サブストーリー「迫る双極【3】」
「何者だ!?」
唐突に現れた男に対し、仰木はすぐに葉加瀬をかばうように立ち、得物である剣を取り出した。
「おっと、事を構える気はねぇよ。単純に疑問に思っただけだ。いま、うちの国はその単語に敏感でな」
金髪の男は臨戦態勢を取った仰木を見て両手を上にあげた。
それを見て仰木は剣を収める。この男の圧は段違いで、この男が本気なら二人とも一緒で殺されているため、この男のいうことがほんとであることがわかったからだ。
「アメリカ人か。で、名前は?」
「ハーリー・キャスター。探偵さ」
金髪の男、ハーリーは名前を問われたとき、その髪をかき上げながらそう答えた。そこに、葉加瀬と仰木が冷静に名刺を差し出す。
「どうもキャスターさん。私たちもこういう事務所で探偵をしていまして」
「おう。後それ日本の漫画のリスペクト入ってるだろ。いいと思うぞ」
仰木は親指を立てる。あの漫画が好きな奴に悪い人はいないのだ。
「お、同業か! なるほど、悪魔憑きの調査でこっちに来た口か?」
めったに見ない同業と出会えてテンションが上がったのか、気分良さげにハーリーが二人に尋ねる。
「いや、実はワシントンの事件を調査しているときに悪魔憑きっていう単語を見つけただけなんだ」
「あーなるほど、それでか。それで悪魔憑きに辿り着くとは優秀な探偵だな」
ハーリーは二人の事を賞賛する。
「というか普通は無理だ。能力持ちか」
ハーリーは二人の事を見つめる。
「見た所、仰木の方は戦闘系だな? じゃあ葉加瀬が諜報能力持ちか」
「正解だ。よくわかったな」
仰木が素直にそう答える。葉加瀬は神妙な面持ちをしていた。
「見ればわかるさ。仰木、お前Aクラスぐらいの実力はあるだろ」
「まぁな。そういうハーリーはSクラスでも上の方だろ?」
「お、相手の力量をしっかり図るタイプなんだな」
ハーリーと仰木が話している横で、葉加瀬は思考を巡らせる。アメリカ人のSクラスについて。
(ハーリー・キャスターというSクラスはアメリカにはいなかったはず。仰木の見立てが間違ってるはずはないし。もしかして、仰木と同じケース? 強さはあっても試験を受けないだけ、とか?)
「ところで、ハーリー。探索者稼業と兼業なのか? 探偵は」
意図してなのかはわからないが、葉加瀬が求めていた情報を、タイミングよく仰木が聞いた。
「いや、俺は探索者じゃない。ダンジョンに入ったこともない」
「は? どうしてそんな強いし能力もあるんだよ」
全く同じ疑問を葉加瀬も浮かべた。
「今日知ったばかりだろ?」
「悪魔憑き……!」
仰木、葉加瀬共に驚きの表情を浮かべる。探すべき存在が、すでに目の前にいるのだ。
「探すんだよな、悪魔憑き。俺も目的は一緒だ。そこで提案なんだが、チームを組まないか? 天使対策のチームだ」
(私たちにとってもメリットが大きい。この人が味方にいれば、戦力的に困った時に助かるし)
「そうだな、葉加瀬、それでいいよな?」
「私もいいと思う、メリット多いし」
葉加瀬がそういうと、二人に向かってハーリーが手を差し出した。
「なんだ?」
「チーム結成の握手だ。これからよろしく頼むぜ」
「ああ、よろしく」
「よろしくお願いします」
握手を終えたハーリーは椅子に座り、肘をつく。
「さて、悪魔についての話をしよう」
「悪魔の話、か」
葉加瀬と仰木もベットに腰を掛け、真剣に話を聞き始める。
「まぁ話すと長くならねぇな」
「長くならねぇのかよ」
「俺自身、悪魔憑きと言えど、わかってることは少ないんだよ。探偵として個人で集めた情報、そして悪魔が付くときに理解したことしかない」
そういったハーリーは過去を懐かしむように話を始める。
「俺についている悪魔は『北風』の悪魔だ」
「『北風』?」
仰木はなんだそれとでも言いたげな顔をする。
「まぁ簡単にいえば風系統の特殊能力を手に入れたわけだ」
「なるほど」
「あとは、悪魔の使命。それを理解した。悪魔の使命はこの宇宙を守ることだ」
逆ではないのかといった顔をする葉加瀬であったが、すぐに思い至った。天使がこの世界を滅ぼそうとしているのなら、悪魔は全く反対の行動をするのではないかと。
「天使と真逆か。俺達、それと宗教のイメージからすると真反対だな」
「まぁ俺達悪魔憑きからすると宗教はただの偶像でしかないからな。神がいるっていうのは本当ではあるが」
それからも話は続き、情報の共有もあらかた終わった後、ハーリーは最後の議題に入る。
「俺のほかに、今悪魔憑きになってる奴らは15人いるはずだ。感覚でわかる。そいつら全員で協力して、天使を叩く。それが俺らの目標だ。俺だけの力で発見することができた悪魔憑きは1人だけ。そいつとはまぁ、今度会ってもらうよ。優秀な探偵のお前たちならできるはずだ。悪魔憑きの捜索、頼んだぞ。俺も引き続きアメリカで悪魔憑きを探す」
「了解した。俺達は日本で悪魔憑きを探そう。1人はもうメド立ってるしな」
紅の事だ。悪魔憑きだということがすでに判明している。
「おう、じゃあ俺は街に戻る。なにかあったらここに連絡してくれ」
電話番号、SNSのアカウントの情報が書かれた紙を仰木に渡したハーリーは外の闇へと消えて行った。
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