第56話 美少女Bクラス
母さんの質問等は適当に流しつつ、風呂等々を終え、時刻は午後11時を回った。そろそろ寝る時間ではあると思うのだが、うちには客人を泊める用のベットがない。
どうしたものかと母さんに話すと、「一緒に寝ればいいじゃない」と、まぁまともな返事が返ってこなかった。
ちなみに父さんだがどうやら仕事先で何かあったらしく今晩は帰宅できないそうだ。まぁそこそこよくあることだから心配はしていないけどな。
仕方ないので俺のベットで寝てもらうことにした。とりあえず俺はリビングのソファーで寝ようかといった感じだ。
「とりあえず明日学校の帰りに布団を買ってくるから今日は俺のベットで寝ててくれ」
「承知した。しかし、そうなると奏多殿はどこで寝るのだ?」
「俺はリビングのソファで寝るよ。同室で寝るのもちょっとあれだしな」
母さんにも唯華にも言ってないがほぼ初対面だからな。それで一緒の部屋で寝るってのは体裁が悪い。
「拙者は別に構わないが……。話したいこともそこそこあるからな」
話したい事?
「話したい事、か。内容は?」
「できれば現代の事についていろいろ話を聞きたい。このままではギリギリの生活すぎる」
確かにそうだな。鎌久さんはこの時代の事については最低限度しか知らなかったはずだ。
明日は学校だからできれば早く寝たくはあるのだが、学校よりも今後しばらくの付き合いになる鎌久さんの生活の方が重要だ。
「わかった、じゃあ今夜は少し話そうか。なにか聞きたいことはあるか?」
「そうだな、まずは現代のおすすめの食べ物から……」
何やら、ロゼリアと同じ気配を感じながらも俺は話を始めた。
◆◆◆
「そうか、日本はずいぶんと平和な国になったんだな……」
「ああ、もう何十年も戦争は起きてないな」
いろいろな話をしていて、気が付くともうすでに朝になっていた。まったく眠気が来た覚えはない。
そうか、もうこんな時間か。
「悪い、もう学校に行く準備をしないと」
鎌久さんにそう告げる。
「ああ、わかった。頑張ってきてくれ。パソコン? でいろいろ調べて待っていればいいんだろう?」
俺が学校に行っているのを待っている間は暇だろうと思って、パソコンの使い方を教えて置いた。
「おう、それでいいぞ。帰りは少し遅くなるかもしれないから待っていてくれ」
「わかった。こういうときはいってらっしゃいというんだったな。いってらっしゃい」
「おう!」
鎌久さんに見送られて家を出ると俺はすぐにコンビニに向かった。疲労感などは全くないが一応は徹夜なわけだ。できればエナジードリンク等を飲んでおきたい。
「すいません、これをお願いします」
会計に俺が出したのは、10年以上前からずっと主流の目印が独特の緑色のエナジードリンクだ。
「かしこまりました」
あまり眠れなかったときなどはこれを飲んでから学校に向かっていたが最近は飲んでいなかった。
なにやらすごく久々な気がするな。
購入したエナジードリンクをすぐに飲み干してからゴミ箱に捨てて学校に向かう。
ちょうど昨日河野さんがBクラスに昇格したわけでし、クラスの人達がどう反応するのか少し気になるな。
いつもより少し遅く、学校に付くとすでにうちの教室から廊下にも響くほどの喧騒が聞こえていた。
ふむ。おそらく教室に入ったら河野さんが取り囲まれてるんだろうな。
俺の時みたいに止めてくれる人がいるわけじゃないだろうし。
「河野さん、Bクラスすごいね!! 戦ってるとこ見たよ!!」
「かっこよかった!! 特撮映画見たいですごかったね! あれが河野さんのスキルなの?」
主に女子が河野さんを取り囲んで話をしているようだった。男子は遠巻きで見てるだけだ。
おおかた女子の集団に押されたんだろう。話かけたそうな様子も見せているしな。
俺はその河野さんを中心とした集団をさけて、自分の席に着いた。そして前の席にすでについていた和人に少し様子を尋ねてみる。
「おはよう和人。で、あれはどういう状況だ?」
「河野さんが人気って状況だろ。SNSでも話題になってたぞ、美少女Bクラス爆誕ってな」
なるほど、SNSで話題か。そういえばうちのクラスじゃない知らない人もちらちら見えるし、相当話題になってるんだろな。
「そういえば奏多、遅く学校来るの珍しいな。どうしたんだ?」
「いや、今日徹夜でな、コンビニよってエナドリ飲んでから来たんだよ」
「不健康だぞ全く」
確かに不健康だとは思ったし、眠くなったら寝ようかと思ってはいたんだけどな。一切眠くならなかったから気が付かなかったんだよな。
「ああ、まぁ今日帰ったら昼寝するから大丈夫だろ」
「全く、気をつけろよ?」
和人は心配してくれているらしい。
「おう。お前もはなさんとの関係気をつけろよ?」
「それは言うなよ。最近結構怒られたんだから」
こいつ……今度は何やらかしたんだ?
