第31話 得物

 今まで苦楽を共にした相棒である【火の魔剣】が欠けた。探索者にとって得物の破損は命取りであるが、今は戦闘終了と同時に破損であって、比較的タイミングは悪くなかった。


 しかし、長期的な目で見れば、今ここでの破損は少し痛い。なぜなら今週の土曜日、Bクラス昇格試験があるからだ。筆記試験は問題ないが、実践で使い慣れた武器を使えないのは大きなマイナス点になりえる。


「こいつは困ったな」


 修理を依頼しようにも、ダンジョン産のアイテムを修理するには専用のスキルを持った人の力が必要なので、当然すぐには直すことはできない。そのスキルを持っている人はそんなにいないからな。


 なんと日本でも5人しかいない。


「どうしたの?」


 いつの間にかロゼリアから主導権を戻していた彩佳がこちらの様子をうかがう。


「魔剣が欠けちゃったんだよな」


『核が相応に硬かったのかものう。しかし、もうすぐ試験だろう? 試験の際の得物はどうするのじゃ?』


「それを悩んでるんだよなぁ……」


 一応武器なしで出てもランダムブレスで何とかできる可能性もあるが、少し現実味に欠けるな。後は父さんに買ってもらっていた剣だが、あれだとBクラスの試験を受けるには役不足だな。普段使いなら全然問題はないが。


「なら私が今まで宝箱から回収して取っておいてた剣使う?」


 宝箱から回収していた剣か。それは少し気になるが、いいのか?


「そういうのって借りて大丈夫なのか?」


「あ、うん。私が使っている剣以外は大丈夫」


 彩佳が使っている剣……そういえば前に鑑定させてもらおうと思っていたんだっけ? とりあえずそれは置いておいて。


「それならダンジョンから出たら見せてもらってもいいか? どれがいいか鑑定してみるから」


 ダンジョンの中で鑑定作業はあまりよくないからな。とりあえず早くこのダンジョンから出よう。


「わかった。後あの宝箱は開けなくていいの?」


 彩佳が指を指した先、先ほど俺がアークガイストの核を砕いた場所を見ると、そこには宝箱が現れていた。いつの間に出てきていたんだ?


「気づかなかった。開けるか」


『わくわくタイムじゃな』


 ロゼリアがなんか言っているが……。とりあえず開ける前に鑑定していくとしよう。


【宝箱★★★☆☆】

・罠はない


 ジェネラルを討伐した時と同じレアリティの宝箱だな。これはいいものが期待できそうだ。


「俺が開けてもいいのか?」


 一応確認を取っておく。皆で倒した魔物だし、みんなで開けるのも悪くはないかもしれない。


「別にいいけど……皆で倒したし、やっぱり皆で開ける?」


『儂も気持ちだけ一緒に開けるのじゃ!』


 ロゼリアもそう言ってることだし、そうしようか。


「じゃあそうしようか、いっせーので開けるぞ!」


 3人で宝箱に手をかける。


『「「いっせーの!」」』


 3人で箱を開けると、中に入っていたのは一本の装飾された豪華な杖だった。鑑定してみよう。


【豊穣の恵みの杖】

・階級 伝説級

・魔法・スキルを使用した際に減少する魔力を半減させ、威力を上昇させる (アイテムによる魔力の消費は減少しない)。

・魔力を消費することで豊穣神の加護を発動可能。豊穣神の加護を発動すると、自身と自身の仲間以外の魔法の威力を低下させ、自身に少量の回復効果を付与する。


 鑑定の説明がとてもゲームっぽくなったな。レベル1の頃と比べると。


「伝説級の杖だな。能力の詳細は後で説明するけど、どうする? ロゼリア、使うか?」


『いや、儂は大丈夫じゃ。奏多が変身する時に使うといい。魔法系をサポートする効果じゃろ?』


 どうやら譲ってくれるよう。彩佳は魔法系はそんなに扱えないからと言っているし、お言葉に甘えて俺が変身しているときに使うとしよう。


「さて、じゃあダンジョンから出るとするか」


『そうじゃな。奏多の剣も見繕わねばならんし、急ぐのじゃ』


◆◆◆


 全力でダンジョンを駆け上がってきた結果帰りの電車まで少しの余裕ができた。ということで今回のステータス上昇の確認と、剣の選定を行うことにした。


「剣、見せてもらっていいか?」


 俺が彩佳にそう聞くと、彩佳はマジックバックから4本の剣を出す。なんの装飾もない鉄の剣に見えるものが一つ、真っ黒で重厚感のある剣が一つ、稲妻のような模様が入った剣が一つ。


 そしてもっとも俺の目を引いているのが、錆びたように見える剣だ。その剣を持って彩佳に聞く。


「どうしてこれを取っておいたんだ?」


「捨てようと思ってたけど、忘れてた」


 どうやら存在を忘れていたらしい。先ほど見てきた順に鑑定していく。まずはただの鉄の剣のように見えるものだ。


【魔剣 ゲイルムンド】

・階級 伝説級

・魔力を通すと一定時間、魔法に接触可能となる。

・魔力を消費することで、戦士の怪力を発動可能。一定時間の間攻撃力が倍となる。


 これはシンプルながら強力な武器だな。これがあればかなり力押しができる。次は真っ黒な剣だな。


【魔剣 グラム】

・階級 伝説級

・使用者の意思と共鳴し、重さを変える事が可能。

・5分間、自身の速度を倍にすることが可能。効果が終了すると、2分間のクールタイムが発生する。


 魔力を使用することなく、前線で物理戦闘が可能なのか。これも強力だが、いまいちピンとこないな。次は雷のような模様が入った剣だ。


【魔剣 インドラ】

・階級 伝説級

・魔力を流している間、雷を纏い攻撃することが可能。

・魔力を消費することで、雷神の加護を発動可能。雷神の加護を発動すると、自身の速度が倍になり、全属性魔法への耐性を得る。


 魔力を消費する代わりに先ほどの魔剣よりも少し優秀な効果があるな。だがやはり惹かれはしないな。最後に錆びた剣だ。


【封印されし聖剣】

・階級 神話級

・素質のあるものがこの剣に魔力を流すとき、封印は破壊される。


 ……神話級だと!?

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