20. 世界樹へあいさつに行こう
一袋分の小麦粉がすべてパンになり、クーオが帰っていった頃にはすっかり日が落ちていた。
寝泊まりしている小屋にはクーオがくれた照明があるので夜でも灯りが灯せるようになっている。
とはいえ、特にやることはないし、食事が終わったら寝るだけなんだけどね。
「バオア、明日は世界樹の枝へあいさつとお礼に行きませんかにゃ?」
「世界樹の枝に?」
「この森が世界樹の森だということは前にも話しました通りにゃ。その時に、世界樹の森には世界樹の枝があることも話したはずですが覚えていますかにゃ?」
「うん、覚えてる。でも、そんな簡単に世界樹の枝へ行けるの?」
「吾輩たちでしたら簡単ですにゃ世界樹の森に招かれている客人は、望めばすぐにでも世界樹の枝へと行けますにゃ。邪な心を持たず、世界樹の枝に行く理由があり、世界樹の枝へ行きたいと願えば割と近くにありますにゃ」
なんだかありがたみのない話だ。
でも、よく聞いてみると結構怖い話だったりする。
邪心を持った者が奥まで入り込めば帰らずの森になり、逆に清らかな心の持ち主が助けを求めてやってくれば優しく迎え入れてくれる、そんな場所らしい。
ホーフーンがなぜ来ていたのかというと、世界樹の森の周りには凶悪な魔物が棲み着かないので浅い部分を旅していたらしい。
ホーフーンは僕の助手としてここにいるのであり、僕と別れて森を出ていけばすぐに森の外に出るし、二度とこの場に足を踏み入れることが出来なくなるだろうとのこと。
もっとも、ホーフーンとしても『農業機器』スキルがどこまで成長するのか見定めるまでは旅立つつもりはないそうだ。
クーオとの連絡の取り方も僕はわからないし、ホーフーンがいてくれて本当に助かるよ。
翌朝、朝食を取って身ぎれいにしてから世界樹の枝に向かって森へと入る。
お供え物は昨日焼いたパンだ。
世界樹のような自然神の類いは人が加工したものを好むらしい。
世界樹は植物の神でもあるし、小麦粉から焼いたパンが一番いいだろうということになった。
世界樹の森は相変わらず不気味なまでに静まりかえっている。
ホーフーンに聞いたけど、動物どころか虫も住み着かないそうだ。
正確には傷つき弱った動物などはいることがあるらしいが、そういった動物は僕たちとは隔離されているらしい。
なので、僕たちが出会うことはないみたい。
作物を荒らされる心配がないのはいいけど、今後生物が必要になった場合はどうなるんだろう?
ホーフーンが言うには、そうなったときに世界樹と相談らしい。
かなりアバウトだけど、世界樹の森はそれだけ神聖な領域ということだ。
小屋を出て6時間ほど、丁度太陽が真上に来る頃、僕たちは世界樹の枝へと到着した。
『世界樹の枝』は『枝』と言うけど他の木なんて目じゃないくらいに太くて長い。
両手を広げても端まで届かないし、てっぺんは見えないほど背も高い。
これで『枝』なんだから『本体』はどれだけすごいんだろう。
僕が呆気にとられているとホーフーンが地面に敷物を敷き、手早くパンを並べ始めた。
ホーフーンはこれを見ても驚かないんだろうか?
「ホーフーン、もう準備を始めているの?」
「はいですにゃ。あまりのんびり待たせてもいけませんのにゃ」
「でも、こんな巨木があるのに、ホーフーンは平然としているね。驚かないの?」
「まあ、慣れましたにゃ。この木も何度か見れば、そういうものだと思うようになりますからにゃ」
そういう問題なんだろうか?
ホーフーンは地面にパンを並べ終えると、その後ろで跪いた。
僕も慌ててそれに倣い、跪く姿勢をとる。
これでいいのかな。
「準備は出来ましたにゃ。世界樹の精霊様、おこしくださいにゃ!」
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