「ちょっと男子? 河野さんには近づかないでもらえる?」
なにやら聞いたことのあるようなフレーズが聞こえてきたので河野さんの方を見てみると、他クラスの男子が河野さんに近付こうとしてうちのクラスの陽キャ女子に止められていた。
「いいだろ? 俺達も河野さんとお話ししたいんだよ。なぁ、いいだろ? 河野さん?」
ほぁ~大変なことになってんなぁ。これは男子と女子の抗争が始まるか?
「大変だなぁ、あっち」
和人は他人ごとのようにそんなことを言う。
「まぁやばそうだったら止めにいくよ。Bクラス探索者の威厳を使ってね」
「そういえばこのクラスにBクラス探索者2人いるのか! 奇跡のクラスだろ」
確かに。そう考えるとめちゃめちゃ珍しい学校になったな。そもそも高校生Bクラスが現在21人しかいないからな。
そんなことを考えていると、どうやらあっちの方で動きがあったらしい。
「好きな人には一途で居たいので男の子とは話せません! ごめんなさい!」
河野さんが前にでて大声でそういった。とたんに崩れ落ちる男子と、黄色い歓声を上げる女子達で別の意味でクラスが二分化した。
「いいきっちゃったよ。すごいな河野さん。俺にはそんな勇気ないぞ」
「あら、私のために出す勇気はないの?」
「うぇぇ!?」
いつもの流れキタコレ。なんでこうもいいタイミングで現れるんだはなさんは。
もしかして、河野さんみたいにストーカーしてます?
しかし和人の声なっさけないな。笑えてくるわ。
「瀬戸くん、和人ちょっと連れてくわね」
そして和人ははなさんに耳を引っ張られどこかへと連れ去られた。
ホラーですか?
和人が居なくなって暇になったのでいつものように音楽を聴いて時間をつぶそうとすると、イヤホンが誰かにとられた。
誰だ、俺のイヤホンを取るやつは。
「奏多くん、1人で何してるの?」
河野さんだった。どうやらあの輪からどうにか抜けてきたらしい。皆こっち見てるけど。
「いや、音楽を聴いて時間をつぶそうとしてた所だけど」
「じゃあ私と次行くダンジョンのお話ししようよ」
どうやら俺と話したい様子。あ、そうか。俺と話すって名目であそこの集団から抜けてきたのか。
「それは彩佳と話あわなきゃいけないと思うけどな?」
「確かにそうだね……今は腕輪で念話するのも迷惑だしね」
彩佳ならいつでも出てくれそうな感じはあるけどな。
「じゃあさ、昨日の帰りに女の子連れてたみたいだけど、誰?」
河野さんの目からハイライトが消えた。鎌久さんの事かぁ……。
今うちに泊めてるとかいったらなんかまずい気がするからごまかしておくか。
「昨日は彩佳の家で河野さんが戦う配信を見てたから気のせいじゃないか?」
「へぇ……じゃあ今日奏多くんのお家に行ってもいいかなぁ?」
……。
「さすがにそれはダメだろ。自分が容姿に優れた女子ってことを一度考えた方がいいと思う」
これは本音だな。別に襲うわけでもないが、そういうのに慣れてしまっては少し心配になる。
「別に奏多くんならいいんだけど……まぁうれしい言葉聞けたからやめておくね。そろそろ席戻る~」
鎌久さんの事はいずれ皆がいるときに話さないとな。あまり長い間隠してると二人が怖い。
しかしそれにしても周りにめっちゃ見られてる気がするな。まぁBクラスになったわけだし、こんなことは気にしてられないな。
俺はもう一度イヤホンを付け、和人が戻ってくるのを待った。
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