最終章 人への旅立ち#5
あの手紙を王様へ献上した後、ウィリアン様はこの森は王様による加護を頂いたとか言っていたけど…
あの頃を境に平和な日々がずっと続いている…けど、僕は時々胸がざわざわするんだ。言葉には出来ないけど、小さな事の積み重ねが、特に、ミレがこの森に来てからは…
゛トン、トン!゛「わっ!」
「ミレとシルバでーす!入ってもいい!?」
「どうぞ…」
頭に浮かべていた顔がドアから出てきて心臓がドキドキしている…
「朝ごはんのときぶりだね!実は今日のパンって私が作ってみたやつなんだけど失敗した気がしてー!あんまり味無かったかな!?」
「…まぁまぁだったよ。」
「レオ、その言葉選びは味気ないな。」
「…シルバ、今のはジョークか?」
シルバがこんな事言うなんて、最近雰囲気が変わったっていうか、ミレのせいか?ミレは確かに、外から来た魅力的な人間ではあるけど…
「別に、それより話があるんだ。今ウィリアン様は化け物を倒す為に手を尽くしてる。あの人は、僕らの助けは必要ないって言うけど、それでも何か出来る事はあるはずだ。それをミレと一緒に相談していたんだけど、今助けになるのはレオしか思いつかなかった。」
やっぱりシルバは変わったのか?今まで単独行動ばかりして、人に手助けを乞うことなんて無かった奴なのに‥
「‥僕も、何か出来ないかって、本を読んで考えをまとめようとしてたところなんだ」
「私達って気が合うねー!何の本読んでたの?」
「『愛は彼方へ行った』…ううん、これは…昔の王様が小説おたくで、その影響で自分で書き始めて、ついには権力を使って出版、各家庭に一冊は買うよう強制してベストセラー入りした前代未聞の本なんだけど…内容は…」
「どんな話なのー?」「………」
ミレは知らないんだ…そうだ‥三十年は昔の話だ‥見た目は僕達と同い年ぐらいでも、身体の中に流れている年月は違うんだな…
「読んだ方が解りやすいよ。…ミレにあげるよ。」
「え!?いいの?ありがとう!今読んでもいい?」
「いいよ。シルバ、僕らは僕らで何か無いか探そう。」
シルバはうなづいて、本棚を触っていいかたずねた後丁寧にいくつか本をめくっていった。
闇市で手に入れた本は元々ボロボロなことも多いから、他のみんなはあまり大事にせずに使い捨てみたいに扱うけど、シルバは多分本が好きだから僕の気持ちも理解してるのかそんなことはしない。
こいつは僕より無愛想で何を考えてるかよく分からない奴だけど、こういうちょっとしたところは気が合う。
「…森の奥にいる魔物達って、見た目は普通の動物達と大きな違いはないと思う?」
手にしていた本をゆっくり閉じながら、シルバはいつになく真剣な視線を向けてきた。
「そうみたいだよな。」
「襲われた二人に話を聞けば大体どんな動物なのか見当がつくと思う。今から行かないか。」
「さっきまで二人の世話をしてたんだ。今はクロデアが見てくれてるけど…」
「クロデアが?」
「と、いっても二人共今は寝てるから、側に座ってるだけだよ。‥それでも前のあの子からは考えられない事だけど。しばらくしたら戻るって伝えてたし、行こう。」
実は…最初に混乱しながら喚いていた二人をなだめて話をきいたら、そもそもよく見てはいないし、今までに見たことも無い生き物だった、って言ってたんだ。でも僕は、臆病だし言い出せなかった…。
「ん?どうしたの!?二人ともどこ行くの!??」
「ルルカとリージャに話をききにいくんだ。ミレはそのまま読んでくれてていい。」
「読むのやめて私も行くー。この本、主人公の自慢話ばっかりだもん」
さすがのミレでさえ、僕と同じ感想だったな…
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