トークティークラブ

@bbggbb

第1話 茶談部

紅茶の香りがする。


6月の末頃。

今朝未明から降り続いていた雨が止み、陽の光が水滴をガラス玉のように照らす。

梅雨も明けへと向かいつつあり、鈍色の空の隙間から深い藍色が顔をのぞかせる時期になった。

ここのところずっと立ち込めていた貼り付くような湿気と寒さは掻き消え、まさしく初夏の訪れを思わせる、涼しくて爽やかな雨上がりの風が校舎内にも吹き抜ける。

廊下に貼られている部活動の活動要項が風に棚引いた。

高台にあるこの緋葉ヶ枝高校は風通しが良い。

ほんのりと海風の匂いもした。


青春。


その2文字を現したかのような、月曜の昼下がり。

そんな中、俺は部活棟に向かって歩みを進めていた。

ふと見上げてみれば、雲の速度が異常に速い。

半永久的にめまぐるしく変化し続けているかの様にさえ思えた。

吹き曝しの渡り廊下の石床が、わずかに湿っている。

部活棟から軽やかなピアノの速弾きが聞こえて来る。たまに聞こえて来る演奏だが、軽音楽部とかだろうか。

そんなことをぼんやり考えながら棟内に入る。

部活棟の中は少しひんやりとしていた。

中央階段を目指し、活動中の教室の前を横切る。

部活棟は旧校舎の流用なので、部活動の為に作られた個室というよりは、元教室の部屋に部活動が一つずつ入っている感じの教室だ。

防音性とかは皆無でー…漫研が荒ぶっているのが聞こえて来たりする事もある。

上へ上がって行けば行くほど人気は無くなり、最上階である5階にまで来るとピアノの速弾きの音さえも遠くなって残響の様だ。

5階の教室のほとんどが運動部活動用の倉庫として使われているためか、全体的に埃っぽい様な気がしないでもない。

廊下を進み、突き当たりで立ち止まる。


『茶談部』


そう印刷されたプラカードが一枚、無造作に入り口のドアに張り付かられてある。

特に躊躇することなく、ドアに手をかけて引き戸のドアを開ける。

「うぃーす…」


紅茶の香りがした。


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