3. 『世界樹の森』の加護
食料を探し始めて30分ほど、今日一日食べる分には十分な量の果物が集まった。
集まった果物も色とりどり、多種多様で食欲をそそる。
でも、こんな簡単に採れてもいいんだろうか?
「さて、食料はもう十分でしょうにゃ。とりあえずご飯にしますにゃ。バオアは空腹で仕方がないでしょうからにゃ」
さっきお腹が大きく鳴ったし、それはばれてるよね。
どれくらいの間食べていないのかもわからないし、とにかく目の前に新鮮な果物が並んでいると急に空腹感が強くなってくる。
でも、本当にこれを食べても大丈夫なんだろうか?
毒とかはないよね?
「ひょっとして、その果物が食用に向くかどうかわからずためらっていますかにゃ?」
「そうだよ。いきなり見たこともない果物を食べるのは、お腹が空いていてもちょっと……」
「それなら心配無用ですにゃ。吾輩のスキル『解析』で毒もなく栄養価も高い食用に適した果物だと判別されていますにゃ」
「ホーフーンのスキル?」
「はいですにゃ。わかりやすく言えば、どんなものでも見抜くスキルにゃ。毒がないのは保証しますから食事にしましょうにゃ」
ホーフーンは持っていた果物を口に運んでかぶりついた。
すると、特に気分を害した様子もなく、むしろ美味しそうに果物を食べている。
本当に毒はないのかな?
僕も一口食べてみよう。
果物を一口頬張ると、甘い果汁が口の中いっぱいに広がった。
果物そのものもすごくみずみずしいし、甘くて美味しい。
「美味しい……」
「だから吾輩のスキルを信じればいいと言ったのにゃ」
「ごめん、ホーフーン」
「気にすることはないのにゃ。誰だって見たことのない食べ物には警戒するものにゃ」
僕はそういうものだと納得して残りの果物を食べた。
お腹がいっぱいになったところで手を止めたけど、集めた果物の半分程度を食べてしまったようだ。
相当お腹が空いていたんだな。
残った果物は革袋を持っているホーフーンが預かってくれるようだ。
「いやあ、いい食べっぷりでしたにゃ。よほどお腹が空いていたんですにゃ」
「僕もビックリした。こんなに食べられるなんて思わなかったよ」
「さて、食事も終わりましたし疲れを取るために一眠り……と言いたいところですが、さすがに森の真っ只中で眠るのはよくありませんにゃ。見たところ、防寒用のマントさえ持っていないようですからにゃ」
うん、ボロの服に着替えさせられた他は着の身着のまま投げ出されたからね。
物を持ち歩くための袋すらないんだから困りものだ。
「森の中を探せば仮宿に出来そうな居住地が見つかるかもしれませんにゃ。というか、『世界樹の森』から嫌われていなければ、確実にふさわしい場所へと案内してもらえるはずですのにゃ」
「ふさわしい場所って?」
「まあ、その人の特技が活かせそうな場所ですにゃ。どんな場所かは行ってみてのお楽しみになりますにゃ」
「曖昧だななぁ」
「仕方のないことですにゃ。吾輩は森の中で暮らせたので、特になにもない木のうろで生活しておりましたが、バオアは違いますにゃ」
「そうだね。さすがに木のうろで生活するのはちょっと」
「というわけで、新しい居住地が用意されていないか探検ですにゃ」
「わかった。案内してもらえるかな、ホーフーン」
「はいですにゃ」
ホーフーンは迷うことなく森の奥へと足を踏み入れていく。
僕もホーフーンに遅れないようについていった。
森の中は木々が生い茂り生命力を感じさせる。
森の外からはおどろおどろしい感じを受けたけど、森の中に入ってからはそんな気配を一切感じない。
むしろ歓迎されているようにすら感じる。
『闇の樹海』と言えば、木の一本すら切り出せない恐ろしい森だと聞いていたんだけど、本当にここは『世界樹の森』なんだろうか。
「む。着いたようですにゃ」
「そうなの?」
「森が開けてきましたにゃ。おそらく目的地に着いたはずですにゃ」
「そっか。せめて寝るのに困らない場所があればいいんだけど」
「大丈夫だと思いますのにゃ。さて、どんな場所が用意されているのでしょうかにゃ?」
ホーフーンと一緒に森を抜けると、そこは背の低い草が覆い茂った平原だった。
馬車が通れそうな道も整備されており、ある種、人の暮らす街の近郊にあるような草原にそっくりだ。
これは一体?
「ふむ。そう来ましたかにゃ」
「ホーフーン?」
「世界樹の森はバオアのスキルに相応しい場所を用意してくれたようですにゃ」
「僕のスキル?」
僕のスキルといえば『農業機器』だけど、ホーフーンはこれについても何か知っているのだろうか?
猫の賢者とは、そんな知識まで持っているのかな。
「まあ、今日のところはゆっくり休むとしましょうにゃ。あそこに休むのにはよさそうな小屋も用意されておりますにゃ」
「本当だ。これが世界樹の森」
「そうなりますにゃ。欲張らなければ暮らしていけるだけの環境を与えてもらえるのがこの森ですにゃ。ともかく、今日一日はゆっくり休むとしますにゃ」
「うん。そうさせてもらうよ」
ゆっくり休める場所が見つかったと思うと急に眠くなってきた。
いままでは緊張の糸が張り詰めていたから気にしなかったけど、非常に体が疲れていたみたいだ。
もう休むことしか考えられない。
早く、あそこの小屋に行って休もう。
ホーフーンの言っていたスキルについての話は明日だ。
ああ、ゆっくり休めるなんて素晴らしい。
_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/
_/_/_/_/_/ホーフーン
さて、バオアは泥のように眠ってしまいましたにゃ。
よほど疲れているようですにゃ。
吾輩が近づいてもまったく起きる気配がないのですからにゃ。
「『解析』」
吾輩は至近距離でスキルを発動させたのにゃ。
この『解析』というスキル、どんなことでもわかる代わりに距離が近ければ近いほどわかることが多いという性質を持っていますのにゃ。
要するに離れた場所からスキルを使うとそれなりの情報しか得られませんのにゃ。
「……ふむ。やっぱり興味深いのですにゃ」
バオアのスキルを調べ終わると吾輩はゆっくりとバオアのそばから離れましたのにゃ。
急いで離れてバオアを起こしては悪いですからにゃあ。
「さて、明日からはスキルを実際に使っての作業。どこまで行けますかにゃ」
スキル『農業機器』のことを調べる限り、熟練度が上がることによって出来ることが増えるレベル制のスキルですにゃ。
低レベルのうちに出来ることで本当に『農業』が出来るのか、楽しみですにゃあ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます