第34話 真髄
先手必勝。それは俺が掲げてきたスローガンのようなもの。だから今回の試験にも初手から全力を出す。様子見なんてものはしない。圧倒的に格上なのはわかりきっているからな。
「多重展開『旋火炎』×3」
反撃をもらわないように距離をとってから遠距離に届く炎攻撃を3つ展開し、うち放つ。剣を構えていたが、主戦力は魔法だからな。
「炎系の魔法ね!」
あまりにもあっけなく魔法をかわされる。早すぎんだろ。
とりあえず俺の得意の速さで負けるわけにはいかない。聖剣に魔力を流していく。だんだんと俺が世界の時を引き離していく感覚。
そして聖剣に魔力を流したまま最高速度で吉野さんに斬りかかる。
「速いね!?」
俺の聖剣と吉野さんの聖剣がぶつかり合う。最高速度が防がれた。まぁ差がありすぎるから、時間加速したところで追いつけはしないか。そのまま力で押し合っても勝つことはできないと判断し、一旦押し込んで弾かれる反動で後ろに跳躍する。
着地間際、吉野さんに見えないように魔法陣を展開、魔力を流し、弾速の早い『風刃』を発動する。
「風系も使えるのね!?」
不可視の風の刃は、吉野さんの聖剣で切り裂かれる。動きが早い。それにあの聖剣も魔法との接触効果を持ってるな。前に鑑定を使ったときはレベルが低かったからわからなかったわけか。
「魔法を使えるのはうらやましいかな。じゃあそろそろ私も攻撃するよ!」
吉野さんが聖剣を構える。あの速さで攻撃されたらシャレにならん。俺は魔法しか防ぐ手段がない。全力で躱さなければ!
「うおっ!?」
時間を加速させてなお、ギリギリでの回避になった。速度のステータス相当高いだろうなこれ。正直鑑定して対策を立てたいが、かなり個人情報を見てしまうことになるし、そもそも見ている余裕がない。
「それっ!」
「うっ!?」
躱した先に追撃が飛んでくる。一応剣での防御は間にあったが、そのパワーに吹き飛ばされてしまう。結構な距離飛びはしたが、壁にあたることはなく、そのまま着地して転がった。
体を少し痛めたが、患部を見ると煙が上がっているような感じで、損傷は見られなかった。
なるほど、血は出ない感じか。それも先に言っておいて欲しかったが。ここは一種のバーチャル空間のようなものなのだろうな。
反撃、しないとな。このままだといい点がもらえない。全力の多重展開を行うとしよう。
立ち上がって、そしてキープマジックを発動し、火、水、風、土の魔法全てを空間に召喚する。ストック数は100と少しくらいだろうか。今なら発動しきることができる。魔力も増えたからな。
「え……」
吉野さんの驚いた顔が見える。さすがに全て躱すのは無理だろうと思いたい。空間中に張り巡らされた全ての魔法陣が輝きだす。さすがに数が多すぎて魔力を通すのに時間がかかっていて発動が遅れている。
「
全ての魔法が吉野さんに向けて飛んでいくその直前、吉野さんの剣が眩い光を放ったのが見えた。
逆境の時に発動する聖剣の能力。どんなものがあるのか。最悪全ての魔法が防がれる可能性がある。
輝きが魔法を切り裂いていく。一発も、当たっていない。このままでは何の意味もなくストックが無くなっていくだけだ。ならばせめて、この状況を利用しよう。
「がはっ!?」
加速をかけて、全速力で魔法を防ぐために剣を振るっていた吉野さんに近付き、その胴体に聖剣を突き刺す。案の情、魔法は全て防がれていた。しかし、魔法に集中していた吉野さんは加速した俺にまで対応できなかった。
今俺が使うことができる全魔法を使った目くらましだ。対応することはできまい。
「まだ、やるんですか?」
俺の聖剣が胴に突き刺さってなお、吉野さんは行動するつもりのようだ。吉野さんの聖剣の光が増していく。一撃でも喰らったら死ねるからな。俺は聖剣を抜き取り、後方に撤退する。
「Aクラス探索者が、これからBクラスになろうって探索者に負けるなんてみっともないこと、絶対できないからね……」
Aクラス探索者としての矜持なのか、これで終わってはくれないようだ。まいったな。魔法はもう使えない。相手が瀕死とは言え魔法がなければステータス差を消す戦いはできないぞ。剣聖の剣技があるとはいえ、ステータス差が絶望的すぎる。
「瀬戸くんは知ってるかな……スキルの奥深く、真髄の能力を」
真髄……? 聞いたことすらないな。そんなものがあるのか?
「いえ、知りませんが」
「じゃあ見せてあげるよ。スキルの核心に迫る、魂からの必殺技」
なにかやばいのが来る。そう直感した俺は効果があるかわからないが、聖剣の効果で結界を張る。もし魔法系の何かが来るのであれば、この結界で防げるだろう。
問題は魔法系ではなさそうなところだ。今までの傾向からして。
「是非、お願いします」
最終手段はこの剣で防ぐこと。不壊の剣で防ぎきること。
「じゃあ、行くよ。鋼鉄守護・真髄『鋼鉄の舞姫』」
輝く鎧のようなものが吉野さんを覆い、そして背中に光の羽が生える。その姿はまるで戦乙女。感じる圧は先ほどまでとはくらべものにならない。
スキルの核心に触れる……俺にもできる日は来るだろうか。ここから勝つための手段。俺にはもう神に頼むことぐらいしか残されていないだろう。
神に祈る、か。思えば俺の始まりにして原点は神に祈るということだった。
ならば、今こそ原点に戻り神に祈りながら戦う時じゃないか? もちろん、通っていた神社のな。
御霊龍神様。今こそ、俺に力を貸してください。
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