第5話
部屋に戻り、メイドも下がり、1人になる。
家業のことはさておき、今の私は幸せだ。
両親も優しく、私を守ろうとしてくれているのが伝わる。
2人の兄もそれぞれの可愛がり方で私を想ってくれている。
だけど、ゲームには私という妹はいない。
どうして?
初めからいなかった存在なのか、ゲームが始まる前に何らかの事情でいなくなったのか…。
そんなことを考えながら目を閉じ、私は夢を見た。
「え~、設定集買ってないの?」
「うん。来月発売される違うシリーズの新作の為に我慢しなきゃって。」
「だったら、彼の過去は?」
「過去?」
「ユースフ様があんなに冷酷になった理由よ。」
「え、何それ。理由なんてあったの?」
「あるよ。だって、小等部からの同級生がユースフ様は怖くなったって言ってたから、裏設定あるのかなって言ってたじゃん。」
「本当に裏設定もあったの?」
「もう、仕方無いなぁ。設定集、貸してあげるから。」
友達なのかな?
その彼女から借りた設定集。
そこに私・チェルシーがいた。
思いっきりモブじゃん。
「読んだ?」
「うん。読んだ。昨日借りてから何回も読んだ。」
「悲しい過去があったでしょ?」
「うん、あったね。」
悲しい過去…?
「妹のチェルシーを王家に暗殺されてたんだもん。
暗殺の仕事をする家なのに守れなかったって、ずっと悔やむに決まっている。
そりゃ、闇の力使うよね。」
「でしょ?王族を恨むのもわかるよね~。ジェイクも協力してたしね。」
「だって溺愛していた妹って書いてあるもん。」
「でもさ、どんなに気をつけてても、学院の中じゃ無理だよね。
それも妹は小等部で、兄2人は中等部ならね。」
「ジェイクはそれをわかってて宰相の息子のニキータに近づいたんだね。」
「うわー、裏設定えげつないよね。この兄弟推しが増えるはずだよ。」
そこで私は目を覚ました。
ガバッと起きて、今夢の中で友達らしき人と話していた裏設定を整理しようとするが、心臓がバクバクと鳴っている。
落ち着いて考えるのよ、私。
まず、ゲームの世界に私チェルシーは確かにいた。
でも、攻略対象者であるユースフ兄様とヒロインが出会った頃、その時には私はもう存在していなかった。
だからゲームをプレイしていた頃のことだけを思い出した時は、チェルシーの名前に覚えが無かった。
だけど、結構な値段で発売された設定集にユースフ兄様の裏設定が詳しく載っていた。
チェルシーは王家の目論みにより、暗殺された。
きっと宰相も関わっている。
どういうこと?
どうして暗殺されたの?
暗殺された理由までは書いてなかった。
だからこそ怖い。
私の将来が危ないのだ。
だって、あのお父様とお母様がいるのに、学院で暗殺されるなんて…。
◇
私はちゃんとゲームの内容を整理した。
『蝶舞うリュミエールを君に』という口に出すのは恥ずかしいタイトルのゲーム。
プレイしている人は「リュミエ」って簡単に呼ぶことにしていた。
ヒロインはリリアン・プルメリア。
子爵家の庶子という設定であり、光属性を持つ癒やしの乙女。
そうゆう設定だ。
彼女の光の力に皆が魅了されていくっていうありがちなストーリー展開。
このゲームには攻略対象者が続編も合わせると7人だ。
1人目の攻略対象者。
リカルド・エキノプス第1王子。
タイトル画面でも大きく描かれていたので、彼がメイン攻略対象者なのだろう。
たしか、宰相の娘であるマカレナ様と婚約していた。
彼女がこのゲームの悪役令嬢だ。
2人目の攻略対象者。
宰相の息子であり、第1王子の側近となるニキータ・ウィロー侯爵令息。
彼はヒロインに魅了され、妹であるマカレナ様を虐げていく。
そんな彼には婚約者はいなかったが、驚くなかれ、私の兄であるジェイク兄様が彼のお相手という設定なのだ。
いわゆるBL的な設定で、ジェイク兄様は悪役令嬢ならぬ、悪役令息としてヒロインと対峙する。
そういう未来になるのは…ちょっと嫌だな。
3人目の攻略対象者。
ミハイル・ダリアは隣国のダリア王国第2王子。
我が国へ留学中にヒロインに魅了され、この人のルートに入れば、ヒロインを巡った戦争へと発展してしまう、こちらも避けたいルートだ。
4人目の攻略対象者。
ケリオスはヒロインのいるプルメリア子爵の執事だ。
庶子であるヒロインが周りから虐げられるのを助けるうちに惚れてしまう。
まぁ、私には関係の無いルートだ。
5人目の攻略対象者。
ダリス・プロテア子爵家令息は騎士団所属であり、父の直属の部下だ。
第1王子の近衛を務めている時にヒロインの優しさに触れ、ヒロイン欲しさに謀反を企てる。
父にとっては部下を失うルートだけど、私にはこれまた関係ないので、推奨するルート。
6人目の攻略対象者。
ルシウス・ガーデニア侯爵令息。
彼は学院長の息子であり、教師を務めている。
成人の対象者はダリスと一緒だけど、筋肉ばかりのダリスと色気ダダ漏れのルシウスは違った魅力があり、ファンからは推されていた。
まぁ、ヒロインとくっついても、これも大丈夫なルート。
そして7人目。
続編に出てくるのは大人な魅力を持つダリスとルシウス、そしてユースフ兄様。
ユースフ兄様を攻略するのは本当に難しかった。
何せ、光と闇という対峙した属性を持つ2人ですからね。
だけど根気強く、いろんなミニゲームで高得点を取りながら、やっとの思いで攻略できた時は部屋の中で叫んでしまった程だ。
そんなユースフ兄様が闇を色濃くした理由。
それがチェルシーの暗殺であり、王家との確執、そして宰相への恨みに繋がる。
その宰相の息子に近づくのがジェイク兄様だから、続編までプレイし、設定集も買わないとシスル家の事情はわからなかった。
◇
私が暗殺された理由が、転生チートだと思っていたこの多種属性や魔力量だったとしたら?
チェルシーはチートうんぬんではなく、本当に希少な存在だった。
それを両親は王家に隠し、兄達も守った。
だけど、どこかから漏れて反逆を疑われたとしたら?
うん、あり得るわ。
どんなに両親が隠そうとしても、学院に行けばいずれ気づかれてしまう。
だったら、それを隠せるぐらいの力を付ければいい。
ユースフ兄様だって私の悲劇があってから鍛錬を強化し、学院では誰も気づかず、裏家業をやってのけていたもの。
だったら私だって兄達と同じように鍛錬して、自分の力を隠せば暗殺されることは防げるかもしれない。
私は小等部に入るまでの2年間、あのお母様から「そんなに無理をしなくても…。」と言われるぐらい勉強に打ち込み、剣術も処世術も鍛えた。
そうして、7歳の年を迎えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。