2. 追放先での出会い
「おら、着いたぞ! さっさと馬車から出ろ!」
僕は檻のようになっていた馬車から蹴り出される。
ここは聞くまでもなく『闇の樹海』の入り口だ。
昼間でも日光を遮って薄暗い森の中は、一層の不気味さを際立てている。
「じゃあな。開拓作業、頑張れよ」
「あの! 道具や食料は!?」
「そんなものねぇよ。身ひとつで頑張りな。あばよ」
本当にパンひとつよこさず、僕を運んできた馬車は走り去ってしまった。
僕の服は屋敷で着ていたものからいつの間にか着替えさせられており、一般的な平民が着るような服になっている。
いや、あちこちに継ぎ目がある分、それよりも更にひどいか。
母譲りのブロンドヘアーもくすんでいるだろうし、緑色の瞳も何色になっているかわからない。
僕は途方に暮れたけど、このままここで立ち尽くしていてもなにも始まらないことはわかっている。
意を決して『闇の樹海』の中へと足を踏み入れてみた。
樹海の中は外から見ていたときよりも明るく、木漏れ日も差し込んでおり割と歩きやすい。
やっぱり森の中なので木の根などが張り出しているところもあるけど、気をつけながら進めば足を取られずに済んだ。
それにしても、外から見たときはあんなに薄暗く不気味に見えた森が、こんなに明るい気配を感じさせるのはなんでだろう?
ともかく、生き残るためにも食べられる木の実や山菜を探さないと。
あと、安全な寝床探しも必要かな。
野生動物や魔物がどれほど生息しているかわからない以上、ゆっくり休める寝床は大切だ。
優先順位としては食料探し、寝床探しの順かな。
食料を探す途中で安全そうな場所を見つけたらそこを寝床として使ってもいいけど。
覚悟を決めて歩き出すこと一時間程度、森の奥深くへと入って行っている気はするが動物や魔物には遭遇していない。
この森には生息していないのか?
まさかそんなことが……。
「ちょっと、そこ行くエルフのお兄さん。どうしたのにゃ?」
「え?」
「こっち、こっちですにゃ」
木の上の方から声がするのでそちらを見上げると、赤いローブに身を包んだ一匹の猫がいた。
猫と言っても小さくかわいいものではなく、僕の身長の半分くらいはありそうな大きな猫だ。
あれって妖精族のケットシー族かな?
妖精族を見たことがないので詳しくはわからないけど、そんな気がする。
「ヒト族がこんなところに来るなんてなんの用ですにゃ? 普通のヒト族はこの森に立ち入ることはないはずですにゃ」
「ああ、えっと……」
「話せないような用事ですかにゃ?」
「話せないというか、話してもしょうがないというか……」
「にゃ? とりあえず話すのにゃ」
僕はケットシーに促されるまま、スキルを授かった日のことを話した。
それを聞いたケットシーは怒りだしてしまう。
僕に怒られてもなあ。
「にゃ! やっぱりヒト族は身勝手で傲慢なのにゃ! 信用できませんのにゃ!」
「いや、僕にそれを言われても」
「それもそうですにゃ。おっと、吾輩としたことが木の上から話すなどはしたないことをしていましたにゃ。すぐに降りますにゃ」
そう言ってケットシーは木の上から飛び降りた。
地面に降りたケットシーはやっぱり僕の腰くらいの背丈しかない。
これがケットシー族の標準なのかな?
「自己紹介が遅れましたにゃ。吾輩はホーフーン。ほかのケットシーからは『猫の賢者』となどと呼ばれておりますにゃ。どうぞ、よろしくですにゃ」
「あ、僕はバオア。よろしくね、ホーフーン」
自己紹介が終わったところで僕のお腹が盛大に音を鳴らした。
そういえば、馬車で移送される間もなにも食べてなかったな。
気絶している間に運べる距離じゃないし、眠り薬かなにかを使われていたんだろう。
「どうやらバオアはお腹が空いているようですにゃ。自己紹介も終わりましたし、食料を探しに行きましょうかにゃ」
「食料を探すって……。そんな簡単なことじゃないよね?」
「簡単なことですにゃ。ここは『世界樹の森』。
ええっ!?
この森が伝説に出てくる『世界樹の森』だって!?
僕らはずっと『闇の樹海』と呼んでいたのになんでそんなことをホーフーンは知っているんだろう?
妖精族だからか、『猫の賢者』だからなのか。
どちらにしても、食料と寝床が本当に見つかるなら助かるな。
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