第4話 地図にない

 この青森ダンジョンは鑑定さんによるとそこそこの高難易度ダンジョンだな。世界にはSクラスすらも超える龍が存在しているダンジョンもあるらしいから最高難易度には全然届かないだろうが。


 まぁ間違いなくいまの俺がCクラス以上に挑んでも瞬殺されるだけなので奴らに挑むためにまずはレベル上げだ。


 バインドスネークでレベル上げなどちゃちなことは言っていられない。少し深度を上げて、ストーンリザードを狩る。


 魔剣に火はともさず、魔力を節約してバインドスネ―クを倒しつつ深度を上げて行く。


「いた」


 洞窟の岩肌に同化していてわかりづらいがストーンリザードを発見した。


「先手必勝だな」


 俺はランダムブレスを使用して魔法陣を作り出す。今回は……【闇】【波動】【遠距離】。


「かませ!」


 魔法陣に魔力を流し、ストーンリザードに向ける。属性や特性に違わぬ闇の波動はストーンリザードにしっかりと命中した。しかし、先の二つと比べあまり見た目に威力を感じない。さすがにこれではやれないか……?


 闇が晴れたころには変わらぬ姿のストーンリザードがいた。これははずれの技かと思っていると、ストーンリザードが塵となって消滅した。


 は? 何が起こった?


 いや、間違いなくランダムブレスの作用だろうな。闇系ってこんな異常な感じの能力なのか?


 と、とりあえず次に行こう。


 まだこちらを補足していない隠密しているストーンリザードを発見するのは難しいもので、すこし時間がかかってしまった。次を見つけたので、またも魔法陣を呼び出す。


 【闇】【火力特化】【遠距離】。


 まさかの3つのうち2つが連続で来るとはな。とりあえず発動させてみるか。魔法陣から先ほどよりも禍々しい闇の奔流がストーンリザードに直撃する。


 真っ黒く変色したストーンリザードは塵となって消えて行った。


 やっぱ闇めっちゃ怖いわ。どす黒く変色させられるわいつの間にか死んでるわとか怖すぎるだろ。俺は絶対にくらいたくないね。


 お、魔石落ちてる。これで2個目だな。魔石のドロップ率はそんなに高くないと事前の調査で聞いていたし、これはありがたい。探索者協会青森支部に今度換金に行かないとな。


 レベルは……お、11になってる。<成長補正>さまさまだよな。本来ならレベル10にすらこんな速さではたどりつかないようだし。


 さて、次もランダムブレスでやるか……。


 そういえば探索者って皆技の名前とかあったりするよな。でも、俺のスキルで名前を読み上げるとしたらランダムブレスだけだし、ランダムブレスって読み上げると知性がある相手にはランダム攻撃だっていうのがばれるわけだ。


 カモフラージュとして全部の組み合わせに名前を付けるべきじゃないか?


