ちょっと遊ぶのじゃ
ウェスタがボスとの戦闘態勢に入り、突撃していったと思いきや、途中でUターンしてこちらに戻ってきた。
「どうした?」
「少し遊ぶことにしたのじゃ。巻き込まれちゃいけないからの、主殿とカメラの周りに結界を張りに来たのじゃ」
結界? 例の異世界魔法の一種か? ウェスタこちらに爪を向け、魔力を放出する。すると、その魔力は俺とカメラの周りを囲うオーロラのヴェールのようになった。めっちゃきれいだな。
「では行ってくるのじゃ!」
「おう」
ウェスタはもう一度ボスに向かって走っていく。
コメント
『ナニコレ、超神秘的じゃん』
『結界ってウェスタちゃんマジなんでもできるやん』
『何するつもりなんだろ』
リスナーのみんなも結界に驚くと同時に少し困惑していた。今までこんなことなかったしな。
コメントを確認してウェスタのほうを見直すと、ちょうど接敵するところであった。
蜘蛛の前で立ち止まり、蜘蛛とにらみあうウェスタ。両者がにらみあって動かない間に、ウェスタの周り、いや、俺たちの周りにも、このボス部屋のドーム中に人魂のような炎の球体が現れ始める。
なんだこれ、なんだか星空を見ているようだ。結界のオーロラと炎の星。カメラに写ってるのは神秘的な光景だな。
しかし、その神秘はすぐに終わりを迎える。しびれを切らしたらしい蜘蛛がウェスタに攻撃を仕掛けた瞬間、蜘蛛がウェスタにカウンターをくらい大きく空中に打ち上げられる。5mほどはありそうな巨体を一撃であそこまで飛ばすのはさすがウェスタだな。
蜘蛛を空中に打ち上げたウェスタは蜘蛛に向かって右手を振る。その刹那、空に浮かぶあまたの星が一斉に落ちるように、顕現していた火の玉が一斉に蜘蛛へ集まる。
そして、大爆発が起きた。ドーム中を炎が満たす。まるで炎の海の中のようだ。俺たちの周りだけは炎がきれいに避けている。暑さも感じない。なるほど、ウェスタはこのために結界を張ったのか。
コメント
『待て待て待て待て、は? は!?』
『嘘だろ、なんて火力してんだよ』
『圧倒的オーバーキル。恐ろしすぎる』
コメントの流れがやばい。いやウェスタもやばい。リスナーのみんなの気持ちもわかる。俺も信じられないしな。何が起きてんの? これ。
炎がすべて消えさったころ、ウェスタがこちらへと歩いてきた。
「ちょっとやり過ぎたのじゃ。魔石も燃やしてしまったのじゃ」
ちょっとどころじゃないと思うけど。
「あれはウェスタの必殺技か何かか?」
「む? 必殺技ではないのじゃ。もし儂の一番強い技を使えばこのダンジョンを破壊してしまうのじゃ」
ダンジョンの壁って壊せないんじゃなかったか? 俺の常識だとそうなんだけどな。
俺が考えている間に、ウェスタはカメラの前に出て、配信終わりの挨拶をしようとしていた。そうだな、ダンジョンも攻略したし、配信はもう終わりか。
「まぁ、何がともあれダンジョン攻略じゃ! 今日は楽しめてもらえたかのう? 次の配信は……主殿、次の配信はいつじゃ?」
昨日の配信終了時と全く同じ流れなんだけど? 仕方ない。
「明日はいろいろやることがあるからな、明後日にしようか」
「と、いうわけなのじゃ! 明後日はゲームをするぞ! ぜひ見に来てくれると嬉しいのじゃ!」
そんな話してたっけか。何やらウェスタに勝手に決められた気がするが、まぁそれはそれでいいだろう。ゲーム配信ってのもよさそうだ。
「おう、俺からもお礼をさせてくれ。チャンネル登録者25万、そして同時接続8万人の達成。みんな、俺とウェスタの配信を見てくれてありがとう。これからもよろしく頼む。それじゃあ、みんな」
「「ありがとな(のじゃ~)!」」
ふぅ、これで配信終了か。俺は忘れないように配信終了のボタンを押す。
「しかし驚いたな主殿。もうそんな記録を打ち立てることができたのじゃな」
ウェスタ、配信中はコメント欄とか見れてないしな。今初めて知ったわけだ。
「ああ、ウェスタのおかげだよ」
「これはトップも見えるというものじゃな」
ウェスタがドヤ顔で嬉しそうにしている。
「まぁそうだな。配信も終わったことだし、ダンジョンでてうまいもんでも食おうぜ」
「そうじゃな! 今日は何を食べるのじゃ!?」
ウェスタ食べるのも好きだもんな。今日は何を食べさせてあげようか。……ピザとかいいんじゃないか?
「ピザとかどうだ? まだ食ったことないだろ?」
「よくわからんがきっとうまい食べ物なのじゃろう。食べるのじゃ!」
と、いうことなので俺たちはダンジョンを出ることにした。ドームの中央の魔法陣に乗ると、すぐに外に出た。
最寄りのピザ屋に入ると、俺たちはマルゲリータを注文する。
「しかし、同じ名称がついている料理にもいろいろな味があるんじゃな。不思議なものじゃ」
ウェスタが注文後、急にそんなことを言い始める。確かに、ピザの中にもいろいろあるし、ラーメンにも、アイスにもあるな。
「ウェスタもいろいろ食べたら好みの味が見つかるさ。これから俺と一緒にいろいろ食ってこうぜ」
「そうじゃな、いろいろ教えてくれると嬉しいのじゃ」
そういったウェスタは届いたマルゲリータをおいしそうに口にした。
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