第38話 手紙?

 またしても電車に乗って30分ほど揺られ、青森に戻ってくる。今度は変身したままだからか視線が気になる。いつかなれる日が来るのだろうか。


 あんまりなれる日は訪れそうにないが、とりあえずは青森に着いたので探索者協会支部に向かう。


 低い視点で見る青森市というのも少し新鮮だな。何度か通ったことのある道でも別物のように感じる。


 ちょっとした冒険をしている気分で歩いていると、20分ほどで探索者協会支部に到着した。時刻はすでに4時近い。


 協会の中に入り、窓口へ向かう。


 そういえば口調……。すいません、多少の無礼をお許しください。ロゼリアとの約束なんです……。


「探索者登録をお願いしたいのじゃが……」


「は、はい? はい、わかりました。こちらの用紙に記入をお願いします」


 おお、さすがプロ、一瞬変な顔をしたがすぐに持ち直した。多少受付嬢さんに申し訳ない気持ちを覚えつつ、その用紙に名前、年齢、メールアドレスを書き込んでいく。名前を書いている途中で思った。


 苗字、どうしようか。ちょっと人に頼むか。


『彩佳、ロゼリア、変身してるときの苗字考えてくれないか?』


『急だね。どうするロゼリア』


『儂はローズフィン一択なのじゃ! 儂とお母さまの苗字!』


 一人凄まじい熱意の人がいるなぁ。仕方ない、そうしようか。


『じゃあそれに決めることにするよ。ありがとうな』


『こちらこそありがとうなのじゃ!』


 そういうわけで名前にはクラリカ・ローズフィンに決定。そして年齢は16、で、メールアドレスには昔作った使ってないメールアドレスを使用。


 そしてそれを差し出して認証メールを送ってもらう。そしてそれを受付の方に見せて登録完了だ。


 最低基準で探索者証を作ったので様々な補助が受けられないが、まぁそれは仕方ない。最近調べた結果、最低基準でカードを作ると、換金の際にかなり困ったことになるようだった。


 口座に振り込むのではなく現金を直接手渡しになるし、税金が多くかかるのだそう。正直そこら辺の仕組みは良く理解できてはいないが、登録をしておいたほうが有利になるとは思う。


 まぁクラリカでダンジョンに入るとき用なので、事情がなければあまり使わなくていかなとも思った。ダンジョンの中で変身することも可能なわけだし。


 そう考えるとなんで今日ここに作りに来たのかわからなくなるが、まぁ気持ちの問題だろう。持っていて損はない。絶対にいつか変身した状態でダンジョンに入る状況は訪れるわけだし。


「これが探索者証になります。それではよき探索者ライフを!」


「ありがとうなのじゃ~」


 さて、できあがった探索者証も受け取ったわけだし、帰ろうか。


◆◆◆


 翌朝学校に来ると、すぐに和人に詰め寄られた。


「このBクラス探索者って奏多だよな!? SNSの名前も瀬戸 奏多になってるし。いつの間にあんな強くなってたんだ!?」


「あそこまで戦えるようになったのは最近だよ」


 探索者始めてから1か月しか経ってないわけだしな。


「なんで俺に言わなかったんだよ!!」


「え、いや別に言う必要もないかと思って」


 そういうと和人が急に財布を取り出して一枚のカードを取り出して見せてくる。探索者証だ。和人も探索者やってたのか。


「言ってくれれば一緒に探索行けたのによ~」


 そんなこと言われてもなぁ……。


「和人が探索者やってるとは思わなかったし仕方ないだろ」


 そう言って席に着く。すると、早いうちに学校に来ていた人達が俺の近くまで来て話しかけてきた。


「瀬戸くん、Bクラス探索者になったってほんと?」


「おい! 三並ちゃんとパーティー組んでるってほんとか!?」


「どうなんだよ瀬戸!!」


 恐れていた事態だ……。やっぱ彩佳とパーティー組んでるのってばれるよなぁ。あれ、彩佳が公表したんだっけ?


「いや、それは……」


「おい、お前ら奏多を困らせんなよ!」


「あ、ごめん」


 和人の一言で集まっていた人達が散っていく。さすが校内影響力がめちゃめちゃ高い男。


「すまん和人、助かった」


「いいってことよ。ところでさ、三並さんと知り合いってことはクラリカちゃんとも知り合いだったりしない?」


 ぎくっ。そういえばその筋もあった。俺がクラリカだとばれる可能性の一つ……。後で彩佳にクラリカは友達で、俺はパーティーメンバーってしっかりわけて情報だしてもらえるように話してみよう。


「さぁ? 俺は特にその人の事は聞いてないな」


 ここは適当に誤魔化しておこう。


「そっかー。いや、あの人に一度会ってみたいなと思ってさ?」


「誰に一度会ってみたいって?」


 和人の彼女のはなさん。毎度毎度いいところで現れるな。和人の顔色がまた悪くなったぞ。


「い、いや、有名人に会えないかと思ってさ?」


「へぇ容姿端麗で話題になった海外の少女と、ねぇ?」


「すいませんでした」


「……ふっ」


 和人が一度飛び上がってダイナミックに土下座する。もはや芸だなこれは。一応彼らは真剣にやっているわけだし笑うのは失礼だからこらえるが、こらえるのが精一杯だ。素でこれをやっているんだから面白い人達だよほんと。


 あまり見てると笑ってしまいそうだし、机に勉強道具を入れて話が終わるのを待とうかと思って鞄からものを取り出して入れようとすると、何かに引っかかった。


「うん?」


 確認してみると、中から一枚の封をされた手紙のようなものが出てきた。宛先はもちろん俺。かわいらしい丸文字で書かれている。


 封を開けて中を見ていくと、要約にはなるが、どうやら話したい事があるから放課後書写室に来てほしいらしい。


 なぜに書写室? というかこれってもしかして告白だったりしないか?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る