閑話『南口の激闘・2』
ついにこの地を踏んだ化け物は周囲を見渡していていまだ動きはない。その間の考えで、但木は一つ気が付いた。
(あの蜘蛛、迷宮の壁も壊したってことか? そうなれば、魔物なら壁を壊せる、もしくはスタンピード中なら壊せると?)
高速で思考を回転させながら巨大な蜘蛛の様子を注視する。少しでもあれが動けば甚大な被害がでる。そうならぬよう、動き出して別の場所に行こうとする前に気を引かねばならないのだ。
(だが魔物が迷宮の壁を壊したって報告は聞かないな……。つまり、スタンピード中だから壊せるって認識で間違いはないはず。だとすれば、迷宮、スタンピードには何者かの意思がある?)
但木が思考を完結させようとしたその時、ついに蜘蛛は動きを開始する。その大きな足は振り上げられ……。但木に向かって振り下ろされる。
「気づいてやがったのか!?」
但木は自慢の速さに物を言わせ、最速の動きで攻撃範囲から離脱する。
踏みつぶされた周囲の家は衝撃で倒壊し、アスファルトの道路は陥没する。
「やっば」
気づいてなお、外界の把握を優先していた。つまり……。
「俺なんか歯牙にもかけない存在だってか?」
蜘蛛の八つの目を見据え、但木が問いかける。当然返ってくるのは返事ではなく次の攻撃。
但木は最小限の動きで、攻撃本体と衝撃波をかわし、蜘蛛にむけてもう一度言葉を発する。
「俺を殺すのは、そんなに甘くないぜ?」
但木は、地面を踏みつけた蜘蛛の足に速射で5本の矢を飛ばす。
「俺も殺す手段ないけどな……」
その矢は全てその甲殻に弾かれる。
「まぁ避け続けて時間を稼ぐだけだ。Sクラスが来るんだからな」
北口を確認した後、様子を見にこちらまで来るはずだと、それを信じて但木は戦う。
こんな巨体の魔物であるから、向かう途中でこちらに気が付いてきてくれるかしれないという希望も持って。
「おいおいまじかよ」
蜘蛛の牙付近に闇が集積されていく。
「絶対やばいのが飛んでくるぞ。地面に当てさせるわけにはいかねぇ」
その闇が放たれそうになる瞬間、但木は空中に大きく跳躍する。そして一本の矢を放つ。
辺りの空気が震え、異音が響く。そして集積された闇が解放される。それは但木の落下軌道を正確にとらえていた。
「『
放たれた一本の矢を操作し、自身の服にひっかけ、闇の波動を回避する。闇の波動は後方にあった山に命中し、大爆発を引き起こした。
「住宅地にあたらなくてよかったな……」
しかしこれでここに化け物がいることにSランクが気づいてくれただろう。そう自分に言い聞かせ但木は戦闘を継続する。
「弱点はどこだ?」
弱点さえ攻撃できれば蜘蛛の火力を下げることも可能かもしれないと、但木は弱点について考える。
そして一つの結論に至った。
「極論だが目をつぶせばいいな」
遠距離攻撃ににて目をつぶすという方策を取ろうとする。幸いにして、蜘蛛は鈍重なのか、あまり動きを見せていない。十分に当てることができる可能性がある故の判断だ。
「『魔法の矢・
但木は矢を八本連射し、それぞれの目を狙う。
「ゲシャァァァァ!」
凄まじい音圧の叫びが矢の進行を妨害する。音圧に止められた矢はそのまま落ちる。
「まさか音圧で止められるとは思わなかったが……二段構えだぜ!」
視界をそらした先で跳躍していた但木は空中で、それも安全圏からもう一度八本の矢を放つ。
「この距離なら使えるぞ! 『魔法の矢・光陰』!」
八本の高速の矢が蜘蛛の目を貫く。こんなものでは当然死なないが、但木は視界を奪うことに成功した。そして空中から着地する前に気が付いてしまった。
「そんな馬鹿な……こんな化け物が何匹もいんのかよ」
空から見た北口の方に、全く同じと思われる蜘蛛がいた。着地した但木の顔が青ざめる。救援が絶望的な状況になったかもしれないからである。
もし来てくれるSクラスが一人だったとしたら、間違いなく北口から対応するであろうし、その対応には時間がかかると思われるからだ。
その時間で但木は間違いなく……。
「やってやるしかない……!」
但木は時間稼ぎから路線を変更し、全力で戦闘を開始することに決めた。
「『魔法の矢・遠距離』!」
但木は蜘蛛の足の関節に向かって矢を放つ。関節以外の部分を攻撃してもダメージが入らない。ならば入ると思われるところを狙えばいい。目はすでに潰されているため、次は関節なのだろう。
「効いてんじゃん」
その矢は貫通こそしないものの、弾かれずに刺さっていく。
「いけるか……!?」
その時ついにその場から動かなかった蜘蛛が動きを見せた。近くの建物を足で薙ぎ、そして但木の方へ歩を進める。
「見えないはずだろ!?」
驚く但木をよそに、蜘蛛は足を2本振り上げ、叩き落した。直接但木にあたることはなかったが、倒壊した建物のがれき等が高速で但木に飛来する。
「うっ……」
防御系のステータスがそこまで高くない但木に飛来したがれきが続けざまに命中する。
「かはっ」
大き目のがれきがあばらに直撃し、但木は膝をつく。
無数に飛んできたがれきの大部分は回避したが、それでも数が多すぎた。
「時間は十分稼いだよな……限界だ」
傷口を抑えながら但木がつぶやく。
「……いや、まだだ。まだ稼げるはずだ。こんなところでは、折れられねぇ」
死にもの狂いで立ち上がり、弓を持つ。
「Aランクの矜持を見せてやるよ……!」
最後の闘いが今始まる……かと思われた。唐突に蜘蛛の足の一本が切断される。
「まさか……!」
切断された足の元。但木がそこを見ると、そこには……。
「Sクラス、か。札幌の時も思ったが、ずいぶんと面倒な魔物が出てくるものだ」
世界最強の男、紅 司が立っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます