 放っておけばいいじゃん! あんな自分たちのことしか考えられない連中に何か価値があるっていうの!?」


 美しい紫色の髪を持ったその少女はもう一人の男を引きとどめようと声を張り上げた。


「この争いにまみれた世界の争いを終わらせる。俺は強い。力があるんだ。この荒れ果てた世界をまとめて、希望のある世界を作るだけの力が。だからやらなきゃならないんだ。平和のために」


 2人はこの世界に生まれた後、後から生まれてきた者たちを見守る生活を送っていた。世界を変えることはせず、あくまでひっそりと。


 しかし今回、世界全土を巻き込んだ争いが始まったためにもう見ているだけではいられなくなってしまった。少なくても彼は。


「私は反対だよ。確かに君には力があって世界をまとめられるとは思う。でも私たちが俗世にかかわるのはきっとよくないよ! 彼らは私たちの力に頼って依存するだろうし。君は優しいからきっと流されて利用されちゃうと思う」


 自らの規格外の力。それによって振り回される世界を恐れ、紫髪の少女は積極的に動こうとはせず、男を引きとどめようとした。


「俺が騙されやすいとでも?」


 男は少し怒気を含んだような声で言う。


「いや、そういうことじゃないけど……とにかくやめようよ。私と一緒に今まで通りゆっくり過ごそうよ!」


「一緒に隠居生活も悪くはなかったけどな。俺にはやることができたんだ。悪いけど、ここを守っててくれ」


 2人の家がある荒野。そこを守れと男は少女にいってそしてその地を後にした。


 後に残された女は一人、悲し気な表情で呟く。


「せめて私を連れてってくれるなら……私だって反対しないのに……」


 男は少女をはじめから連れていく気がなかった。少女が何度言っても「危ないから」との一点張り。


「私、これでも君と同じ最強、なんだけど」


 少女はひとしきり嘆いた後、自ら後を追うことはせず、2人の家で帰りを待つことにした。


 それから数百年。少女は男の帰りを待ち続けた。まだ魔力感知で彼が生きていることは知っていたから。


 そしてある日。その日は朝から嫌な予感がしていた。なんの根拠もない、漠然とした嫌な予感。


 危機感知能力には何の反応もない。だからただの予感だと、そう思っていた。


「この魔力……一体?」


 男の魔力を確認しているとそのすぐそばにこの世界のものではない魔力をとらえた。男と比べると矮小で比類すらしないその魔力の持ち主の存在……魂は壊れかけていた。


「なんでこんな……」


 少女が観察を続けていると、突如として、男と異界の魔力の持ち主との間にある空間が消滅した。


 かなりの距離があるが、少女ははっきりとそれを知覚した。


 次いで、消滅した空間から法則が崩壊し、世界の次元が消滅していく。


 それに巻き込まれ、異界の魔力と、男の魔力は消滅した。


「うそ……。……うそでしょ!?」


 男の魔力が消滅した。それは少女に大きな精神的被害を与えた。男と少女には世界で最初に生まれた者同士、薄くではあるがつながりがある。そのつながりすらも、消滅した。


 それが意味するところは……。


「そんなのありえない! 絶対に!」


 紫髪の少女が現実を否定している間に、空間の崩壊は進んでいく。最初に発生した地点を中心に円形に崩壊は進んでいく。連鎖して、世界が崩壊しているのだ。もう2~30分しないうちに崩壊は彼女のもとへとたどり着くだろう。


「きっと大丈夫、私が死ななきゃきっと会える時が来る……」


 うわごとのように呟き、彼女はこの世界を離れる用意をした。世界を渡る方法それはいくつか存在している。


 高度な次元魔法もしくは次元を渡り、星に寄生する存在を利用すること。それが世界を渡る条件だ。


 今回彼女は後者を選んだ。一番近くにあるダンジョンの最下層に瞬間移動し、ダンジョンマスター、最終層のフロアボスを一撃で葬りさり、彼女はそこで待機した。


 空間の崩壊による星の危機となれば、間違いなくダンジョンは次元を渡る。


 その際、内部で大きな次元震が発生する。これに気絶せず耐えられるのは彼女くらいのものだろう。


 その後すぐに次元震が発生し、彼女は世界を渡ったことを確認した。余談だが、この次元震の際に最終層にいたものがフロアボスとして固定されてしまう。抜け出す方法も多々あることにはあるが。


 紫髪の少女はフロアボスとして、最下層で待機していた。


「無理やりにでもついていけばこんなことにはならなかったのかな……いや、きっと生きてるから。絶対私を見つけてくれるから……」


 昔の自分の選択を後悔しながら、もう一人の最強を信じて、彼女はとあるダンジョンの最下層で眠りについた。


 そのころ、ダンジョンが新たに寄生先に選んだ星、地球にはいくつものダンジョンが生まれていた。当時高校生だった宗次郎は何か懐かしい感覚を覚えながらも、ダンジョンで冒険することを志したのであった。

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