 とりあえず今までに見たやつに名前を付けてみるか。それから考えよう。


 まず一番最初に見たのは【風】【火力特化】【遠距離】だな。あれは見た目風の刃だったし風刃とかでいいだろう。


 次は……。


「おっと、そういえばここはダンジョンの中だった」


 飛んできた石のつぶてを剣で弾き敵を見据える。名前を考えるなら帰ってからだな。


 魔法陣を作り上げ先ほどまでと同じように魔力を込める。


「え、速」


 俺自身引くほどの速さで、レーザーのようなものがストーンリザードを貫通した。


 それもそのはず。今回の組み合わせは【光】【火力特化】【遠距離】。


 遠距離多いな。広範囲なんて一回も見てないぞ。


 脳天を貫かれたストーンリザードは塵となる。


 よし、この調子でレベルを上げて行こう。今日中にレベル12、もしかするとレベル13までたどり着けるかもしれない。


 そう考えるとがぜんやる気が出てきた。よし、狩って狩って狩りまくるか。


◆◆◆


 そうしてあの後5体ほどのストーンリザードを討伐したところ、レベルは12になり、魔石が1個増えた。


 悪くない。現在時刻は午後4時と少し早めだが今日はこれで切りあげて冬休みの宿題をやろう。俺も高校生の身分なので、宿題はしっかりやらねばなるまい。


 地図を見ながら帰りの道を歩いていると、なぜか地図には載っていない脇道を見つけた。


 初心者の探索者としては入らない方が良いのだろうが……。気になるじゃないか。こんな怪しい脇道。


 曲がり角があったら引き返すことにして、俺は意を決してその脇道に入っていった。その道は周りと変わらないような道であったが、湧き水なのか、小さな水の流れができていた。


 狭い一本道をしばらく歩き続けると、水たまり……いうか池のようなものがある開けた場所にでた。


 嫌な予感がする。ダンジョンの中で開けた場所といえば……。


「ギャオオォォ!!」


 やっぱりボス部屋だよね……!


 まるであのネス湖の怪物のような姿をした化け物が咆哮しながら水から首を出す。首だけで3mはありそうだ。


 鑑定。


【シーモンスター】

・Cクラス上位の魔物

・水中戦や、水魔法が強力。

・弱点は火、風、光。


 Cクラス上位だって?


 こいつはかなりまずいことになってるんじゃないか……?


「ギュルアァ!!」


 この魔力っ! 水魔法が飛んでくる!


 大きく横に飛んで回避行動をとる。俺が元居た場所に着弾した水魔法が炸裂し、大きな衝撃波を発生させる。


「ぐえっ」


 俺はその衝撃波に弾き飛ばされ、5mほどの距離を転がった。ステータスが上がってなかったら骨が何本か逝ってたな。


「やってくれたなぁ!」


 俺はランダムブレスで魔法陣を生成する。【氷】【火力特化】【広範囲】!


 悪くない。魔力を通して発動させると、シーモンスターのいる池の半分近くが一気に凍りついていく。


 これである程度動きを封じることができる。続けざまにもう一つ作成していた魔法陣に魔力を込める。


 【雷】【連続】【近距離】。至近距離でこいつをぶち込むっ。


 俺は氷の上をかけ、動きを半分封じられているシーモンスターに接近する。もがきながら放たれる水の塊は全てよけ、大体の射程範囲内に入った。この距離なら、当たる。


「放て! はぁぁぁぁぁ!」


 迸る雷が連続してシーモンスターに命中する。だめだ、やりきれない!


 反撃を警戒してシーモンスターから距離を取る。体から黒い煙を上げながらもいまだに氷からもがくシーモンスター。


 弱点ではないからか、さすがに堅いな。くっそ、衝撃波で吹き飛ばされたとき、思った以上にダメージを負っていた。体中が痛む。


 魔力的にももうあまり余裕がない。次が最後のランダムブレスだろう。


 魔法陣を作成する。


「来た!」


 【風】【火力特化】【遠距離】。最初に見た技の再来だ。この技の名前は……。


「『風刃』!」


 風の刃がシーモンスターに直撃する。


「ギャァァァァッ!!」


 首を切断するには至らなかったが、断末魔の叫びをあげて首から血を流しながらシーモンスターが氷の上に首を落とす。


 やったぞ、これで討伐だ。


 強すぎる。これがCクラス……。


 ああ、ドロップアイテムの確認を……。


 死体が、消えて、ない……? 見ると、首を倒したシーモンスターの顔の前に魔力が集まっていっていた。


 あいつ、生きてやがった! しかもいずれ死ぬから俺を道づれにする気だ!


「ギュアァッ!」


 この魔力、最初の炸裂する水弾!


「させるかぁぁぁぁ!」


 俺は全力で肉薄し、最後の搾りかすともいえる魔力で魔剣に火を灯し、首に振り下ろす。


「うおぉぉぉぉぉぉ!!」


 体中の力をすべて剣先に集中して、押し込む。


「ギャァァァァ!!」


 ついにシーモンスターの首が宙を舞った。

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